子牛を題材にした低予算アニメが中国で思わぬ旋風を巻き起こしている。ネット上の嘲笑が数百万元規模のチケット販売につながり、AIが生み出す洗練されたエンターテインメントの時代に、粗削りなアニメーションの価値を巡る議論も呼んでいる。

独学の映画制作者とその母親が手がけた86分の作品「牛来」は、劇場公開から最初の10日間の興行収入がわずか7000元(約16万円)だった。

しかし、チケット販売プラットフォームの猫眼によると、18日までに累計興収は2000万元を超え、中国の1日当たり興収ランキングで5位に浮上。1億3500万元に達する勢いとなっている。

このアニメに対する辛辣なコメントがかえって口コミを広げ、多くの観客は出来の悪い作品を見るつもりで劇場に足を運んだ。18日午後、北京市中心部の満員の映画館では、観客は身構えて鑑賞を始めたものの、最後には心から楽しんでいた。

「ネットの投稿を見て、笑おうと思って来ました」と16歳の高校生は話した。「確かにとても楽しいです。ストーリーの筋も完全に通っています!」

タイトルが「こっちへおいで、牛」を意味するこの作品は、生まれたばかりの子牛、牛来が友情や信頼、責任、犠牲について学んでいく物語で、たいていは母親がそばにいる。その旅は結局、夢だったことが分かる。ハッピーエンドでは、牛来の母親が子牛を父親に引き合わせる。

観客がスクリーンを撮影したり、作品の展開について短く話したりしても、誰も不満を口にしなかった。アニメーションはぎこちなく、せりふのテンポも遅かったが、若者が中心の観客席は終始明るい雰囲気に包まれ、全員が最後まで席を立たなかった。

地元メディアの報道によれば、「牛来」が思いがけず興行収入を伸ばすまでの道のりは5年前に始まった。造園設計を学んだ辛宇萌氏(34)は、国有企業に勤める母親と共に、このプロジェクトに取り組み始めた。

関連する資格も経験もなかった息子と母親だったが、アニメーション技術や脚本執筆、声優まで、必要な技能を独学で身につけた。母親の孫麗芳氏は脚本だけでなくエンディング曲も手がけ、その哀愁を帯びた旋律と歌詞は観客の心を捉えた。

こうした制作の背景も、このアニメが中国の人々から一段と親しまれる要因となった。手作り感のあるアニメーションについて、AI時代には珍しい誠実さが表れているとの投稿もネット上で見られた。

素朴なキャラ

だが、本格的に注目を集め始めたのは、一部の観客がグロテスクな牛の画像をソーシャルメディアに投稿してからだった。

当初は、これほど粗雑に作られた作品がなぜ当局から劇場公開を認められたのかと、憤りに近い嘲笑が広がることもあった。この映画はマネーロンダリング(資金洗浄)や政府補助金の獲得を目的に作られたのではないか、と疑う声さえあった。

ところが突然、風向きが変わり始めた。素朴なキャラクターがネット上でミーム化したことも追い風となり、当初の嘲笑は好奇心へと変わった。実際にどれほどひどい映画なのか、一目見てみたいという人が多かった。

よりニッチな層の心もつかんでいる。例えば一部の個人投資家は、牛を描いたアニメを強気相場の前兆と受け止めたりした。母親を求めて叫ぶ子牛の姿に比喩的な意味を見いだし、中央銀行に支援を求める訴えを表していると解釈する人もいた。

実際、この映画の思わぬ成功は株式市場にも波及し始め、投資家は社名に牛という漢字を含む企業に殺到。化学品メーカーの河北金牛化工と農業・畜産会社の羅牛山は今週に入り株価が一時、大きく値上がりした。

ファンが制作したコンテンツは絵文字として広がり、瞬く間にソーシャルメディアを席巻した。低予算作品で公式ポスターも用意されていなかったため、観客を呼び込もうと急きょ手描きのポスターを制作した映画館もある。

「牛来」は、中国のコメディー映画「歓迎来龍餐館(ようこそ、龍レストランへ)」やクリストファー・ノーラン監督の「オデュッセイア」などの商業的成功には及ばない。それでも制作費が低いため、世界2位の映画市場である中国で、史上最も収益性の高い映画の一つになる可能性がある。

中国版インスタグラムとも呼ばれるソーシャルメディア「小紅書」では、あるユーザーがこの作品を、台座に置いた便器を彫刻作品と呼び物議を醸したコンセプチュアルアートの先駆者マルセル・デュシャンの作品群になぞらえた。

「『牛来』は間違いなく、現代のアニメーション業界の美学に対する裏切りだ。その粗削りさは妥協の産物ではない。主流の美的感覚にとって、マルセル・デュシャン的な転換点だ」

原題:Chinese Cartoon So Bad You Have to See It Becomes Box Office Hit(抜粋)

--取材協力:Jing Jin、Kevin Dharmawan.

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