利上げ決定会合らしいタカ派色の強い内容

日銀は10月1日、9月の金融政策決定会合における「主な意見」を公表した。今回は政策金利の引き上げを決定した会合であり、内容も全体としてはタカ派的な色彩が強かった。多くの委員が金融環境は依然として緩和的との認識を示したほか、基調的な物価上昇率の上振れリスクや、必要に応じた追加利上げの必要性について言及している。全体としては大きなサプライズのない内容だったと言えるだろう。

しかし、筆者が興味深く感じたのは、利上げ継続を支持する委員が増えていること以上に、政策判断の論拠が変化するなかで、タカ派的な主張の位置づけそのものが変わりつつあるように見える点である。

「局面変化」派の拡大

これまで日銀の政策委員会では、高田委員と田村委員が代表的なタカ派として認識されてきた。ただし両者の立脚点は必ずしも同じではない。高田委員は、すでに物価目標は概ね達成されており、これからはインフレ率の上振れリスクを警戒すべき局面に入ったとの考え方を示してきた。一方、田村委員は、物価情勢のみならず政策金利がなお中立金利を下回っているとの認識から、金融政策の正常化を早期に進めるべきとの立場を取ってきた。

今回の「主な意見」を読む限り、執行部を含め、一部のリフレ派委員を除く多くの委員が高田委員型の「局面変化論」に接近しているように見える。もはや議論の中心は「2%目標の達成を目指す」ことではなく、「2%を超えるリスクをどう回避するか」に移っている。こうした変化によって、従来は同じタカ派陣営に分類されていた委員の間にも微妙な違いが浮かび上がってきている。

中立金利派は相対的にハト派化するのか

ここで、インフレ率の上振れリスクを抑制するという「局面変化論」に関する意見が多かったことを前提に、今回の「主な意見」の中にあった「今後の政策運営については、経済・物価の想定外の動きや環境変化に柔軟に対応できるよう、政策金利を早めにおおよそのゴールに近づけて、上下双方向に機動的に動けるような状況にしておくことが望ましい」との意見に注目したい。

筆者はこの発言を田村委員のものだとみているが、仮にそうでなかったとしても、「中立金利に向けた利上げ」を主張する意見であることは間違いない。この考え方はこれまでの田村委員のスタンスとほぼ同じである。

興味深いのは、このコメントの後半部分である。「上下双方向に機動的に動けるような状況にしておくことが望ましい」という表現は、経済や物価の下振れリスクが生じた場合には利下げも含めて柔軟に対応できる体制を整えておくべきだ、という発想が含まれている。

むろん、全体としては早期利上げを支持しているため、少なくとも短期的にはタカ派的な主張である。しかし、その目的が将来の経済変動への備えにあるとすれば、決して経済や物価の先行きに強気な見方だけに立脚しているわけではない。その意味では、この主張には将来の下振れリスクへの備えという側面が含まれており、相対的にはハト派的な色彩も読み取れる。

中立金利到達後の「機動性」に注目

今後、経済や物価の下振れリスクが高まった場合、この種の委員はどのような行動を取るだろうか。筆者は、ある程度中立金利に近づいた段階で、「追加利上げを停止すべき」との立場へ比較的柔軟に移行する可能性があると考えている。

そもそも中立金利は観測できる変数ではなく、その水準には大きな曖昧性が存在する。9月時点では「まだ中立金利に達していない」と判断していても、後になってみれば「実はすでに到達していた」と評価を修正することは十分に可能だろう。

そう考えると、継続的な利上げによって政策金利が中立金利に近づいてきた現在、「中立金利まで利上げすべき」と主張してきた委員は、相対的にはハト派的なポジションに近づきつつあるとも言える。もちろん、今後も物価上振れが続けば追加利上げの公算は大きい。しかし、経済の下振れリスクに直面した場合には、このグループは他の委員以上にスタンスを変更する余地を持っているように見える。そして、タカ派の急先鋒とみられていた委員が追加利上げ停止論へ傾くようになれば、市場へのインパクトは決して小さくないだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)