(ブルームバーグ):トランプ米大統領は2期目に入って以降、公約に掲げた米経済の「黄金時代」はすでに到来していると繰り返し主張してきた。だが、有権者がそうした見方に同意していることを示す材料はほとんどない。
中間選挙まで3カ月を切り、選挙戦が本格化するなか、トランプ氏の認識と有権者の受け止めの隔たりが鮮明になってきた。議会の支配権維持を目指す共和党にとっても、この隔たりが重荷になりつつある。トランプ氏の楽観的な見方とは裏腹に、有権者の間では生活費の高騰やイラン戦争の影響への不安が広がる。
ホワイトハウス内では、選挙戦で訴えるに足る実績があるとの見方が強い。トランプ氏も11月の中間選挙に向け、実績を繰り返し強調するとみられる。一方、共和党内では、それだけでは不十分だとの懸念も出ている。特に接戦に臨む候補らは、追加減税など新たな経済政策を打ち出すようトランプ氏に求めている。
トランプ氏にとって、1期目には政治的な強みだった経済が、今では逆に大きな弱みになりつつある。

経済指標は強弱が入り交じる状況だ。失業率は低く、個人消費も堅調で、製造業には復調の兆しがみられる。一方、トランプ氏が2月下旬にイランとの戦争に踏み切って以降、インフレ率は再び3%を上回っている。
有権者がとりわけ重視しているのは、生活費の問題だ。バイデン前政権下で物価が急騰し、それがトランプ氏の大統領返り咲きを後押しして以来、生活費は有権者の大きな関心事であり続けている。
リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の世論調査平均によると、トランプ氏の政権運営に対する支持率は39%にとどまる。インフレ対応への支持率はさらに低い30%となった。英誌エコノミストと調査会社ユーガブの最新世論調査では、米国人の31%がインフレと物価を最も重要な問題に挙げた。2位の雇用・経済を17ポイント上回る関心の高さだ。
共和党候補は板挟み
第1次トランプ政権で要職を務めたマーク・ショート氏は、中間選挙で接戦に臨む共和党候補は「板挟みの状況にある」と指摘する。
同氏は「共和党候補は、批判すれば大統領から攻撃されると考え、声を上げるのをためらっている。だが貿易などの問題では、多くの有権者は、自分たちの利益を守るため、候補者に大統領へ異を唱えてほしいと思っている」と述べた。
そのうえで、トランプ氏には訴えられる実績が数多くあるものの、「関税が生活費の負担増の一因になっていることは否定しにくい」とした。
側近らによると、トランプ氏は経済の現状について客観的な報告を受けているものの、重視しているのは、自らにとってプラス材料となる点だ。トランプ氏が実績として打ち出したいのは、国民の老後資産の増加につながった株高や、昨年に成立させた減税だろう。
ホワイトハウス当局者の1人によると、トランプ氏は牛肉価格など、国民生活に関わる重要な指標にも目を配っている。一方、別の当局者は、トランプ氏の経済認識には、FOXニュースやFOXビジネスを頻繁に視聴していることも影響していると話す。両チャンネルの報道は、おおむねトランプ氏に好意的だ。
下がらぬガソリン価格
トランプ氏は選挙演説で、物価高に対する有権者の懸念を認める一方、バイデン前大統領への批判を今も続けている。8月5日にはラスベガスで「忘れないでほしい。我々が引き継いだのは米国史上最悪のインフレだった」とし、「我々は物価を引き下げた。いまの状況に誰もが驚いている」と語った。
確かにバイデン氏の任期中、消費者物価の上昇幅は過去40年間の歴代大統領で最大だった。ただ、トランプ氏の就任時には、物価上昇のペースは鈍化していた。トランプ氏は就任「初日」に物価を引き下げると公約したが、今年に入ってインフレは再び加速している。

牛肉や電気代など、生活に欠かせない多くの品目の価格はなお高い。住宅も多くの人にとって手が届きにくい状況が続いている。30年物住宅ローン金利は足元で約6.7%と、今年最高の水準にある。
物価押し上げの大きな要因となっているのが、イラン戦争に伴うエネルギー価格の高騰だ。ガソリン価格は1ガロン4ドルを超えている。全米自動車協会(AAA)の20年余りのデータで、夏のこの時期になっても4ドルを上回るのは初めてだ。
トランプ氏とベッセント財務長官はここ数カ月、戦争が終わればガソリン価格は急落すると主張してきた。戦闘は小康状態にあるものの、原油供給の回復につながるような戦争終結の兆しはほとんどみられない。
エコノミストらによると、トランプ減税による税負担の軽減や還付金の増加が家計を支え、消費者は燃料高をしのいできたが、その余力はすでに失われている。

トランプ氏の経済顧問を長年務めるピーター・ナバロ氏によれば、政権も生活費を巡る問題を認識している。
ナバロ氏は11日、ホワイトハウスで記者団に「インフレなど、国民生活を圧迫する問題に直面していることは、我々も十分に理解している」と発言。そのうえで「トランプ氏の経済政策を遂行するため、我々は全力で取り組み、成果も上げている。だがメディアはその成果を十分に伝えていない」と批判した。
「もううんざりだ」
トランプ氏自身は、経済の重要分野の一つである製造業の改善を示すデータを強調している。
米供給管理協会(ISM)の製造業景況指数は7月、AI関連の設備増強による旺盛な需要を背景に、約4年ぶりの高水準となった。昨年の税制法に盛り込まれた措置も設備投資を後押しし、企業投資は今年に入って加速している。
それでも多くのエコノミストは、トランプ関税に伴うコスト増や先行き不透明感が、AI分野以外での雇用や新たな投資を抑えていると指摘する。米国では直近2カ月で製造業の雇用が1万6000人増えた。ただ、それ以前には、第2次トランプ政権発足以降で約10万人減っていた。工場建設も、バイデン前政権の優遇策を背景に2024年につけた過去最高水準から減少している。

ホワイトハウスは、工場建設が今後持ち直すと予想している。その根拠として、アップルや日本製鉄傘下のUSスチールといった企業のほか、アラブ首長国連邦(UAE)や日本などの同盟国が表明した総額10兆7000億ドルの投資計画を挙げる。一方、批判的な立場からは、こうした投資計画の多くはまだ確定していないか、すでに進行中だったとの指摘が出ている。
選挙戦が本格化するなか、米経済を巡ってはさまざまな議論が熱を帯びている。その一つが、経済の恩恵が富裕層に偏り、多くの有権者には恩恵が及びにくい「K字型」の経済になっているという問題だ。
ベッセント財務長官は先に、CNBCの番組で「K字型経済は終わった」と述べ、この議論には「もううんざりしている」と語った。バンク・オブ・アメリカ研究所のデータには、こうした見方を裏付ける材料もある。低所得世帯の賃金の伸びが最近、高所得世帯を上回ったことが示された。
一方、別の指標は格差がなお残っていることを示す。生産部門や非管理職で働く人の時給の伸びは、物価上昇に追いついていない。株高で生まれた富の大半も、もともと裕福だった層に集中している。キャピタルゲイン減税が実施されれば、最も大きな恩恵を受けるのはこうした富裕層だ。
しかし、こうした経済指標や世論調査を目にしても、トランプ氏が大きく動じることはなさそうだ。
元側近のショート氏は「トランプ氏は人とは逆の道を行くタイプで、自分の主張を有権者に売り込む力には絶対的な自信を持っている」と語った。
原題:Trump’s ‘Golden Age’ Economy Pitch Fizzles With Midterm Voters(抜粋)
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