精神鑑定に異議「妄想とされ減刑より 事実認められ死刑に」
「私は人を3人殺しました」
この日の裁判では被告人質問が行われ、河野被告は進んで発言をした。
「刑を軽くしたいとかではない。『電磁波攻撃』など何があったのかを明らかにしたい」
「鑑定を担当した医師は、私を妄想型統合失調症で心神耗弱状態であると診断したが、認められない」
「妄想で頭がおかしいと言われ無期懲役になるのではなく、責任能力があると判断されて死刑になっても悔いはない」
「『あの裁判から変わった』と認められたい」
主張は「電磁波攻撃は存在する」という点で一貫していた。しかし、自身が「電磁波攻撃」の被害を受けるようになったきっかけや、その怒りの矛先が岩田健一さんに向けられた理由についての説明は、明快さを欠くものだった。
「2017年2月ごろに、ネット掲示板の書き込みを見て『おかしい』『これは私のことだ』と感じるようになった」
「健一にしか分からないことが書き込まれていた」
河野被告は、犯行に至ることになった体験について数多く証言した。
駅前で、隣に立った面識のない女性が、自身にスマートフォンのカメラ部分が向けられたことについて、撮影されたのだと感じ「大きな『組織』による攻撃の一環」だと感じて恐怖を覚えたこと。
勤務先の工場で、前方からやって来た人物が、河野被告とすれ違うタイミングで腕時計を見た行動に違和感を覚え、その後に見たネット掲示板に「負け犬」と書き込まれていたことが、自身を非難するものと考えたこと。
道路で死んでいるネコを見かけた数日後、同じくネット掲示板でネコの死骸に関連する書き込みを見つけ、自身の生活が監視されていると感じたこと。
そして岩田健一さんと通話した際、健一さんの発した何気ないひと言に「健一さんはネット掲示板に書き込みをしている人物だ」と感じたこと…。
あらゆる出来事が、河野被告にとって「電磁波攻撃による被害」を補強する材料になっていった。会話も行動も全て監視されていて、筒抜けになっているのではないか。河野被告は懐疑心を深めていく。
「『電磁波攻撃』が強いと、寝ていると苦しくてたまらなくなる、そして独特の焦げ臭い匂いがする」
布団から起き上がった河野被告は、カーテンのかかった窓に目をやる。すき間から差し込む光に反射したホコリが見えた。河野被告は、ホコリが電磁波で焼かれる匂いなのだと感じた。
正体の見えない巨大な「組織」が主体となって行う「電磁波攻撃」、それに何らかの形で関与している岩田健一さん、という構図を描き、確信を深めていくようになった河野被告。恐怖から、護身用の包丁を持ち歩くようになる。体調を崩して仕事ができなくなる日も増えていく。絶望を覚え、自殺を考えるようになる。同時に、事件を起こすことについても思いを巡らせるようにもなった。思いはひたすらに堂々巡りして、結論は出なかった。
所持金が底を突きかけたあの日、岩田健一さんと目が合う時までは。
弁護士から「電磁波攻撃が行われた目的」について問われた河野被告は、次のように答えた。
「色々な手口で人をおとしめる、潰すつもりだったのだろう」
「ただ…。時々、今となっては、思い込みだったのかもと思うこともある」