(ブルームバーグ):米OpenAIの対話型AI「ChatGPT」に対抗するため、米アルファベット傘下グーグルが同社初のチャットボット「ジェミニ」を2023年に発表してから数日後、グーグルの幹部ジェフ・ディーン氏があるAI会議に足を運ぶとたちまち参加者に取り囲まれた。
ディーン氏がふと腕時計を見て、数分後に講演を控えていることに気付くと、会議の参加者が自撮りに殺到した。影響力のあるテクノロジー界のリーダーがその場を離れる前に一緒に写真を撮ろうとしたのだ。
グーグルの社員は今、AIのパイオニアであるディーン氏の退社に身構えている。20年余り前に同社で働き始めたディーン氏は6日、同僚3人と共にグーグルを退社し、スタートアップ「ディスカバリーループ」を立ち上げる計画を明らかにした。
この発表は、AI研究所グーグル・ディープマインドを率いてきた先駆的研究者のデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)が同研究所の会長職に就くなどより広範な経営陣刷新の一環だった。
ディーン氏の退社は、ここ数年のグーグルAI部門で最も重大な人材流出の1つとなる。OpenAIや「Claude(クロード)」の米アンソロピックに後れを取らず競争を続けられるか不透明感が漂う中での退社でもある。
グーグルの現役および元従業員らによれば、同社のAI部門指導体制刷新を受けて社内の士気が低下した。ディーン氏を失うことで、トップクラスのAI人材の採用がさらに難しくなるとの懸念もあるという。
ディープラーニング
ディーン氏は1999年に30人目の社員としてグーグルに入社し、検索から広告、半導体まで同社の主要製品のほぼすべてで重要な役割を担ってきた。そのキャリアの集大成として、同社のチーフサイエンティストを務め、AIのイノベーションを主導してきた。
グーグルで長年ディーン氏と働いたドグス・チュブク氏は、「彼は多くの意味で現代のディープラーニングを生み出した」と述べた。チュブク氏のスタートアップ「Periodic Labs」にディーン氏は出資している。
ディーン氏は2011年に「グーグルBrain」を共同創設し、その後15年間にわたり同社のAI開発を代表する存在だった。2016年には20人余りの共同開発者と共に、AIシステムをより容易に構築できるオープンソースソフトウエア「TensorFlow」を開発した。

同氏を巡って論争もあった。グーグルの倫理的AIチームの共同責任者2人は数年前、同社を追われた。2人が執筆した大規模言語モデル(LLM)のリスクを扱った論文についてディーン氏が懸念を示した後だった。
もともとディーン氏はこの研究者らを早くから支持していたが、研究者側がハラスメント申し立てへのディーン氏による対応が遅過ぎると感じていたことなどから、同氏とチームとの関係が悪化した。グーグルは当時、この問題への同社の対応は適切だったとの立場を示した。
ディーン氏は政治的問題について公に立場を表明することもあった。今年に入り米移民・関税執行局(ICE)の職員による抗議参加者殺害をX(旧ツイッター)への投稿で非難した。その後、国防総省との法的対立にあるアンソロピックを支持する法廷助言書を、グーグルやOpenAIの他の従業員と共に提出した。
グーグルがハサビス氏の指揮下でBrainとディープマインドを統合したことに伴い、ディーン氏が事業運営や製品開発で果たす役割は小さくなっていた。それでも影響力を保ち、グーグルのAIソフトウエア部門と半導体部門の橋渡し役を務めるなど、両分野の自社開発をより緊密に連携させることに力を注いだ。
その間もディーン氏はグーグルを象徴する存在であり続け、同社の最重要技術の開発を方向付けただけでなく、その企業文化を体現してきた。
チュブク氏は、「彼は恐らくグーグルで最もグーグルらしい人物だ」と述べた。ある関係者は、今週開かれたディーン氏の送別会は陽気な雰囲気だったとし、多くの社員が同氏の新たな門出を喜んでいたと話した。
グーグルも出資
ディーン氏はグーグルの枠を大きく超えて影響力を広げてきた。ピッチブックがまとめたデータによると、少なくとも2014年以降、100社を超えるスタートアップに投資している。その多くはAIブームが加速した過去3年間に行われた。
ディーン氏は自身のスタートアップで、AIを活用して難易度の高い科学・工学分野の作業を自動化することを目指す。
ディスカバリーループはまず自社を最初の顧客として自らの技術を活用し、その後、より汎用(はんよう)的なアプローチに移行して、ハードウエアや材料設計、創薬、クリーンエネルギーなどの分野に取り組む計画だ(同社はディーン氏への取材要請に応じなかった)。
マッドロナ・ベンチャーズのマネジングディレクター、マット・マキルウェイン氏は、ハサビス氏とディーン氏は「AIを科学的発見や関連するイノベーション、とりわけ生命科学分野に応用するという情熱を優先している」と述べた。
アルファベットはディスカバリーループに出資している。同社はコンピューティング資源について、グーグルを使う方針で、グーグルは今後も当面、ディーン氏から恩恵を受ける可能性がある。
ワシントン大学名誉教授で、アレン人工知能研究所(AI2)の創設CEOだったオレン・エツィオーニ氏は、「『息子を失うのではなく、義理の娘を得るのだ』というよく知られた言い回しがある。アルファベット家は今回、ジェフ・ディーンを失うが、その一方で別の場所にジェフ・ディーンを得ることにもなる」と話した。
原題:Googlers Contend With Exit of AI Pioneer, ‘Most Google Person’(抜粋)
--取材協力:Julia Love.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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