■要旨
・20代の保険選びは比較検討の意向が強い反面、迷いやすい傾向。
・「必要最小限」の希望には自己基準だけでなく迷いや不安も混在。
・顧客自身の基準を言語化し、迷いに寄り添う支援が不可欠である。

はじめに~20代は生命保険に関心がないのか

20代の生命保険選びは、「まだ保険への関心が低い」「収入に余裕がないため、安い商品を選んでいる」「家族の支えがあるので、自分の保障を後回しにしている」と説明されることがあります。保障の必要性を具体的に考える機会が、まだ少ない人もいるでしょう。

ニッセイ基礎研究所「生命保険マーケット調査(2025年)」の20代1,637人を分析したところ、複数の商品や情報を比べ、自分なりに納得して選ぼうとする傾向は、生命保険の加入者側に多くみられるなど、今回の分析からは、こうした見方だけでは捉えきれない20代の姿が見えてきました。

20代と30~60代(全体)の違いが表れたのは、加入に関連する要因そのものより、選ぶ途中の心理的なつながりです。例えば、20代では、比較検討と迷いの関連がやや強く、迷いと、保障や負担を「必要最小限」に抑えようとする傾向との関連も強くみられました。20代の生命保険選びを考える際には、加入の有無に加えて、選ぶ途中で何に迷っているのかにも目を向ける必要がありそうです。

加入に関連する要因は、20代だけ特別ではない

本稿は20代の生命保険加入の迷いと加入を左右する要因を整理しており、「顧客の考え方・状況」「判断の流れ・心理」「加入との関連」の大きく3つで構成されています。図中のオッズ比(OR)とは、前稿と同様、それぞれの傾向と加入との結びつきを示す数値です。1より大きい場合は加入者側、1より小さい場合は非加入者側との関連を表します。

「加入との関連(20代)」を見ると、「商品や情報を比較して選びたい(比較検討志向)」「保険料や保障額について自分なりの目安を持っている(自己基準)」「保障や手続きの負担を必要最小限に抑えたい(コスト最小)」という傾向は、加入者側に多くみられました。

反対に、「保険が難しく分からない、必要だと思っても動けない(意思決定回避)」といった迷いは、非加入者側と関連していました。

今回の分析では、これらの関連の強さには、20代と30~60代(全体)で明確な差は確認されていません。比較する人や自分なりの基準を持つ人が加入者側に多く、迷いの強い人が非加入者側に多いという基本的な関係は、20代を含む幅広い年代に共通していることがわかりました。

また、「家族の支えがあるため、自分の保険を後回しにする(家族支援による先送り)」という傾向は、30~60代では非加入者側と関連していましたが、20代では明確な関連がみられませんでした。

家族から得られる支援だけを、20代の非加入の中心的な理由とするのは難しそうです。

むしろ、年代差が表れたのは、図の中央にある心理傾向間の関連でした。

比較したい気持ちと、情報過多による迷いが重なる20代

「判断の流れ・心理」をみると、20代では、「複数の情報を比べて納得したい(比較して選びたい)」という傾向が、30~60代よりやや強く、逆に、「(生命保険選択について)自分なりの基準がある」という傾向が30~60代より弱い傾向がみられました。

生命保険には、保険料、保障内容、保障されない条件、保険期間、会社の信頼性など、確認する点が数多くあります。専門家の説明や口コミ、複数社の商品を調べても、何を優先するかが決まっていなければ、かえって違いを判断しにくくなる場合もあるでしょう。保険の制度や用語が分かりにくい、必要性を感じても動けない、加入後に後悔しそうで心配だ、といった気持ちには、知識不足だけでなく、「どれを選べばよいのか」「選び間違えないか」という不安も含まれていると考えられます。

この結果を見ると、20代には「何のために加入するのか」「何を優先するのか」など、比較に必要な情報と、比較するための基準を併せて示す情報提供の工夫が特に求められるとも言えそうです。

20代の「必要最小限」で良い、という態度の裏側をどう読むか

また、20代において、「分からず迷いが生じる(②)」と「必要最小限で決める(③)」との関連が30~60代より強くみられます。その一方で、前述の通り、自分なりの保険料や保障額の基準を持つこと(自分なりの基準がある)と、「必要最小限」との関連は弱くなっていました。

この結果を見ると、20代にとって「必要最小限」の選択には、少なくとも二通りの読み方が考えられます。

一つは、公的保障や勤務先の制度、貯蓄、家族構成などを確認し、「今の自分に必要な保障はこの範囲」「毎月支払える金額はここまで」と、30代以上と比べて弱いながらも、自分なりの基準から絞る選び方です。もう一つは、内容を十分に理解できない、将来も払い続けられるか心配だ、選択を間違えて後悔したくない、といった不安(②)から、まず負担を小さくしようとする選び方です。

実際には、この二つが一人の中で重なっている場合もあるでしょう。今回の調査で、20代を二つのタイプに分けたわけではありませんので、これは一つの解釈です。

ただしこの結果を見ると、「最低限でよい」という言葉を、保険料の希望としてだけ受け取ると、判断の背景を見落とすかもしれません。

自分なりの基準で絞っている場合は、何を残し、何を外すのか、その判断に見落としがないかを一緒に見る。一方、分からない「迷い」から絞ろうとしている場合は、何が分からず、どこで決めきれないのかを寄り添って整理する必要がある、とも言えそうです。

顧客自身の「ものさし」を言葉にする~無理なく、後悔しにくい加入へ

今回、20代で差が表れたのは、「比較検討志向」や「自己基準」といった加入に関連する要因の大きさというよりも、そこに至るまでの「比較」「迷い」、そして「必要最小限」の重なりでした。

しっかり比べて納得したい一方、比較することと迷いとの結びつきは30~60代よりやや強く、その迷いは「必要最小限」に絞る傾向とも強く関連していました。また、自分なりの基準から必要最小限に絞る関連は、30~60代より弱くみられました。こうした結果から、20代の「必要最小限」には、本人なりの基準に加えて、選びきれない迷いも重なっている可能性がうかがえます。

しっかり比べたい。しかし、比べるほど判断の難しさも意識され、迷いを抱えたまま「必要最小限」に絞ることがある。今回の分析からは、そんな20代の姿がうかがえます。

20代への提案では、特にこの「必要最低限でよい」という希望について、商品や選択肢を増やす前に、何を守りたいのか、何を基準に比べるのか、どこまでを今決めるのかを整理することが手がかりになりそうです。具体的には、「最低限、残したい保障は何か」「逆に、外してもよいと考えた保障と、その理由は何か」「今後、どのような生活の変化があれば見直したいか」を聞くことで、本人なりの基準があるのか、まだ決めきれない点があるのかを捉えやすくなるようにも感じられます。

また、迷いが先に立ち、将来までを一度に決めることに難しさを感じている場合は、営業担当者やウェブサイトが加入の結論を無理に先回りするよりも、顧客が自分なりの選択理由や基準、すなわち「ものさし」を言葉にできるよう、情報や確認の手順を整えたうえで「待つ」ことも、20代の加入の納得感を支える上で必要な姿勢とも言えそうです。

比較を迷いで終わらせず、現在の条件で選べる範囲を明確にし、必要に応じて見直せる道筋を示す。本稿の結果は、その実践に向けた一つの示唆にすぎませんが、20代との接点では、こうした支援が、無理のない加入や加入後の納得感、後悔しにくい選択につながる可能性があるのではないでしょうか。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 小口 裕)