「じゃんけんって、何人までできるの?」

ある日、4歳の息子とじゃんけんをしていたとき、そう尋ねられた。反射的に「何人でもできるよ」とシンプルに答えた。ルールの上では、2人でも3人でも、幼稚園のみんなでもじゃんけんはできるからだ。

答えは簡単なはずだった。

息子は「じゃあ、幼稚園のみんなでもできる?」と続けた。ここで、私はハッとした。30人が一斉に手を出せば、おそらくグーもチョキもパーも出る。そうなれば、あいこである。もう一度やっても、おそらくまたあいこになる。父として、軽はずみな言葉を息子にかけるわけにはいかない。

そこで今回は、じゃんけんは何人まで「できる」のかを、少し真面目に考えてみることにした。

じゃんけんが決着する条件

全員参加型のじゃんけんでは、勝つ人と負ける人が生じたときに「決着した」と考える。

反対に、あいこには二つの場合がある。全員が同じ手を出す場合と、グー・チョキ・パーの三種類すべてが出る場合である。

裏返せば、決着するのは三種類のうち二種類だけが出た場合に限られる。たとえばグーとチョキだけならグーの勝ち、チョキとパーだけならチョキの勝ち、パーとグーだけならパーの勝ちである。

n人(n≧2)が、それぞれ独立に三つの手を同じ確率で出すと仮定する。全体の出し方は3ⁿ通りである。出なかった手の選び方は3通り。残る二つの手の出し方は2ⁿ通りだが、全員が一方の手だけを出した二通りは決着しないため除く。したがって、1回で決着する確率 Pₙ は次のとおりとなる。

Pₙ = 3(2ⁿ-2)/3ⁿ =(2ⁿ-2)/3ⁿ⁻¹

nにどれほど大きな数を入れても、Pₙは0にはならない。同じ人数で、繰り返し続ければ、いずれ有限回で決着する確率は1である。この意味では、じゃんけんは何人でもできる。

「いつか決まる」は、実用的なのか

しかし、数式に具体的な人数を入れると、様子が変わる。決着までの回数は幾何分布に従い、その期待値 Eₙ は、1回で決着する確率の逆数である。

Eₙ = 1/Pₙ = 3ⁿ⁻¹/(2ⁿ-2)

期待値は「必ずその回数で終わる」という意味ではない。多数のじゃんけん大会を行ったときの平均的な回数である。それでも、意思決定の道具としての使い勝手を比べる目安にはなる。

仮に、期待回数が10回を超えたら、じゃんけんは意思決定の手段として実用的でない、と置いてみよう。この基準では8人が8.6回、9人が12.9回であり、境目は8人と9人の間に現れる。これは普遍的な「9人の壁」ではない。どこまで我慢できるかを仮定した結果にすぎない。

ただ、9人あたりから急に様子が変わることは確かである。

6人増えただけで、11倍になる

9人では、決着までの期待回数は約13回である。では、15人なら何回だろうか。人数は9人から15人へ、1.7倍になっただけである。20回か、せいぜい30回くらいを想像するかもしれない。

実際には約146回である。参加者は6人増えただけなのに、期待回数は11倍以上になる。人数が1人増えるたび、決着確率はおおむね3分の2になり、期待回数はおおむね1.5倍になるからである。

13 → 19 → 29 → 43 → 65 → 97 → 146

「同じ数を足す」のではなく、「同じ倍率を掛ける」。これが指数関数である。1.5倍は一度だけなら大きく見えない。しかし、それを6回繰り返すと、1.5⁶≒11.4倍になる。指数関数の怖さは、増加の一歩一歩ではなく、その積み重なりにある。

数式よりも、現実の方が厳しい

30人クラスで全員参加型のじゃんけんを行うと、決着までの期待回数は約63,917回である。1回2秒としても、休まず続けて約35時間半かかる。40人なら期待回数は約368万回、約85日である。しかも、これらは理想的な条件での数字にすぎない。

現実には、人数が増えるほど全員が掛け声に合わせることが難しくなる。後出しがなかったか、三種類すべての手が出たか、誰かの手が隠れていないかを確認する時間も増える。つまり、必要な回数が指数関数的に増えるだけでなく、1回当たりの判定コストまで大きくなる。実際の面倒さは、期待回数だけから受ける印象よりもさらに大きい。

なぜ2人と3人は同じなのか

表には、もう一つ不思議な点がある。2人じゃんけんも3人じゃんけんも、1回で決着する確率は同じ3分の2である。3人に増えれば、三種類すべての手が出る「あいこ」が増えるので、決着しにくくなりそうに思える。

たしかに、2人でグーとパーが出て決着していたところへ、3人目がチョキを出せば、三種類がそろってあいこになる。しかし反対に、2人がグーとグーであいこだったところへ、3人目がチョキまたはパーを出せば、決着する。この「決着からあいこへ」と「あいこから決着へ」の増減が、ちょうど相殺するのである。

場合の数で見ても簡単である。2人では9通りのうち6通り、3人では27通りのうち18通りが決着する。どちらも確率は3分の2となる。偶然に見える一致にも、数えてみれば理由がある。

おわりに

息子の問いに対する答えは、数学上は「何人でもできる」である。しかし、現実に何かを決める道具として考えるなら、8人程度までが一つの目安であり、9人になる頃から急速に厳しくなる。じゃんけんには参加人数の上限はないが、人間の忍耐力には上限がある。

夏休みの宿題がまだ終わっていない子どもたちには、ぜひ夏休みの自由研究として、終わっていない友人20人、30人、40人に呼び掛けて、決着するまでの回数を実験してもらいたい。二学期が始まるまでに終わればよいのだが。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 植竹康夫)