(ブルームバーグ):ベッセント米財務長官は先に、イラン戦争終結に向けた新たな取り組みとして、同国とその貿易相手国に「経済的な猛攻撃」を開始すると宣言した。しかし1週間が過ぎても、イランと関係を持つ国々は今のところ米国の威嚇に動じていない。専門家からは、実際の措置は迫力を欠くとの見方が出ている。
イラン産原油の90%を購入する中国は、圧力に屈するどころか、米政府に対して強硬な警告を発した。ドバイではイランの銀行支店が営業を続けている。アブダビにあるイラン国営メリ銀行の支店では、職員らが忙しくパソコンに向かっており、職員の1人は通常通り営業していると話した。
民間航空機の運航も、イランとトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)との間で続いている。UAEは先週、イランとの貿易・金融取引を全て停止すると表明していた。タイやアゼルバイジャンのほか、ロシアや中国の複数都市とイランを結ぶ路線にも影響は出ていない。
米財務省は29日、エジプト第2位の銀行バンク・ミスルのUAE支店を制裁対象とする方針を発表した。ベッセント氏は24日、イランへの圧力強化の一環として金融機関に対する「重大な発表」を行うと予告していた。しかし実際の措置は、事前の予想よりはるかに限定的だった。
元米財務省当局者でキャピトル・ピーク・ストラテジーズ創業者のアレックス・ザーデン氏は、「戦争開始から半年が過ぎる中、財務省が公表した措置は、事前の大々的な宣伝に見合うものではない」と指摘。「経済的孤立化作戦は47年間にわたる対イラン経済制裁の延長線上にあるが、今回の取り組みが経済面あるいは軍事面での勝利にどうつながるのか、明確な道筋は示されていない」と語った。
米財務省からのコメントは現時点で得られていない。
中国巡るジレンマ
ベッセント氏の威嚇にもかかわらず、各国が今のところ動じていないことは、制裁を通じてイランに要求をのませようとするトランプ政権が抱える最大のジレンマを浮き彫りにしている。
制裁を実効性のあるものにするには中国を標的にする必要があるが、そうすれば中国の報復を招き、世界経済に甚大な影響が及ぶ恐れがある。一方、中国への圧力を強めなければ、イランへの経済的打撃は増しても、同国の戦略的な判断を変えさせるほどの圧力にはならない。
米国の信頼性そのものも問われている。ベッセント氏は今回の対応を、ナチス政権打倒を目指した1944年のノルマンディー上陸作戦(Dデー)になぞらえてきた。だが今回は他国と連携するのではなく、各国に圧力をかけながら米国が単独で行動した。ベッセント氏自身も、あまりに急激かつ強硬に進めれば、世界の金融システムを揺るがしかねないと認めている。
さらに状況を複雑にしているのは、米国が「水面下の外交」にも取り組んでいるとベッセント氏が述べていることだ。事情に詳しい関係者によると、米当局者は英国側に接触し、支持を表明する声明を出すよう求めた。
ベッセント氏は、ノースカロライナ州アッシュビルで開かれる20カ国・地域(G20)の会合で各国の財務相と協議する見通しだ。アトランティック・カウンシルの国際経済部門責任者ジョシュ・リプスキー氏によると、出席者の大きな関心事の一つは、米国が中国の金融機関を制裁対象とする用意があるかどうかだという。
米国の重要な戦略的パートナーであるUAEは先に、イランとのあらゆる経済関係を断絶すると表明した。ただ、イランとの航空・銀行取引の一部は続いているもようだ。UAE政府はこの措置について、「国益と地域の安全保障上の要請を戦略的に判断した上での、主権国家としての決定だ」と説明した。
トランプ米大統領は27日、これまでどの国に働きかけたのかと問われ、「話す相手はそれほど多くない。われわれは彼らと話したいわけではない。会談などを求めているわけでもない」と答えた。
中国経済のデータ分析を手掛けるチャイナ・ベージュブックのリーランド・ミラー最高経営責任者(CEO)は「イランの原油輸出の90%を購入している国を無視したまま、同国に実効性のある経済戦争を仕掛けることはできない」と語る。ミラー氏は、米議会に助言する米中経済安全保障調査委員会の委員も務める。
足並みそろわず
従来からイランと強い経済関係を持つ国々の当局者には、これまで米国からほとんど説明がないようだ。事情に詳しい関係者によると、トルコも制限措置の内容やイランへの適用方法について、米国から正式な指針を受けていない。
パキスタンの反応からは、米国と緊密な関係にある国でさえ、少なくとも現時点では今回の新たな取り組みによる圧力をほとんど感じていないことがうかがえる。
パキスタン政府は戦争終結に向けた仲介努力でトランプ氏から評価されているが、陸路を通じたイランとの貿易が減速した兆候はない。パキスタン外務省のタヒル・アンドラビ報道官は先に、同国には一方的な制裁に「応じる義務はない」と記者団に語った。
DBMコンサルティングの首席顧問スティーブン・ファロン氏は、「これでイランを屈服させられるという考えは現実離れしている。状況を大きく変えることにはならない」と指摘。「抜け穴を完全にふさぐことは不可能だ。関係する主体が多過ぎる上、制裁をかいくぐることで得られる利益も大き過ぎる」と述べた。
原題:World Mostly Shrugs Off Bessent’s ‘D-Day’ Iran Sanctions Threat(抜粋)
--取材協力:Ellen Milligan、Magdalena Del Valle、Beril Akman、Siddharth Philip、Tooba Khan、Paul Wallace、Jenny Leonard.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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