(ブルームバーグ):航海灯はつけない。携帯電話も使わず、レーダーは1台だけ――。世界の石油供給の要衝、ホルムズ海峡では今、タンカーが米軍の監視を受けながら、ドローン(無人機)やミサイルによる攻撃の危険と隣り合わせで石油を運んでいる。米国とイランが通常航行の再開で合意できない中、こうした危険な輸送が世界市場への石油供給を支えている。
タンカーの船長は前方で爆発を目にした瞬間、長年の経験を総動員した。全長300メートルのタンカーを操り前方の船舶を避けると、火の手が上がったのが見えた。船長は攻撃があったことを米海軍に伝えた。
上空をドローンやミサイルが飛び交うホルムズ海峡でのこうした機転が、世界市場への石油供給維持に極めて重要になっている。
商業上の理由から匿名を条件に取材に応じた40代前半の船長が語った体験談は、中東からの原油輸送が米軍の監視下で回復している実態と理由を浮き彫りにする。
船長のタンカーは、同海峡を往復して石油を運ぶ船舶の1隻だ。航行は夜間になることが多く、使用できる機器について厳しい指示を受ける。航海灯も携帯電話も使わず、レーダーは1台だけだ。
船はオマーン沿岸からわずか1マイル(約1.6キロメートル)ほどの場所を航行することが多かった。ただ、この海域は水深約100メートルあり、最大級の超大型タンカーでも十分に通過できる。船長によると、乗組員は海岸線や灯台を目印に自船の位置を把握した。
ホルムズ海峡を中心に3カ月間、往復航行に従事し、現在は休暇で母国フィリピンにいる船長はインタビューで、「昔ながらの航法を今でも覚えていたのは幸運だった。航海灯を一切使わないよう求められた。かなり難しい」と振り返った。
こうした航行は湾岸のエネルギー生産国にとって生命線であり、この取引から数十億ドルを得る可能性がある船主や商品トレーダーにも恩恵をもたらす。危険を冒して海峡を渡る乗組員にも多額の報酬を得る機会がある。
米銀JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックス・グループは、中東からの原油輸送が、ホルムズ海峡を通る輸送に支えられ、戦争前の水準に戻りつつあるとみている。JPモルガンは湾岸からの日量を1750万バレルと推計した。
米国は初夏から水面下で海運会社と連携し、航路を設定してイランの機雷を回避している。米国防総省と米中央軍は、最新の状況についてコメント要請にすぐには応じなかった。
船長は航行中、自船を監視している軍の支援について頻繁に説明を受け、実際に上空でジェット機とみられる航空機のほか、ヘリコプターも目撃したという。
ホルムズ海峡通過中の無線封止によって、船長が海上で過ごす時間はさらに異例なものになった。無線が静まり返る中、攻撃を警戒するため通常より多く配置された船橋要員の会話だけが聞こえた。
ホルムズ海峡を通過した経験を持つ別の液化天然ガス(LNG)タンカーの船長によると、航行はまず、船舶位置情報を発信する船舶自動識別装置(AIS)のブレーカーを落とし、位置を隠すことから始まる。その上でオマーン沿岸を航行する。さらにドローンやミサイルによる攻撃を想定し、主要甲板に土のうを積んで防護する。
石油タンカーより数が少ないこうしたLNG船は、より慎重に行動している。それでも船長によると、過去2週間に少なくとも8隻のLNG船が米国による安全確保の保証を受けて同海峡を通過した。
イランはこの輸送に従事するタンカーについて独自のブラックリストを設けている。ただ、海運業界幹部は、米軍の監視下でホルムズ海峡を通過する際に船が攻撃を受ける確率を約20分の1と推定している。
冒頭の石油タンカー船長は直近の契約について、航海が「容易ではない」と分かっていたため、通常より1カ月短くした。それでも海峡通過に対して通常の給与の数倍を受け取った。ブルームバーグは以前、別の船主がホルムズ海峡を往復する乗組員に給与6カ月分を追加で提示していると報じている。
船長のタンカーには200万バレルの石油が積まれており、米軍の監視下で航行していた。前方で爆発を目撃した船長は米海軍から、自船より先にいる他の船舶は航行を続けているため、同様に進むよう指示を受けた。別の航行では船長のタンカー自体が攻撃を受けたが、船体に損傷はなく、乗組員にもけがはなかった。危機一髪の事例は一度や二度ではなかったという。
何事もなく航行を終えた時でさえ、ホルムズ海峡の危険を示す兆候が消えることはなかった。船長は「いつ起きてもおかしくない」と語った。ホルムズ海峡の外で別の船に積み荷を移していた際には、海峡付近で攻撃を受けていると他の船が無線で発信するのを乗組員とともに聞いた。
最終的に海峡を通過するかどうかの判断は船長に委ねられる。船長が航行を引き受ける限り、日量数百万バレルの石油が世界市場に供給され続ける。国際海事機関(IMO)の推計では、戦争開始以降、この地域での攻撃によって船員24人が命を落としている。
ホルムズ海峡を通過している間は、米海軍とのやり取りに多くの時間を費やす。ブルームバーグの取材に応じた船長によると、米側が航路を提示し、航行中に通過すべき地点を各船に指示する。船舶は30分ごとに軍へ状況を報告し、航行に問題がないか、途中でミサイルを目撃したかどうかを伝える。
船長と乗組員は航行中、常に最悪の事態に備えた。LNG船と同様、予防措置として船橋付近に土のうや水を入れたドラム缶を配置。タンカーの非常用消防ポンプは海峡通過中ずっと稼働させ、居住区付近には非常用の消防ホースを常備した。
「タンカーは常に危険にさらされている。非常に危険な船だ」と船長は語った。
船長によると、子どもたちは契約期間が終了し無事にフィリピンに帰国するのを待っていたが、自身はいつでも船に戻る覚悟があるという。「家族はかなり怖がっているが、私はこの状況に対処できると伝えた」と述べ、「とても誇りに思っている。実際、この仕事が好きなんだ」と付け加えた。
原題:No Lights, No Radio: Getting Oil Through Hormuz Is a Risky Job(抜粋)
--取材協力:Stephen Stapczynski、Nick Wadhams.
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