「消費者需要の弱さ」が浮き彫りになったウォルマート決算
米小売最大手ウォルマートの27年度第2四半期決算は、一見すると堅調な内容であった。売上高は恒常為替ベースで前年比+5%、調整後営業利益も同+17.4%増加し、会社は通期見通しを引き上げた。しかし、決算説明会を詳細に読むと、経営陣の関心はむしろ「需要の強さ」ではなく「需要の弱さ」への対応に向けられていたことが分かる。
実際、ジョン・デビッド・レイニーCFOは消費環境について、「年初と比べると消費者の負担は増している。特に燃料価格上昇が影響している」(筆者訳。以下同)と述べた上で、「6月は特に顕著だった。消費者は何を買うかについて選択を迫られていた」と説明した。また、「価格を下げたからといって、すぐにその効果が完全に現れるわけではない」とも述べており、需要環境が決して強くないことを示唆している。
さらに、ジョン・ファーナーCEOは「顧客は依然として圧力を感じている」と述べ、「だからこそ私たちは価格投資を行った」と説明した。実際、ウォルマートは第1四半期末時点の約7,000件から、第2四半期末には11,000件へとロールバック(値下げ)を拡大したという。
関税還付は値下げ余力を生んだが本質は「需要対策」
今回の値下げの原資となったのは関税還付金だった模様である。ファーナーCEOは、「関税還付金についても、可能な限り価格投資へ振り向けると申し上げてきた。そして実際その通りに実行している」と説明した。重要なのは、ウォルマートが値下げによる数量増加に期待している一方で、その背景には、消費者需要の鈍化に対する警戒感があるとみられる。ファーナーCEO自身も、「消費者は価格が下がったからといって突然たくさん食料品を買うわけではない。しかし時間が経つにつれて、ロールバックや低価格によって顧客との信頼関係が築かれていく」と述べている。
少なくとも足元のインフレ率想定は極めて低い
こうした需要環境を反映する形で、ウォルマート経営陣はインフレについて極めて落ち着いた認識を示していた。ファーナーCEOはインフレ率について、「全体として見ると、今年を通じてインフレ率はかなり低い環境が続いている。概ね1~2%程度のレンジである」と説明した。
FOMC議事要旨も物価上振れリスクの後退を示唆
このウォルマートの認識は、7月FOMC議事要旨とも整合的である。議事要旨によれば、「大多数の参加者は、関税および過去のエネルギー価格上昇の影響が薄れるにつれ、年後半にはインフレ率が低下すると予想した」「複数の参加者は、過去の関税引き上げによる価格水準への転嫁は概ね完了したと評価し、最近発表された関税措置のインフレ率への影響は限定的になる可能性が高いと判断した」(筆者訳。以下同)とされていた。
加えて、「数名の参加者は、自らの企業関係者との対話を踏まえ、企業は利益率を圧縮することで投入コスト上昇を吸収していると報告した」とされていた。すなわち、企業は投入コスト上昇の一部を自ら吸収しており、価格転嫁力は必ずしも強くないことが示唆される。
ウォルマートが大規模な値下げを実施している事実と合わせて考えれば、少なくとも現時点において需要超過によるインフレ加速が起きているようには見えない。
問題は「悪い金利上昇」
以上を踏まえると、市場が懸念するようなインフレ再加速を理由とするFRBの再利上げや長期金利の上昇リスクは、それほど大きくないだろう。むしろ問題は、足元で起きている債券市場の需給悪化にともなった「悪い金利上昇」である。
ベッセント財務長官は8月20日、国債バイバックのさらなる増額の可能性に言及したほか、財政健全化へのコミットメントも改めて示した。これらはいずれも長期債・超長期債のリスクプレミアムを抑制することを意図したコミュニケーションと解釈できる。
AI投資拡大を背景として、債券市場では、AI投資拡大に伴うハイパースケーラーの巨額社債発行が国債需給を圧迫する要因として意識されている。確かに、彼らにとってはAI投資の期待収益率が高いため、高金利でも投資採算が取れるのかもしれない。しかし、それはあくまでAI半導体関連という限定された領域における話である可能性が高い。
しかし、ウォルマート決算が示したのは、消費者レベルでは需要が決して強くないという現実である。ベッセント財務長官による一連の発言が示唆するように、米国債利回りが実体経済の基礎的な需給環境対比で高止まりしているのであれば、それは米国経済全体として債務負担が過剰な状態に近づいていることを意味する。
そして、経済は波及するものである。消費者レベルの需要の弱さが続けば、最終需要の低迷を通じて企業収益全体を圧迫する可能性がある。ハイパースケーラーだけが高収益を維持できたとしても、それだけで米国経済全体の高金利環境を正当化することは難しいだろう。仮にハイパースケーラーの収益率が極めて高かったとしても、それだけで米国全体の高金利環境が正当化されるわけではない。
これまでは長期金利上昇のマイナス効果を、AI・半導体関連株を中心とした株価上昇が相殺してきた。資産価格上昇に伴う資産効果が消費を支えてきた側面も大きい。しかし、逆に言えば、AI関連株が再び大幅上昇し、資産効果を通じて家計需要を押し上げる展開にならなければ、今回のウォルマート決算が示した需要不足は今後より深刻な問題として意識されるだろう。消費者物価よりも、むしろ需要不足こそが米国経済の次のテーマになりつつある。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)