究極の治安維持と、迫り来る戦争の影

ドバイが金融ハブとして成功した最大の鍵は、「安定を最優先する方針」にあります。カフェの席に高級バッグのバーキンを置いたまま離れても、戻った時に盗まれていないほど、警察の厳しい監視下で徹底した治安維持が行われています。欧米ほどの個人の自由はなくても、国内の混乱を最小限に抑える「シンガポールのような国家モデル」を採用し、他のすべてを犠牲にしてでも安定を優先しているのです。

しかし、その絶大な安心感ゆえに、ここが「ある日突然、戦禍に見舞われる可能性のある中東地域」であることを人々は忘れがちです。今回の紛争では、中東の3拠点が攻撃を受け、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)が長期的なサービス停止を発表する事態も起きました。

事態を重く見たゴールドマン・サックスやシティグループといったウォール街の金融大手は、ドバイの従業員に出勤を控え、一時的な国外退避を提案するまでになっています。世界最大の国際ハブであるドバイ空港や、国際線世界一の規模を誇るエミレーツ航空を抱える観光産業にとっても、戦争の長期化は死活問題です。

過去の危機を乗り越えた「強靭さ」は今回も通用するか

これまでドバイは、西側の軍事基地を抱えながらも隣国イランと絶妙な距離感を保ち、イラン側も自国の経済的利害を優先して拠点は攻撃しないという暗黙の了解のもと、地政学的なバランスをとってきました。そして、存続に関わる危機を幾度も打破してきた歴史があります。

2008年の金融危機で信用収縮が起き、ドバイの不動産バブルが崩壊した際は、不動産価格が半値以下に暴落し多くの人が国を去りました。しかし、兄貴分であるアブダビからの巨額の資金援助で救済され、その後ドバイはかつてない強さを持って復活を遂げました。

その10年後の新型コロナウイルス禍においては、いち早く経済を再開させ、「ゴールデンビザ」と呼ばれる長期ビザの取得要件を緩和することで、さらなる人材と富を呼び込むことに成功したのです。

現在、ドバイやUAEの指導者たちは自ら街やモールを歩く姿を公開し、普段通りの生活を送るよう市民に呼びかけ、安心感の醸成に努めています。世界のエネルギー資源の要衝であるホルムズ海峡の物流に混乱が生じ、先行きが不透明な中でも、巨額の資本を持つドバイとの長期的なビジネスを求める動きが完全に止まることはないでしょう。

ビジネス拠点としての圧倒的な魅力と優遇税制をとるか、それとも隣り合わせの地政学リスクを懸念するか。ドバイに住む人々、そしてこれから移住を考える人々にとって、長期的に滞在し続けられるかを自問するこの局面こそが、今後のドバイの真の価値を測る試金石となりそうです。