「私は今でも被害者。謝罪は拒否します」

主尋問に立った検察官。責任能力の程度を推し量るような質問を、淡々と重ねていく。その背後では、被害者参加制度で参加した遺族が、河野被告に鋭い視線を向けている。

事件発生から裁判に至るまで、遺族に対して謝罪の言葉が一切無かった河野被告に対し、捜査を担当して向き合ってきた立場の人間として、何か思うことがあったのかもしれない。一通りの尋問を終えた検察官が、少し間を空けると、再び質問を投げ掛けた。

―――3名の命を奪ったことについて何か考えた?
「考えはしますね」

長い沈黙が続いた。

―――命を奪わなくても良かったとかは?
「健一とかだけだったら良かったと思います」
―――父親の友義さん、母親のアイ子さんについては?
「見つけたところが違っていたら(殺害することは)無かった。あの場では、そうせざるを得なかった、止めに入られてしまった以上は」
―――健一さんやご両親、ご遺族に対してどういう風に思っている?
「辛い思いをさせてしまっただろうなと…」
―――もう少し話せますか?
「私は健一さんが(電磁波攻撃に)関与していたと間違いなく思っていたから、何度も我慢して、警察にも行って…。全面謝罪という気はない。この場で謝罪することはやめておく」

検察官は、その職務を遂行するために、反省の色を示すことを頑なに拒む河野被告の姿勢を立証しようとしたのだろう。しかし記者には、あるいは遺族のために「謝罪の言葉を引き出そうとしている」ようにも見受けられた。

―――捜査段階では謝罪しないと供述していたが、今はクールダウンしたと思う。謝る気持ちはありますか?
「この場で謝るのはやめておこうと思います」
―――ご遺族の方も聞いている。とにかくひと言でも謝罪はできないか?
「はーっ…(ため息)」
―――無条件に謝罪はできないのか?
「二枚舌になりたくないので。死刑覚悟でやったことなので。拒否します」
―――謝罪しないということですか?
「私は今でも被害者だと思っている。拒否しますね。死刑となっても拒否します」

そして河野被告は、検察官への質問を申し出たが、裁判長から制止され、検察官の主尋問は終わった。