米OpenAIが対話型AI「ChatGPT」を公開してから4年近くが経過する中、米国と中国のテクノロジー企業は、より高度なAIモデルの開発で互いを上回ろうと、データセンターや半導体、人材に数千億ドルを投じてきた。

現在、掲げられる目標は単にAIの性能向上にとどまらず、汎用(はんよう)人工知能、すなわち「AGI(artificial general intelligence)」と呼ばれることが多い、より強力なテクノロジーへと移りつつある。

かつて異端視されていたAGIは、今や主要AI企業の旗印となっている。研究開発のロードマップやマーケティング資料、政策論議の方向性を左右しており、米国の一部議員やAI業界の幹部は、他国、実質的には中国が先にこの節目に到達した場合の国家安全保障への影響を懸念している。

OpenAIは9月初旬、より強力な新しいAIモデル「GPT-6 Astra」の提供を開始した。同社は、このモデルがいつの日かAGIの初期段階だったと見なされる可能性があるとしている。OpenAIのグレッグ・ブロックマン社長は、新モデルを発表する記者説明会で「AGI時代へようこそ」と述べた。

だが、これほど注目を集めているにもかかわらず、そもそもAGIとは何なのかを巡っては依然として混乱が続いている。研究者とテクノロジー業界の幹部の間では、AGIの定義について意見が分かれており、経済的価値をどの程度重視するか、人間の能力を上回ることをAGIの要件とするかについても見解が一致していない。

少なくとも現在の設計思想に基づくAIで、AGIを構築することがそもそも可能なのかについても議論がある。ブロックマン氏でさえ、AstraがAGIという節目に到達したかどうかの判断には不確実性があることを認めた。同氏は「これがAGIに該当するかどうかは、読み手自身の判断に委ねたい」と語った。

AGIとは何か

AGIに統一された定義はない。OpenAIはAGIを、経済的に有用な仕事の大半で人間を上回るシステムと定義している。

グーグルのAI研究所ディープマインドが2023年に発表した論文は、経済的価値をそれほど重視していない。人間を上回る有用な仕事をこなせることや、わずかなデータから新たなスキルを習得できることなど、汎用性を重視した評価基準を示した。

広く利用されているAGI評価指標を手がける非営利団体ARCプライズ財団はさらに踏み込み、経済的価値は「インテリジェンスを測る尺度として誤っている」とし、代わりに「AGIとは、訓練データの範囲外で新たなスキルを効率的に習得できるシステム」と定義している。

用語も変化し続けている。米アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は「AGI」ではなく「強力なAI(powerful AI)」という表現を好んで使う。

マイクロソフトのAI部門トップ、ムスタファ・スレイマン氏は「人工有能知能(artificial capable intelligence)」という言葉を生み出した。

最近では米メタ・プラットフォームズやOpenAIなどが、AGIよりも強力で人間の知能を上回る仮想的なシステムを指す「超知能(superintelligence)」について語り始めている。

OpenAIは以前、AIがたどると見込まれる5段階を示し、AGIに至るロードマップを提示していた。最初の段階はAIブームのきっかけとなったチャットボットで、その後、推論システム、人に代わって行動するエージェントへと進む。

エージェントはOpenAIや競合各社がここ数カ月に投入した製品に近い。OpenAIによると、最後の2段階は「発明を支援する」AIシステムと、「組織の仕事をこなす」ことができるモデルだ。

どのような定義を採用するにせよ、「感情」を持ち、それに基づいて行動する知覚や意識のある存在とAGIは同じものではない。現時点では、AIがその水準まで進歩するかどうかは定かではない。ただ、人間の言語を模倣する能力によって、そうであるかのように感じるユーザーもいる。

定義や用語の混乱により、このテクノロジーが現在どの段階にあるのかについても評価は大きく分かれている。AGIの実現にはまだ数年、場合によっては数十年かかるとするAI専門家もいる一方で、メタの「Llama(ラマ)」やOpenAIのGPT、アンソロピックの「Claude(クロード)」といった既存モデルがすでにAGIの基準を満たしていると考えるAI研究者もいる。

AGIという言葉を生み出したのは誰か

研究者らは数十年にわたり、より汎用的なAIという構想を断続的に追求してきた。1950年代には「汎用問題解決器(general problem solver)」の構築が試みられている。

ChatGPTの公開以前には、この分野の関心の多くが、写真へのタグ付けや文章の要約など、決められたルールの下で特定の作業に秀でるよう設計された「特化型(narrow)」システムへと移っていた。

Illustration: Benny Douet 

AGIという構想は2000年代半ばに勢いを増し、コンピューター科学者のベン・ゲーツェル氏と、同氏が2007年に出版した著書「Artificial General Intelligence」によって広く知られるようになった。

ディープマインドの共同創業者でAGI担当チーフサイエンティストのシェーン・レッグ氏によると、ディープマインドは2010年の事業計画の冒頭に「汎用人工知能」の構築を掲げて以来、その実現に取り組んできた。

レッグ氏は2021年、AGIに到達する確率について、2028年までに50%、2040年までに90%と長年考えてきたと明らかにした。この見方は1999年から変わっていないという。

何が懸かっているのか

一部の専門家は、AGIが「知能爆発(intelligence explosion)」を引き起こし、相次ぐ技術的な飛躍によって産業や社会全体が一変する可能性があると指摘する。

仮説シナリオの1つでは、AGIシステムが急速に自己改良し、病気を治療したり、はるかに多くの仕事を自動化したり、人類の進歩を加速させたりできるほど高度な水準に達し得る。

OpenAIのサム・アルトマンCEOは2025年2月のブログ投稿で、「10年後には、恐らく地球上の誰もが、現在最も大きな影響力を持つ人物以上のことを成し遂げられるようになるだろう」と記した。

米ランド研究所による調査は、AIの専門家や経営幹部へのインタビューや研究を引用し、国家安全保障や世界の経済秩序に及ぼし得る影響を論じている。

AGIによって監視やサイバー戦争、自律型兵器の分野で飛躍的な進展が起きる可能性があると警告し、米国主導のAGI同盟から、中国がこの技術への支配を強める「権威主義の優位」まで、8つのシナリオを示した。

報告書によれば、鍵を握るのは技術の集中だ。1カ国が先にAGIへ到達すれば、世界の軍事・経済バランスを塗り替える可能性がある。一方、アクセスが広がれば、ならず者集団に危険な優位性を与える恐れがある。

懐疑派は何を主張しているのか

業界がAGIを重視する一方、その実現時期や、そもそも実現可能なのかについては根強い懐疑論がある。

米人工知能学会(AAAI)のAI研究の未来に関するプレジデンシャルパネルが公表した2025年3月の研究者数百人を対象とする調査では、現在のシステムを大規模化するだけではAGIへの到達に十分ではないとの見方で幅広い一致が見られた。

Illustration: Benny Douet 

メタの元チーフAIサイエンティスト、ヤン・ルカン氏は、現在のAIチャットボットを動かすソフトウエアである大規模言語モデル(LLM)には限界があると指摘している。

「行動する前に考えることができず、現実世界で行動したり、身体を通じた経験から学んだりすることもできない上、持続的な記憶や階層的な計画能力も欠いている」というのがその理由だ。

一部のAI批判派は、現在のモデルは「確率的オウム(stochastic parrots)」に過ぎず、本当の意味で理解することなく文章のパターンを組み替えているとも警告する。

これは、統計的な模倣が果たして真の知能になり得るのかという疑念を端的に表す言葉だ。研究者は、人間の知能がどのように機能しているのかさえ完全には解明できておらず、それを再現したり上回ったりする方法となればなおさらだ。

AI研究者のマーガレット・ミッチェル氏が主導した2025年7月の論文は、AGIを巡る曖昧さが過剰な期待や信頼性に乏しい評価基準を助長し、研究上の優先課題ではなく、過熱する期待の波や投資家の関心に沿って資金が配分されることが多いと論じた。

論文執筆者らは、明確な目標や厳格な検証、実証された恩恵と結び付いていない限り、AGIを巡る大きな主張には懐疑的に向き合うべきだと論じている。

どの企業がAGIを追求しているのか

OpenAIは2015年から人間レベルのAIを目標に掲げ、AGIが「全人類に利益をもたらす」ようにすることが使命だとしている。グーグルのディープマインドも長年にわたりAGIの実現を目指していると表明し、その道筋に向けたロードマップや安全計画を公表してきた。

ChatGPTが爆発的な成功を収めると、競合各社も同様の目標を掲げ始めた。米アマゾン・ドット・コムはサンフランシスコにAGI研究所を設立し、元OpenAI幹部を責任者に据えた。

メタはAGIの開発を目標に掲げた後、「パーソナル超知能(personal superintelligence)」へと軸足を移し、マーク・ザッカーバーグCEOはAIを個人の能力を高めるためのツールと位置付けた。

中国の競合企業も同様の動きを見せている。アリババグループはAGIを「最優先目標」に掲げている。DeepSeek(ディープシーク)は「好奇心を持ってAGIの謎を解き明かす」ことが目標だとしている。より効率的なトレーニング手法を追求し、より強力なAIテクノロジーを構築して米企業と競争しようとしている。

Illustration: Benny Douet

各社はAGIにどこまで近づいたとしているのか

アルトマン氏は2024年9月、「AGIを予感させるシステムが視野に入りつつある」と述べ、「数千日後には超知能を手にしている可能性がある」とまで示唆した。一方で、それ以上の時間がかかる可能性も認めた。

しかし、その1年後になっても、OpenAIはなお、その節目に至る道筋を模索しているようだった。同社が待望のAIモデルGPT-5を2025年8月にようやく公開すると、コーディングや文章作成、人間の推論プロセスの模倣で性能向上を実現した。だが多くのユーザーにとって、それは飛躍というより段階的な前進と感じられた。

アルトマン氏は発表に際した発言で、AGIへの到達には「まだ非常に重要な何かが欠けている」と認めたが、その欠けているものが何かは明らかにしなかった。

OpenAIのブロックマン氏は同社の最新モデルについて、「人々がAIに任せられる仕事の種類や、AIが人々の能力をどう高められるかという点で、本当の転換を示している」と述べ、AGIに近づいたとの認識を示した。「まだ改善すべき点は多いと思うが、ここには重要なものがあり、質的に向上していると考えている」という。

Illustration: Benny Douet 

アンソロピックのアモデイ氏は、「強力なAI(powerful AI)」が今年中に登場する可能性は十分にあると述べている。最近では、AGIという呼称を「マーケティング用語」と退ける一方、次の段階は「データセンターの中に天才たちの国がある」ようなものになるとの見通しを示し、それが2、3年以内に実現する「公算はかなり大きい」との考えを示した。

これに対し、ディープマインド共同創業者のデミス・ハサビス氏は、AGIの実現にはなお5-10年かかると予想し、それより短い見通しは非現実的だとしている。

同氏は昨年、「私の見方では、AGIに到達するまでにはまだかなり長い道のりがある」と話し、実現までの期間が短くなっているように見えるのは「AGIの定義が薄められている」からに過ぎないと説明した。

AIチャットボットや、いわゆるエージェントは過去3年間で大きく進歩したが、現在の最高性能モデルでさえ、事実ではない内容を自信を持って創作したり、人間なら容易に答えられる「概念的には単純な」課題でつまずいたりする。高度な問題を解ける一方で、小学生でも答えられるような問題に間違った回答をすることもある。

評価指標も誤解を招く場合がある。標準化された試験で満点に近い成績を収めるシステムでも、同じ質問を別の表現に言い換えられたり、整理されていない現実世界のデータを与えられたりすると、うまく対応できないことがある。ディープマインドは、AGIには多様な条件下で安定した信頼性を発揮することが必要だと強調している。

原題:OpenAI Suggests It’s Reached AGI. What Is It Anyway?: Explainer(抜粋)

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