ベッセント米財務長官は就任前、米国債の発行構成を変えようとしているとしてイエレン前財務長官を厳しく批判していた。だが、ここにきて自らも同様の手法に乗り出している。

長期債を幅広く買い戻す一方で、短期債の発行を増やす計画について、ベッセント氏は20日、「いわば財務省版ツイストだ」と語った。米連邦準備制度理事会(FRB)が長期金利の抑制を狙って1960年代に初めて導入したツイストオペを意識したものだ。ベッセント氏によれば、現在の利回りは「均衡」水準から外れている。

実際、米国債市場は一時的に大きく動き、計画が発表された19日の取引で長期債利回りは急低下した。しかし、翌日にはほぼ元の水準に舞い戻った。ベッセント氏が重視する10年債利回りは前週末の取引を4.73%で終え、長官就任後の最高水準に迫った。

今回の一連の動きは、とりわけ11月の中間選挙を控え、借り入れコストの引き下げを目指すベッセント氏が、自らでは制御できない金利上昇圧力に直面していることを示している。

利回りを押し上げている要因の一つが記録的な債務残高だ。米財務省が公表したデータによると、米国の公的債務残高は初めて40兆ドル(約6400兆円)を突破したが、債務膨張は他の先進国でも進んでいる。

AIブームを背景とする企業の起債ラッシュも要因だ。また、トランプ大統領がイランとの戦争に踏み切り、エネルギー市場を揺さぶったことでインフレ率も上昇。ウォーシュFRB議長の政策運営を巡る不透明感も投資家の懸念を強めている。

サトリ・インサイツの創業者、マット・キング氏は、「長期金利を持続的に低下させるための道は、どれも政権が望まない展開につながる」と指摘。その上で、米財政赤字の縮小、株式相場の下落、あるいはAI投資の減速が長期金利を押し下げる可能性があると述べた。

「正常な水準に戻った」

そもそも金利が均衡水準から外れていたわけではない、とみる市場参加者もいる。

「債券自警団」の名付け親として知られるエドワード・ヤルデニ氏は、ベッセント氏が予想外の長期債買い戻し増額を発表する約1時間前、「金利は正常な水準に戻ったと思う。4-5%が普通だ」と、ブルームバーグテレビジョンで語っていた。

財務省は今回の介入について市場の流動性を支えるためだと説明しているが、JPモルガン・チェースの金利戦略チームは20日、「市場機能は今年に入り著しく改善している」と指摘した。

さまざまな年限の金利に影響を及ぼすというベッセント氏のイールドカーブ・コントロール構想は、米国債市場だけを念頭に置いたものではない。AIに多額の資金を投じ、その資金を借り入れで賄うハイパースケーラーの起債動向にも目を向けている。

巨額のAI投資はいずれ、インフレを伴わない成長の加速につながるが、目先では「資本の奪い合いを引き起こしている」と、ベッセント氏は指摘。「自分が最高財務責任者(CFO)の立場なら、いわゆるベリー、つまり5年程度の年限の債券発行を増やすことを考える」と語った。

金利形成に影響を与えようとする一連の動きは、「ベッセント・プット」が存在するのではないかとの議論すら呼んだ。これは、かつてグリーンスパン元FRB議長が株式市場の下落局面では必ず救済に動くと考えられていた「グリーンスパン・プット」になぞらえた表現だ。

INGグループのグローバル市場責任者クリス・ターナー氏も、この言葉を使った一人だ。ただ、債券利回りを対象に同様のことを実現するほどの手段をベッセント氏が持っているのか、疑問視する向きは多い。

ベッセント氏による債券市場への介入についてコメントを求めたが、財務省から回答は得られていない。

「悪い情報」

ベッセント氏は米国債利回りの上昇について、投資家は「悪い情報」に基づいて行動する一方、自身は実態を把握するうえで「非対称的」な情報を入手していると述べた。

「財政赤字を巡っては多くの誤情報が出回っている」とし、トランプ政権が進めているとする財政再建策に改めて焦点を当てる考えを示した。

ベッセント氏は今後数日以内に、ボート行政管理予算局(OMB)局長とともに「歳入面と歳出面の双方で何ができるかを精査する」と説明。具体的には、不正対策の強化や、州政府への移転支出削減などを挙げた。

イーロン・マスク氏が率いた政府効率化省(DOGE)も昨年、同様の取り組みを進めたが、歳出削減の規模は自ら掲げた見通しを下回った。

エバーコアISIのチーフストラテジスト、サラ・ビアンキ氏は、「政権が現時点で財政赤字に対して実質的な効果をもたらす措置を講じられるのか、当社では懐疑的にみている」とリポートに記した。

財務省の利払い費は年間1兆ドルを大幅に上回る水準に膨らんでいる。これに加え、社会保障、メディケア(高齢者向け医療保険)、メディケイド(低所得者向け医療扶助)が、国内総生産(GDP)比約6%に達すると予想される今年の財政赤字の主因となっている。

こうした社会保障給付制度の抜本改革は「短期的には実現の可能性が極めて低く」、11月の中間選挙で民主党が上下両院の少なくとも一方を制すれば、なおさら困難になるとビアンキ氏は指摘した。

ベッセント対ウォーシュ?

一方、国債の発行や買い戻しの見直しは、ベッセント氏の権限で実施できる。

買い戻し増額は、財務省が国債発行に関する中長期的な指針を微修正してから2週間後に打ち出された。アナリストによると、この修正によって、最も利回りの高い超長期債の発行を減らす余地が生まれた。

こうした手法は、ベッセント氏がかつて批判していたイエレン前財務長官の国債発行戦略によく似ている。同時に、ウォーシュ氏との間に暗黙の意見対立があることもうかがわせる。

ウォーシュ氏は、利回りが均衡水準から外れていると問題視するどころか、その上昇を事実上容認する姿勢に近い。

インフレ率が上昇してもFRBは金融政策を引き締めていないが、「市場はかなりの調整を行った」とウォーシュ氏は前回の金融政策会合後の会見で発言。「市場価格は、適切と判断する方向と規模で引き続き反応していくだろう」と述べた。

ウォーシュ氏は28日にカンザスシティー連銀が毎年開催するジャクソンホール会議で講演を行う予定だ。

7月の記者会見が不評だったことを受け、同氏が信認回復を図るかに注目が集まっている。ウォーシュ氏はその会見で、金利据え置きの理由を十分に説明できず、今後数カ月に利上げする可能性にも言及しなかった。さらに、FRBのインフレ目標が1月に変更される可能性を示唆した。

「流れを一変も」

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の米国マクロ戦略責任者ジョージ・ゴンサルベス氏は、「ウォーシュ氏が、どのような指標を提示し、それをどう使い、今後3-6カ月についてどんな政策運営を考えているのかを実際に説明できれば、流れを一変させるだろう」と指摘。「少なくとも、市場が何に注目すべきかを示す必要がある」と話す。

ウォーシュ氏は、現在約4兆5400億ドルの米国債を抱えるFRBのバランスシートを見直したい考えだ。また、新たな「FRB・財務省アコード」の必要性にも言及しているが、具体的な内容は明らかにしていない。

1951年に結ばれた元の協定は、債券市場におけるFRBの関与を大幅に制限し、イールドカーブ・コントロール政策に終止符を打った。米政策当局が今、本気で借り入れコストを引き下げたいのであれば、むしろ逆方向の対応が必要になる可能性がある。

「買い戻しは実質的な効果よりもシグナルとしての意味合いが強い」と話すのは、JPモルガンやブリッジウォーター・アソシエーツでの勤務経験を持ち、現在は外交問題評議会(CFR)のシニアフェローを務めるレベッカ・パターソン氏だ。

規模をさらに拡大しても、市場の力学を変えることはできないという。その上で、「より効果的で持続可能な政策手段は、FRBによる量的緩和(QE)だ」と述べた。

ベッセント氏は就任前、FRBによる継続的な債券購入、つまりQEを「永続的な投薬療法」と表現していた。ウォーシュ氏もFRB理事を務めていた2010年代初頭にQEに反対し、その後も声高に批判してきた。

両氏がそうした姿勢を転換しない限り、イールドカーブを決めるのは投資家だ。

JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は、「米経済は底堅く、世界的に資本を奪い合う状況にある」とし、「金利が上昇しているのは理にかなっている」と語った。

原題:Bessent Has No Easy Fix for What’s Really Driving Bond Yields Up(抜粋)

--取材協力:Alice Gledhill、Jorgelina Do Rosario.

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