授粉業に勤しむ“ハエ”は医療用のウジ虫

長年にわたり、花粉交配用の昆虫に携わってきた中野さん。ミツバチの安定供給を思案していたとき、“ある治療“のウジ虫を生産する会社の存在を知り、助けを求めたという。

その“ある治療“とは、「マゴットセラピー」のこと。糖尿病などで壊死している足を切断することなく、マゴット(ウジ虫)に壊死組織を食べてもらう治療法だ。

株式会社ジャパンマゴットカンパニー 佐藤 卓也社長
「医療用マゴットは、ハエの一種、ヒロズキンバエの幼虫です。密閉したクリーンな空間で産んだ卵に滅菌処理をし、サナギになるまで育てたものを出荷しています。

この治療法は、腐敗したところだけを取り除くので、大きな副作用がないのが特徴です。しかし保険適用外なので、なかなか広まらないんですよね…」

そう話すのは、マゴット(ウジ虫)を生産するメーカーの佐藤社長。マゴットセラピーの認知度が上がらない中、借金ばかりが増えていき「明日には倒産するかもしれない」という状況まで陥ってしまったという。そんなとき、ふと自然界ではハエが花の蜜をなめていることを思い出したそうだ。

「試験的にヒロズキンバエを放してみたら、案の定、ミツバチと同じように授粉をしたんですよ。そこでハチ(ビー)のように働くハエ(フライ)で、『ビーフライ』と名付けて農業向けに販売することにしたんです。

そうしたら中野さんをはじめ、農業関係者からの問い合わせが増えましてね。おかげさまで今では借金もなくなり、妻と趣味の登山に出かけられるようになりました」

佐藤社長は、農業に活路を見出した裏側の、ほろりとするエピソードも交えて話してくれた。現在では売り上げのほとんどが農業用になっているそうだ。