(ブルームバーグ):日本の国債利回りが約30年ぶりの高水準に上昇し、海外に向かっていた巨額の運用マネーが日本に回帰する可能性が世界の投資家の間で再び意識され始めた。
市場でかねて議論されてきたこのシナリオが現実化する兆候は今のところ見えない。しかし、一部の運用担当者は日本国債の投資魅力が増すにつれ状況が一変し、わずかな資金移動でも国内外に影響を及ぼすリスクを市場は十分に織り込んでいないと指摘する。足元で進む円高のさらなる加速にもつながり得る。
バンガード・アセット・マネジメントのアクティブ運用ファンドで国際金利を統括するアレス・クートニー氏は「国内金利の上昇が続けば、日本の資金が徐々に国内にとどまる可能性がある」と予想。「それは円や日本国債だけでなく、米国債や欧州債市場、さらには世界の資金調達環境にとっても重大な意味を持つ」と話す。
数十年にわたる国内の超低金利を背景に、日本の投資家はより高いリターンを求めて海外市場に資金を振り向け、日本は世界有数の資本輸出国となった。米国債の保有額は約1兆1000億ドル(約169兆円)と海外勢で最大で、日本の投資家が保有する海外証券はおよそ5兆ドルに上る。
しかし、そうした構図は変わりつつある。日本の10年国債利回りは先週、1996年以来初めて3%に達した。インフレや財政支出への懸念に加え、日本銀行がより速いペースで利上げする必要があるとの見方が背景だ。節目の3%到達と時を同じくして、円は月初から約4%上昇。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が将来的に国内債券の配分を引き上げるとの観測も強まっている。
資金回帰の兆しが見られ、特に他の年金基金や投資家がGPIFの動きに追随した場合、長年円の重しとなってきた海外への資金流出が一部巻き戻され、円高がさらに加速する可能性がある。円は今月、主要10通貨(G10)で最も上昇している。
上野賢一郎厚生労働相は8日、GPIFの資産構成の見直しについて、引き続き適宜適切に検証が行われていると認識していると述べた。
ドイツ銀行は今後数年間の上限シナリオとして、日本の年金基金や保険会社、個人投資家による国内資産への資金シフトが最大4400億ドルに達する可能性があると7月に試算していた。
投資会社アルファ・ビンワニ・キャピタルの創業者、アシュウィン・ビンワニ氏は、日本の資金の「グレートレパトリエーション(大規模な本国回帰)」を市場は「なお過小評価している」と指摘。日本の投資家が既存の海外資産を売却しなくても、新規投資を減らすだけで世界の債券市場を長年支えてきた需要が弱まり、借り入れコストを押し上げかねないと言う。
ただ、今のところ資金フローのデータに大きな変化を示す兆候はほとんど見られない。ドイツ証券の大森翔央輝チーフ債券ストラテジストによると、今年1-8月に日本の生命保険会社による外国債券の売却はほぼ見られず、銀行の売りも小規模にとどまった。一方、年金基金の動きを反映する信託銀行は海外資産を引き続き積み増した。
為替ヘッジ後の米国債が円ベースで既に日本国債に見劣りするにもかかわらず、外債の売却が進んでいないことは注目に値する。ブルームバーグがまとめたデータによると、ドルのヘッジコストが3%近辺となる中、米10年国債のヘッジ後利回りは円ベースで約2%と、同年限の日本国債より約1ポイント低い。
投資家は資金を国内に戻す代わりに、為替ヘッジ比率を引き下げることで対応している。大森氏の推計では、新規の外債投資の為替ヘッジ比率は2024年の62%から今年は約40%に低下した。ヘッジ付きの保有債券が償還を迎える一方、新規の投資で為替リスクを取るケースが増えているためだ。その結果、外国債券の相対的な投資魅力は、円相場の先行きに一段と左右されるようになっている。
資金フローに目立った変化がない中、日本への資金回帰が今回こそ現実となるのか、懐疑的な見方も根強い。
ソシエテ・ジェネラルのスティーブン・スプラット氏は「常にその質問を受ける」とした上で「もちろん、ある程度のレパトリが起きるリスクはあるが、誰が資金を戻すのか明確ではない」と話す。
一方、資金回帰のリスクが過小評価されているとみる向きは、利回り面では既に条件が整っている可能性を指摘する。必要なのは、日本国債利回りがピークに近いとの確信だという。
みずほ銀行の中島將行シニアストラテジストによると、10年国債利回り3%は過去の水準と比べても、資産負債管理(ALM)の観点からも既に魅力的だ。ただ、インフレや財政政策を巡る不透明感に加え、利回りがどこまで上昇するか見通せないため、機関投資家はデュレーションを積み増すことに慎重姿勢を崩していない。
中島氏は「利回りの絶対水準よりも安定性が重要だ」とし、投資家が利回りは安定しつつあると確信すれば「同じ3%でもはるかに強い需要を呼び込む可能性がある」と指摘する。
円相場の持続的な上昇も、資金回帰のきっかけとなり得る。為替ヘッジなしで外国債券を保有する投資家が増える中、円高は円ベースのリターンを目減りさせ、円で資金を調達するキャリートレードの魅力も低下させる。アナリストらは、円が対ドルで節目の155円を突破したことで円高に拍車がかかると予想する。
マールボロ・インベストメント・マネジメントのファンドマネジャー、ジェームズ・エイシー氏は、金利差の縮小に加え、日銀が利上げを続けるとの確信が強まれば、キャリートレードが抑制され、日本への資金回帰が加速し得るとみる。
円と30年日本国債の買い持ちポジションを取る同氏は、利回りの相対的な魅力を踏まえると、日本の機関投資家による国内債券への資金シフトが進んでいないことは「驚きだ」と指摘。「大規模な資金回帰が起きる条件は十分そろっている。あとはきっかけ一つだ」と話した。
--取材協力:近藤雅岐.
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