治療の過程で綾子さんは一度、流産を経験しました。
綾子さん
「今回、わたしが流産した原因が、赤ちゃんを異物だと思って、わたし自身の体が赤ちゃんを攻撃してしまって流産したかもしれないということで、『タクロリムス』という薬を使ってみようかと…」

「タクロリムス」とは免疫抑制剤で、母体の免疫反応が受精卵を拒絶しようとする特殊な症例で使用されます。この薬を服用した後の胚移植で綾子さんは無事、出産に至りました。

伊勢 正さん
― パパ似だってわかったとき、どう思った?
「うれしいですね、やっぱり」

綾子さん
「生まれた後、5~6か月くらいからきょうだいがいた方がこの子にもいいのかなと」
ことしになって再び不妊治療を始めましたが、今回の治療方法は前回と同じではありません。
綾子さん
「今回、また胚移植するにあたって、タクロリムスを使うなら保険は使えないと…」

タクロリムスを使った治療は、混合診療とみなされ、不妊治療に関わる全額が自己負担となります。以前ならあった15万円の助成もありません。

伊勢夫妻は、まずは保険適用の範囲内で治療を進めることに決めました。

綾子さん
「何かを犠牲にして治療というのは精神的にいろいろ考えてしまうので」

伊勢 正さん
「助成金があるんだったら、タクロリムスが使える今までの治療でやりたかったというのが本音」
2人は、複雑な気持ちで第二子の出産に臨みます。

― 4月から始まった保険適用は、顕微授精の一部までが範囲で、そこに含まれない「先進医療」については今回、取材させていただいたクリニックではそこだけが自己負担となります。これは、病院によって異なります。詳しくは県のHPでご確認ください。

― さらに、その「先進医療」と認めるかどうか、現在、審議中の「超先進医療」についてはどの病院でも全額自己負担となるということです。タクロリムスはここにあたります。

― 一方、保険が適用されない部分については県独自の助成が始まりましたが、金額的には1回、最大5万円。これまでの金額とは大きく異なります。そのほか市町によって、さまざまな助成があるところもあって、北広島町では最大25万円、神石高原町では最大30万円が独自に支給されます。
― 自治体は人口減少が大きな課題ですから不妊のサポートをしたいところです。国は、こういう現状をしっかり把握して、不妊に悩む人たちの声に耳を傾けてほしいです。今回、取材させていただいた人たちからは、保険適用からはずれる場合には助成制度が使えるように、どちらかを選べるようにしてほしいという声が多く聞かれました。