「1週間特番で、平の目線で特集してくれないか」地元が被災した記者として、家族の状況や友人などを取材して欲しいというお願いでした。正直私は嫌でした。こんな状況で、友達や家族を見世物にしたくないと思いました。出来れば何も話したくないと思いました。ただの記者として、取材するだけで精一杯でした。

しかし一方で、記者としてやらなければという思いもありました。能登出身で、以前の姿も知っていて、地元の友人も多い。私だからこそ伝えられることもある。複雑な心境の中、特番では通っていた高校や、友人の状況を取材しました。大変な状況の中、取材を受けていただいた先生、友人には本当に感謝しています。「見たよ、伝えてくれてありがとう」とたくさんの人からメッセージを頂きました。   

高校生時代によく訪れた珠洲市内のショッピングセンターを取材

マスコミは、節目をつけたがります。1週間、2週間、1ヶ月。「きょうで地震から〇日が経ちました」自分自身もそういう原稿を書きながら少し違和感を覚えます。被災地では、1週間も1ヶ月も関係ありません。節目なんてものはありません。発生から1ヶ月を過ぎるまで、被災地では時が止まったような状況なのにまるで無理やり前に進まされているような、背中を勝手に押されるような気持ちになっていました。記者として原稿に書きながら、これでいいのかと矛盾のような思いを感じていました。

「絶対に忘れさせない」私にできること

地震発生から2ヶ月が過ぎる中で、これから私にできること。テレビ局の記者として能登半島地震を絶対に忘れさせないということです。私は絶対に忘れることはありませんし、もしかしたらこの先「あけましておめでとう」と言葉を交わすことは無いかもしれません。でも、今この瞬間も全国では少しずつ、能登半島地震は過去のものになっています。今は毎日全国ニュースでも取り上げられていますが、発生当初に比べればニュースの尺も短くなっています。それでも伝え続ける、それが私に出来ることです。地震を過去のものにさせないことが、地元にいる友人や家族のためになると思っています。

普段は金沢で生活していますが、能登は私が生まれ育ったかけがえのないふるさとです。違和感や矛盾を感じたり、悩んだりすることはあると思いますが、それでもほかの記者より能登に寄り添う人でありたい。これからも記者と当事者の間で地元のためにできることを考えて伝えていきます。

【調査情報デジタル】
TBSが1958年に創刊した情報誌「調査情報」が2021年、デジタル版にリニューアル。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を発信。

〈執筆者略歴〉
平 歩生(ひら・あゆむ)
1997年   石川県能登町生まれ
2020年3月 金沢大学 卒業 
同年4月 北陸放送入社 報道部配属
警察担当として事件事故を取材し司法キャップを経て
2023年~警察キャップ
2024年1月 能登町の実家へ向かう道中で能登半島地震が発生し被災