日本でただひとつの点字新聞「点字毎日」。創刊は大正11年(1922年)、戦時下も発行を続け、ラジオやテレビよりも長い歴史があります。その記事を書いている全盲の記者を取材しました。
「特別な新聞」“30万人”の読者へ ほとんどがオリジナルの記事

大阪に住む佐木理人(あやと)さん(50)。妻の佳哉子さんとは結婚して23年です。
喜入友浩キャスター
「家庭ではどんな人ですか?」
妻・佳哉子さん
「ただのおじさんやな」
佐木さんは新聞記者をしています。

「ピアノの静かな音色が聞こえてきた。昨年3月亡くなった世界的な作曲家・坂本龍一氏の代表曲『戦場のメリークリスマス』の自動演奏だ。吸い込まれるような旋律に『いつまでも聴いていたい』と聴き入ってしまった」
これは東京の楽器店での取材をもとに書いた記事。佐木さんの記事はある「特別な新聞」に掲載されます。

毎日新聞社が発行する日本でただひとつの点字新聞「点字毎日」。毎日新聞の記事を点字に訳したものではなく、その多くが点字新聞のために書かれたオリジナルの記事です。

全国におよそ30万人いる視覚障害者に向けて、戦時中も発行を続け、その歴史は100年を超えます。
そして、佐木さん自身も…
佐木さん
「私は生まれつきの緑内障で中学生のときにほとんど目が見えなくなって、今は光も全く分からないです」

この日は大阪から新幹線で東京へ。日本全国ひとりで取材に向かい、地下鉄の乗り換えもひとりです。この日は駅構内で、他の利用者とすれ違いざまにぶつかる場面もありました。
佐木さん
「ぶつかることは割とある。どうしても人の流れと逆行する部分もあったりすると思うので、気配を感じたら注意をするようにしている」

スマートフォンの音声
「誤った方向に進んでいます。後退5m」

これは点字ブロックに貼られたQRコードを読み取ると、乗り換え先まで音声で案内してくれるアプリ「shikAI(シカイ)」です。
視覚障害者も楽しめるという楽器店「ヤマハ銀座店」で、佐木さんの取材が始まりました。

佐木さん「なんか天井が高いですよね」
ヤマハ担当者「そうですね」
喜入キャスター
「(天井が高いと)なぜ分かったんですか?」

佐木さん
「肌に感じる空気感がふわっと広がったような感じがした。おそらく天井が高いのかなと」

佐木さん
「目の見える記者であれば、写真を撮って後で見返すことができるんですけれど、私はそういうことがやっぱりできないので、触れるものは何でも触り、体験できることは何でも体験して。分からないことは分かったつもりにならないで、細かく聞いて自分の中で理解をして、体に染み込ませるという取材スタイルです」
そして、こんな質問も…

佐木さん
「ちなみにおいくらくらい?」
「一番高価なものでおいくらくらい?」
「おいくらくらい?」
「いかほどで?」
佐木さん
「見えている方は値札を見たりしてすぐに確認することができますけど、私はそれがやっぱりできないので、『これなんぼ?』みたいな感じで、許してもらえるかなと思いながら、ちょっと迫ってみました」