迫る財政赤字の上限と「揚げ物株」が招く市場格下げリスク
新大統領は、児童や妊婦を対象とした無料給食など、数十億ドル規模の巨額な社会福祉政策を打ち出しました。一部の有権者には好評なものの、国家財政を強烈に圧迫しています。コロナ禍を除けば、2025年の財政赤字は過去20年間で最高水準に達し、信頼の証であった「GDP比3%」の上限に迫ろうとしています。さらに「ダナンタラ」が、こうした政策の資金を賄う「都合のいい財布」として利用されるのではないかと、海外投資家は不透明な管理体制に混乱と警戒を深めています。

そして、市場への最大の警告が「揚げ物株」の存在です。インドネシアでは大量の株式を国内の富裕層が握っており、一般投資家が取引できる「浮動株」の割合がアジアの中でも極めて低い水準にとどまっています。わずかな取引量で株価が急騰し、瞬く間に暴落するため、一部の大物による相場操縦が容易に行われているのです。

この異常な価格変動を受け、株価指数を算出するMSCIは、インドネシアを新興国市場から「フロンティア市場」へと格下げする可能性を警告しました。これが最大の衝撃となり、市場では1998年の通貨危機以来の猛烈な売りが発生。数ヶ月が経過した現在でも、世界で最も低迷する市場の一つとなっています。
ルピア急落と国債利回り上昇。問われる「開かれた市場」への覚悟
市場の動揺は株式にとどまりません。2026年、通貨ルピアは対米ドルで過去最安値を記録し、アジア最悪水準の下落率となりました。さらに国債の利回りも高騰を続けており、政府が投資家へ支払う利払い負担はアジアでもトップクラスに重くなっています。アジア太平洋地域における投資意欲の指標ともされるインドネシア資産の下落は、東南アジア全体に波及する危険信号です。

また、インドネシアはアジアで最も燃料価格が安い国の一つですが、この価格を抑制し続ければ、原油高のコストを国が丸抱えすることになり、さらなる財政悪化を招きかねません。
こうした危機的状況を打開すべく、金融当局は今年3月、最低浮動株の比率を従来の2倍に引き上げるという市場構造の抜本改革を承認しました。しかし、実際に透明性が確保されるには時間がかかり、相場操縦に関わる市場の大物たちを本当に摘発できるのか、その実効性が問われています。

世界的な関税問題や地政学リスクで市場が揺れる中、ルピア、国債、株式の売りが止まらなければ、アジアの成長期待全体に暗い影を落とすことになります。過去に幾多の危機から立ち直ってきたインドネシアですが、国際的な信頼を失えば、内向きで閉鎖的な国へと後退してしまう恐れがあります。政府や経済界を含め、世界は誰もそんな結末を望んでいません。今こそ、投資家の信頼を回復するための真の改革と覚悟が求められているのです。