今年1月、野田聖子元総務大臣は、地元の岐阜市内で行われた会合で自民党総裁選に立候補する意欲を示した。

野田氏を慕う面々はこの突然の宣言に「知らされていなかった」と苦笑するが、当の野田氏は「いつだって意欲は持っている」と、どこ吹く風だ。

とはいえ、自民党の総裁選はただ「出たい」と言っただけで立候補できるものではない。

裏金事件で“派閥政治”が変容するなか、無派閥の野田氏にチャンスは訪れるのだろうか。

【連載】「ポスト岸田」候補の素顔 記事一覧はこちら

“推薦人20の壁”

総裁選に立候補するためには国会議員20人の推薦が必要だ。

この“推薦人20の壁”によって、これまでも数多くの議員が立候補断念に追い込まれてきた。ある自民党幹部は語る。

「20とは絶妙な設定だ。集まりそうでなかなか集まらない」

派閥の全面的な推薦があればすぐに確保できる人数だが、派閥の本命ではない議員や無派閥議員にとっては大きな障壁となる。「派閥は総裁選のためにある」と指摘されるゆえんだ。

野田氏もこれに苦しめられてきた一人。これまで3度の総裁選で推薦人を確保できず、挑戦権すら与えられなかった。

2021年総裁選。菅総理の不出馬表明により、構図は岸田氏と高市氏、河野氏の3候補に固まりつつあった。(※肩書きなどはすべて当時)

岸田氏は出身派閥を含めた複数の派閥を、無派閥の高市氏は安倍元総理の全面的な支援を背景に保守系議員を、河野氏は出身派閥に加えて若手・中堅などの支持を集め、早々に推薦人を確保する見通しだった。

一方、無派閥の野田氏。「今回も推薦人を集められないだろう」との下馬評が飛び交っていた。

野田氏には派閥単位の支持も望めないため、二階派や竹下派の一部議員や無派閥議員の力を頼りつつ、さながら“一本釣り”で推薦人集めに奔走した。

ところが、他の陣営による切り崩しにより、せっかく確保した推薦人の“ドタキャン”も続発。陣営関係者は野田氏が無派閥議員であることを嘆いた。

「『友だちは多いが、子分がいない』という評判を覆してこなかったツケだ」

一進一退が続く日々。推薦人20人をようやく確保できたのは告示前日の夕方、まさに土壇場の出来事だった。

陣営のある議員が周囲の目を憚ること無く「ようやくここまで来られた」と嗚咽した光景は、無派閥の議員が推薦人を確保することがいかに困難かを象徴するものだった。