WSJが指摘したFRB独立性への懸念と、ベッセント氏のニック氏批判の関係
ウォーシュ氏のスタンスについて、FTとWSJがそれぞれ興味深い記事を配信した(以下、FTの引用は英語版の筆者訳で、WSJの引用は日本語版の記事)。
FTは「ウォーシュ氏の戦略の柱の一つは、政策当局者による市場へのガイダンスを大幅に減らすこと」「FRBと投資家との間のフィードバックループを断ち切ることで、市場が当局者の発言のヒント探しに費やす時間を減らし、経済指標そのものにより注目するようになることを期待している」と説明した。その上で、ウォーシュ氏は市場のインフレ予想が安定していることを評価しているとした。
一方、「関係者によれば、今後数週間で公表されるインフレ指標が強い内容となり、市場が利上げ期待をさらに高めるようであれば、ウォーシュ氏は9月会合で利上げを実施する用意がある」と報じた。
基本的には市場機能を尊重する一方、その結果として、市場がFRBはビハインドザカーブに陥っていると判断することを避けたいのだろう。仮にFRBが利上げを実施したとしても、それはタカ派的なものというよりは、FRBの信認を守るためのパフォーマンスだということになりそうである。
他方、WSJは、「ドナルド・トランプ米大統領が、米連邦準備制度理事会(FRB)のケビン・ウォーシュ議長と繰り返し電話で話していることが、事情に詳しい関係者の話で分かった。大統領と中央銀行トップの間で近年の慣例とは異なる意思疎通のルートが維持されている」と報じた。
「トランプ氏とウォーシュ氏が金融政策について議論したかどうかは明らかではない。会話の内容に詳しい関係者は、ウォーシュ氏が上院で承認されて以来、トランプ氏が金利の話題を持ち出したことはないと主張している」とされたものの、「トランプ氏とウォーシュ氏の関係は、中央銀行の独立性に対する懸念を強める可能性がある」とも指摘された。
実際の両者の関係については分からないが、トランプ大統領はパウエル前議長を公の場で批判し、FRBの独立性が脅かされることが市場のリスク要因となっていたことを考慮すると、トランプ大統領がFRBに対する圧力のかけ方を変えた可能性は十分にあるだろう。WSJが報じたように、非公式の場で議論が行われ、実際にはFRBの独立性は低下している可能性がある。
このWSJの記事を読んだ際、8月5日にベッセント米財務長官が「ウォール街連邦準備制度のハイライトの一つは、WSJのニック・ティミラオスみたいな、ジャーナリストのふりをする速記者たちが、事前に情報をかみくだいてもらわないと本物の経済や金融政策分析なんてできないから、連邦準備制度の裏方ゴシップを報道する羽目になることを眺めることだった」(訳はXの自動翻訳機能による)とXにポストしたことと無関係ではないだろうと、筆者は感じた。
ニック・ティミラオス氏は前述したWSJの記事の筆者の1人である。財務長官による記者個人に対する批判としては、かなり強い表現である。仮にこの批判とFRBの独立性に関するWSJが関係しているとすれば、ベッセント氏にとって困った内容だったということだろう。
これらの状況をまとめると、①WSJがFRBの独立性を疑問視する記事を書き、②それを事前に知ったベッセント氏がニック・ティミラオス氏を痛烈に批判し、③FTはウォーシュ氏が「小さなFRB」を目指しつつも市場が動けば利上げも辞さない姿勢を紹介した(FRBによる火消しとの見方も可能か)、という流れが浮かび上がる。
今後、FRBの独立性が疑われれば、それを払しょくするためにFRBが利上げを実施する可能性はある。しかし、それはFRBのタカ派化を示すものではないだろう。
※2026年8月10~12日は筆者都合によりコラムの配信はない予定です。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)