ベッセント米財務長官がイランに対して「経済版Dデー」と呼ぶ作戦を仕掛けると警告したことで、米国はイラン最大の貿易相手国である中国との対立に向かうリスクがある。

ただし、それはベッセント氏が実際に警告を実行に移した場合に限られる。トランプ政権は以前にも同様の警告を発しており、実行に踏み切るかどうかを疑問視する向きは多い。とりわけ、米政府が中国政府との不安定な貿易休戦の維持と世界経済へのショック回避を図る中、イラン産原油の約90%を購入する中国への措置に踏み切るかは不透明だ。

ベッセント氏は24日、トランプ大統領が米国内で支持を得ていない中東での戦争の終結を図る中、「われわれは世界各地に広がるイランの金融ネットワークに対し、経済的な猛攻撃を開始する」と表明した。

ベッセント氏は団体、個人、船舶を対象とする数十件の新たな制裁を発表したが、注目を集めた記者会見では、イランとの取引を続ける国や企業に、いわゆる二次的制裁を科すと強く警告した。

中国はイラン産原油の最大の買い手で、イランにとって世界経済との重要な接点となっている。このため、中国企業を標的にせず、イラン政権の残された収入源を本格的に断つのは極めて難しい。トランプ氏は以前、イラン産石油や石油製品を購入する国や企業に対し、直ちに二次的制裁を科すと表明したものの、実行には移さなかった。

今回の動きは、軍事行動をさらに拡大するとの警告から、経済的圧力を再び重視する方向への転換を示す。中国を除外した制裁措置ではイランに大きな影響を与えられそうにない一方、中国企業に照準を合わせれば報復を招き、世界経済にさらなる打撃が及ぶ可能性がある。

その理由の一つは、中国企業を制裁対象に指定すれば、中国政府との新たな経済対立を招く恐れがあることだ。トランプ氏と中国の習近平国家主席の首脳会談を9月に控える中、そのような措置を取れば米中関係に亀裂が入る。

ベッセント氏は24日の会見で、イランとの貿易を支援する中国の大手銀行を米国が締め出す用意があるかと問われると、「米国の制裁の及ばない者はいない」と答えた。中国を含め、特定の国を名指しすることはせず、水面下での外交を通じて対応するのが最善だと語った。

米シンクタンク、民主主義防衛財団(FDD)のシニアフェロー、クレイグ・シングルトン氏は、「ベッセント氏は中国に関する質問の大半をかわした」と指摘。「来月の首脳会談を控え、戦術的には理にかなっているが、戦略的には、米政府は中国の主要な経済主体に深刻な代償を負わせることに消極的だという中国政府の見方を強めるリスクがある」と述べた。

中国は以前から、米国によるイランへの一方的な制裁は正当性を欠くとの立場を維持している。中国の国有部門は、経済への悪影響を抑え、米金融システムへのアクセスを維持するため、おおむね規制に従ってきた。一方、中国政府は民間の小規模製油所が制裁を回避する手法を使ってイラン産原油を輸入・精製することを容認してきた。

中国は5月、国内企業に対し、製油所5社を対象とした米国の制裁に従わないよう命じた。一方、中国の大手銀行は、中国政府の指示と米金融システムへのアクセスを失うリスクとの板挟みになった。

中国外務省の林剣報道官は24日、記者団に対し、「制裁や圧力という手段は問題の解決に役立たない」とし、「誰の利益にもならない事態のエスカレートを招くだけだ」と語った。

ハドソン研究所のシニアフェロー、マイケル・ソボリク氏は、米国が例えば中国の銀行を標的にするなど、中国に対して実質的な打撃を与える措置を取れば、中国政府はそれを「情勢を不安定化させるだけでなく、侮辱的な行為」であり、トランプ氏と習氏が以前に合意した貿易休戦への「違反」でもあるとみなすだろうと分析。

その場合、中国が米国に大きな打撃を与え得る形で報復する可能性があるとし、世界の製造業に不可欠な重要鉱物の輸出規制をさらに強化したり、米国向けの重要な医薬品輸出を制限したりすることなどが考えられると同氏は述べた。

さらに、ベッセント氏による新たな制裁措置は、対イラン戦争がもたらした甚大な経済的混乱を一段と拡大させる恐れがある。米国とイスラエルが2月下旬に開始した紛争はすでに世界経済に波及し、エネルギー供給や、ホルムズ海峡を通る海上輸送を混乱させている。

その結果生じた石油・ガスの供給ショックは、輸送費や肥料などのコストを押し上げ、世界的なインフレを加速させ、各国の消費者や企業を圧迫している。運賃や保険料の上昇も、世界のサプライチェーン(供給網)にさらなる圧力をかけている。

ベッセント氏は、過度に強硬な措置を取るリスクを認め、世界の市場に波及しかねない制裁を科す前に、各国や企業にまずイランとの関係を断つ機会を与える考えを表明。「われわれは全ての国に、不適切な行動を改める機会を与えている」とし、「私が世界の金融システムを破壊したいと思うだろうか」と付け加えた。

ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)のバリ・ナスル教授は、イランと取引する国に二次的制裁を科せば、紛争は大幅に拡大し、中国だけでなくインド、トルコ、湾岸諸国にも経済的な打撃が及ぶことになると警告。「米国は事実上、湾岸地域での戦争を、世界の他の国々や勢力とのはるかに大規模な対立へと拡大させている」と語った。

原題:Bessent’s Iran D-Day Threat Hinges on Willingness to Hit China(抜粋)

--取材協力:Jing Li、Sonya Dymova、Michelle Jamrisko.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.