「怖いと思う暇がなかった」恐怖を抑えて 子どもたちと高台へ
強烈な揺れのあと、泣き叫ぶ園児たち。「ただごとではない」と感じた八木澤さんたち園の職員は、約110人の園児とともに、約150メートル離れた、一時避難場所のコンビニエンスストアの駐車場へとすばやく向かいます。八木澤さんたちは、この一時避難場所などで保護者が迎えに来た子どもたちを引き渡しました。

残った園児40人とともに「園に戻るか」「さらに高台に向かうか」、園の職員の間でも意見が分かれる中、遠くに見えた電信柱が、砂煙に包まれ徐々に自分たちに近づくように次々と倒れていくのが目に飛び込んできました。「迷っている場合ではない」と、八木澤さんの判断でより高いところを目指すことになり、コンビニを出て国道沿いを走っていると、津波が向かってくるのが見えたと言います。

そこで、すぐさま国道横の道なき道を必死によじ登り、無事に命を守りましたが、眼下に広がっていたのは、園舎が真っ黒な津波に飲み込まれる様子でした。「この子たちをなんとかしなくちゃっていう思いの方が強かった。怖いって思う暇もなく、思ったとしてもこの子たちどうしようという方にかき消された」。当時の切迫感を振り返る八木澤さんに、普段の笑顔はありませんでした。
「黄色い防災ずきんをかぶった小さな子どもの遺体が見つかった」
八木澤さんは、3日間園児たちと避難所生活をしたあと、保護者に引き渡した子どもたちの所在を確認する中で、この一報を受けました。