(ブルームバーグ):サウジアラビアは世界の顧客に原油を届ける方法の見直しを再び迫られている。イエメンの親イラン武装組織フーシ派の活動により、イラン戦争の開始以来、世界経済にとって重要な役割を果たしてきた代替輸送ルートの利用が難しくなっているためだ。
世界最大の原油輸出国であるサウジは、原油を積み込むためにタンカーにアフリカを迂回(うかい)させる一方、原油そのものは逆方向の困難なルートで輸送している。数百万バレルのサウジ産原油は、紅海の南端にあるイエメン近くの狭い海峡を避け、紅海を北上して運ばれている。一方、中国にはペルシャ湾のすぐ外側で引き取る中東産原油が提示されている。
イランがホルムズ海峡を事実上封鎖する中、サウジアラビアが原油輸出を西海岸の施設に振り替えることで原油価格の急騰を抑え、インフレ急加速から各国経済を守る上で極めて重要な役割を果たしてきた。だが、イランが支援するフーシ派の脅威がヤンブーにも及ぶ中、サウジと顧客は新たな対応を迫られている。
戦争は当初の想定より広範に拡大し、はるかに長期化しており、広範囲に及ぶコストの高いこうした迂回策は、貿易にもたらす戦争の悪影響を改めて浮き彫りにしている。
航行距離は2倍超に
最大の問題は、紅海南端の出口に位置する狭い海峡、バベルマンデブ海峡を航行するタンカーにフーシ派が脅威を及ぼしていることだ。
フーシ派が7月にサウジアラビアの港を封鎖すると表明した後、紅海沿岸のヤンブーにある同国の施設で原油を積み込むタンカーの多くは同海峡を避けるようになり、代わりに北上してスエズ運河を通り、エジプトの地中海沿岸にあるシディケリル港へ向かうルートを選んだ。
そこからアジアへ向かう場合は、アフリカを一周する必要があり、航行距離は2倍を超える約1万7000マイル(約2万7000キロメートル)となる。
それでも、多くのアジアの買い手がこのルートを選んでいる。過去1週間には、アジアの複数の製油会社がサウジアラムコからヤンブーで原油を引き取るよう求められたものの、同港への航行に応じる船舶を確保するのが難しいとして難色を示し、代わりにシディケリルでの引き取りを求めた。

そのためには、サウジアラビアは原油を紅海からエジプト経由で運ぶ必要がある。スエズ運河を通るか、エジプトを横断するパイプラインを利用することになる。ただ、スエズ運河は満載の超大型原油タンカーが航行するには水深が足りず、パイプラインもアジアが通常購入するサウジ産原油の全量を輸送できないため、物流上の問題は一段と複雑になっている。
過去1カ月には、韓国の長錦商船(シノコー)グループ、ギリシャのダイナコム・タンカーズ・マネジメント、ノルウェーのDHTマネジメントが運航する船舶が、ヤンブーからパイプライン南端のアインソフナまで原油を往復輸送する様子が確認されている。
空荷の超大型原油タンカーもバベルマンデブ海峡を避けている。先月末に同海峡を迂回したサウジのタンカー6隻は、アフリカを大回りするルートを取り、現在は地中海西側の入り口を目指してアフリカ大陸西岸を航行している。
アジアの製油会社の多くがシディケリルでの引き取りに応じる一方、サウジアラビアは中国の顧客に対し、ホルムズ海峡のすぐ外側にあるオマーン湾で原油を販売する提案を始めている。
衛星画像と船舶追跡データによると、オマーン湾では多数のサウジの石油タンカーが待機しており、同時にペルシャ湾内にあるサウジの施設でも活動が活発化している。同国の国営タンカー会社は海運市場で、慎重かつリスク回避を重視する運航会社として長年知られている。
こうした動きは、サウジアラビアがペルシャ湾から原油を運び出し、オマーンまたはアラブ首長国連邦(UAE)付近でホルムズ海峡を通過させる輸送を手配する可能性を示している。
こうした輸送方法はすでに、UAEや他の一部湾岸産油国にとって生命線となっている。中でも、この輸送で特に存在感を示してきたのがシノコーと、その中核事業を率いる鄭佳賢氏だ。同氏は徹底して表舞台に姿を見せない韓国の海運王として知られる。
サウジのペルシャ湾からの原油輸送が増える中、シノコーが再び関与している。ブルームバーグがまとめた海運データによると、8月11日以降、サウジのペルシャ湾岸の港から約800万バレルの原油を輸送した超大型タンカー4隻のうち3隻は、シノコーが所有していた。
シノコーは電子メールでのコメント要請に応じなかった。
供給割り当て
物流体制の見直しは、世界市場への原油供給を維持しようとするサウジアラビアの負担をさらに増している。
サウジは、いわゆる長期契約に基づく供給割り当てについて、各国が受け取る原油の量を数週間前に通知している
トレーダーによると、主要市場であるアジア向けの供給量は全体として、イラン戦争開始前に顧客が通常受け取っていた水準を依然として大きく下回っている。サウジの原油輸出全体も戦争前の水準を下回ったままだ。

物流上の問題によって原油の輸送コストは上昇しており、その追加費用はサプライチェーンのどこかで負担する必要がある。東アジアの少なくとも1社の製油会社は、追加コストを理由に、来月のサウジ産原油の積み込みを見送ることを検討している。
それでも、トレーダーによると、日本と韓国の製油会社はおおむね、シディケリルで積み込まれる来月分の原油を引き取る見通しだ。コスト増よりもエネルギー安全保障への懸念を優先している。
オマーン湾での販売にもかかわらず、中国による契約ベースの原油購入量は、戦争前の水準を引き続き大幅に下回る可能性が高い。中東の輸送ルートを巡る混乱が輸送コストを押し上げているためだ。
これに対し、欧州の製油会社は、アジアが負担する追加コストの恩恵を受ける可能性がある。過去1週間には、複数の欧州製油会社が9月分のサウジ産原油について割当量の全量を確保した。供給量の通知手続きが約1週間遅れていたことから生じていた懸念は和らいだ。
サウジアラムコはコメントを控え、サウジのエネルギー省はコメント要請に応じなかった。
原題:Saudi Oil Logistics Roiled Again by Houthis’ Red Sea Threat(抜粋)
--取材協力:Julian Lee、Sherry Su、Serene Cheong、Anthony Di Paola.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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