GDP統計が示した低成長の定着

8月17日に公表された2026年4-6月期GDP統計によると、実質GDP成長率は前期比年率+1.1%となり、市場予想を下回った。前年同期比では+0.7%と前期の+0.5%から伸び率が加速したものの、4四半期連続で1%を下回る低い伸びにとどまっている。景気後退局面にあるとは言えないものの、日本経済の潜在的な成長力が高まっているとは評価し難い。むしろ今回の結果は、トレンド成長率が低位で停滞している現状を改めて示したものと考えられる。

需要項目別に前年同期比で見ると、民間最終消費支出は+1.1%、民間企業設備は▲1.1%、財貨・サービスの輸出は+1.3%となった。主要需要項目はいずれも大きな伸びを示しておらず、日本経済が緩慢な拡大局面にとどまっていることがうかがえる。

個人消費も拡大しにくいが、課題なのは設備投資

個人消費については、実質賃金が低迷している状況を踏まえれば、むしろ健闘していると評価できる。背景には株高や資産価格上昇による資産効果があるとみられ、とりわけ金融資産を多く保有する富裕層や高所得層の消費が全体を支えている可能性が高い。もっとも、実質所得が大幅に改善する見込みは乏しく、今後も個人消費が急拡大する可能性は高くない。当面は現在と同様の緩やかな推移が続くだろう。

一方、設備投資の弱さは目立つ。企業利益は高水準を維持しているものの、その一部は円安による押し上げ効果によって説明できる。利益は名目値で計測されるため、為替要因によってかさ上げされやすい。他方で実質ベースの企業活動はそれほど力強く拡大していない可能性がある。企業収益が好調であっても、需要見通しが改善していない以上、大規模な設備投資に踏み切るインセンティブは高まりにくい。

AI関連投資や省人化投資への関心は高いものの、それらは需要急増への対応というよりも中長期的な効率化投資の色彩が強い。結果として、設備投資は増加するとしても緩やかなものにとどまる可能性が高い。

政府の戦略投資を待つ企業の慎重姿勢

設備投資が弱い背景として、高市政権が打ち出すとみられる戦略投資政策の全容を見極めたいとの企業心理を指摘する声もある。市場では、27年度当初予算において戦略投資関連の政府支出が増額されるとの見方が根強く、その内容が明らかになるまで投資を見送る企業も少なくないと考えられる。

こうした見方には一定の説得力がある。しかし、政府予算の内容が明らかになるまで待つことができる設備投資というのは、もともと緊急性が高い投資ではないとも言える。本当に需要が急増し、供給能力の不足が深刻化しているのであれば、企業は政策動向を待たずに投資を前倒しするはずである。

つまり、企業の慎重姿勢は政策要因だけでなく、需要の先行きに対する慎重な見方を反映している可能性が高い。今回の設備投資の弱さは、日本経済全体の需要不足という問題を映し出しているとも解釈できる。

「供給力不足」論が示唆する「真の供給力」の高さ

近年、人手不足によって既存設備を十分に活用できなくなり、日本経済の供給力そのものが低下しているとの議論が増えている。確かに短期的にはそのような現象が起きている可能性がある。

例えば、人的資本と生産資本A・B・Cを活用して生産を行う企業を考えよう。人手不足によって生産資本Cを使えなくなれば、生産は人的資本と生産資本A・Bのみで行われることになる。この場合、生産資本Cは遊休状態となり、実際の供給能力は低下する。その結果、需要が増加しても対応できず、需給ギャップはタイト化しやすくなる。

しかし、長期的な視点で見れば話は異なる。需要が増加した場合、企業は新しい生産設備を増設する前に、まず既に存在する遊休設備を活用しようと考えるだろう。その際に必要となるのが、人手不足を補うための省力化・省人化投資である。新たな生産資本D(省力化・省人化資本)を導入することで、これまで活用できなかった生産資本Cが再び稼働可能となる。

重要なのは、生産資本Cそのものは既に存在しているという点である。設備が全く存在しない状態から新設する場合と比べれば、供給力の引き上げは比較的容易である。このように考えると、人手不足によって一時的に供給能力が押し下げられている可能性はあるものの、遊休資本を含めた「真の供給力」はそれほど低下していないと考えられる。

こうした視点から見ると、今後の設備投資は生産能力を大幅に拡大するものではなく、省力化・省人化を目的とするものが中心になるだろう。日本経済の供給力は緩やかに回復する可能性があるが、そのペースは決して速くない。今回のGDP統計は、需要不足と人手不足が同時に存在する日本経済の構造的課題を改めて示したと言える。今後も日本経済は、低成長と緩やかな供給力向上が並存する局面を続ける公算が大きい。

なお、日銀が重視する「基調的なインフレ率」を決める「基調的な需給ギャップ」にとって重要なのは「真の供給力」だろう。日銀は、人手不足によって生産能力が落ちていることを理由に「基調的なインフレ率」が高まっていると説明しているが、果たしてそれは本当に「基調」なのか、議論の余地があるだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)