・健康情報を活用する「ヘルスリテラシー」は国も向上を重視。
・加齢や日々の生活を通じ、ヘルスリテラシーは変化するものである。
・調査データを用い、加齢や経験の視点からその時系列変化を分析していく。
はじめに
健康の維持・増進には、健康に関する正しい情報を得て行動に結びつけることが重要である。2024年度からはじまった「第5次国民健康づくり対策(健康日本21(第三次))」においても、国民の健康増進に係る情報の収集を容易にし、ヘルスリテラシーの向上に繋げるために健康づくりに関する情報プラットフォームを充実するなど、ヘルスリテラシーの向上を重視している。
ヘルスリテラシーとは、一般に、「健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価し、活用する力」と説明される。健康に関する知識量そのものよりも、自ら必要な情報に到達し、それを活用するスキルに重点が置かれており、正しい情報に触れることなどを通じて、日々の生活の中で向上し得るものと考えられている。ヘルスリテラシーは時間の経過とともにどのように変化するのだろうか。
本稿では、ニッセイ基礎研究所が被用者(公務員もしくは会社等に雇用されている人)を対象として毎年実施しているインターネット調査の結果を使ってヘルスリテラシーの時系列変化を紹介する。
分析方法と結果
1|分析内容
本調査では、ヘルスリテラシーの測定にIshikawaらによる尺度を使った。具体的には、「(1)もし必要になったら、病気や健康に関連した情報について、新聞、本、テレビ、インターネットなど、いろいろな情報源から情報を集められる(以下、「情報を集められる」とする。)」「(2)たくさんある情報の中から、自分の求める情報を選びだせる(以下、「求める情報を選びだせる」とする。)」「(3)情報がどの程度信頼できるかを判断できる(以下、「信頼できるかを判断できる」とする。)」「(4)情報を理解し、人に伝えることができる(以下、「情報を理解できる」とする。)」「(5)健康改善のための計画や行動を決めることができる(以下、「行動を決めることができる」とする。)」の5つの項目について、「強くそう思う」から「まったくそう思わない」の5段階で尋ねた結果を使った。また5つの質問に対する回答について、それぞれ5~1点で得点化し、5項目の平均値をヘルスリテラシー得点とした。
分析内容は以下のとおりである。
(分析1)2019~2025年のすべての回に回答した1,103人の調査年別にみたリテラシー変化
(分析2)2025年調査に回答した5,784人の年齢、回答経験(回答回数)別にみたリテラシー変化
(分析3)2019~2025年のいずれかに回答したのべ41,403人の年齢(年次)、調査時点までの回答回数の変化にともなうリテラシー変化
2|(分析1)調査年別にみた変化
2019~2025年に実施した7回すべてに回答した1,103人を対象として、ヘルスリテラシーの得点とヘルスリテラシーを構成する5つの項目の得点の推移をそれぞれ見ていく。
ヘルスリテラシー得点は、上昇のペースには年による違いがみられるものの、2019年の3.31点から2025年の3.46点へと0.15点上昇していた。

ヘルスリテラシーを構成する5つの項目はいずれもおおむね上昇傾向にあった。特に、「(1)情報を集められる」は2019年から2020年にかけて最も大きく上昇していた。「(2)求める情報を選びだせる」「(3)信頼できるかを判断できる」「(4)情報を理解できる」も同時期に他の年と比べて大きく上昇していた。一方、それ以降は5項目とも緩やかな上昇にとどまり、「(5)行動を決めることができる」は2019年から2020年にかけてのみ低下していた点が特徴的である。

本調査は毎年3月に実施している。2020年は国内でも新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、健康に関する情報に接する機会が増加したほか、一斉休校など生活様式の大きな変化が生じ、健康行動の見直しが求められた時期であった。こうした状況が影響した可能性が考えられるが、その要因についてはさらなる分析が必要である。
3|(分析2)年齢、回答回数別にみた変化
続いて、2025年調査の回答者5,784人を対象に分析した。これまでの回答経験(回答回数)をみると、図表3のとおり、7回目だったのが1,103人(19.1%)、6回目だったのが887人(15.3%)、5回目だったのが468人(8.1%)・・・と続いた。
2025年が初めての回答だった人も1,494人(25.8%)いた。年齢群団別・回答回数別にヘルスリテラシー得点をみると、おおむね回答回数が多いほど点数が高い傾向があった。

4|(分析3)年齢(年次)の上昇と回答回数の増加にともなう変化
最後に、年齢(年次)変化は時間の経過にともなう個人の変化を示し、回答回数は調査への参加経験の蓄積を示す指標であり、両者は異なる側面を捉えていると考えられる。そのため、両変数を同時に投入することで、年次変化と回答回数の蓄積それぞれとヘルスリテラシーの関連を検討した。年齢(年次)の変化と調査時点における回答回数の変化によるヘルスリテラシー得点とヘルスリテラシーを構成する5つの項目の点数の変化について固定効果分析を行った結果を示す。毎年1回の調査であることから、年次(調査年)の変化と年齢の変化は同一とみなし、分析には年次(調査年)を使った。
年齢(年次)と回答回数それぞれとリテラシーとの関係をみるために、モデルはI(年次のみを説明変数)、II(調査時点までの回答回数のみを説明変数)、III(年次および回答回数を説明変数)、IV(年次と回答回数、およびこれらの交差項を説明変数)として分析を行った。なお、いずれのモデルにおいても未既婚、本人年収の変化は調整変数として投入した。
その結果、年齢(年次)および回答回数の増加は、ヘルスリテラシー得点ならびに項目「(1)情報を集められる」「(2)求める情報を選びだせる」「(3)信頼できるかを判断できる」「(4)情報を理解できる」「(5)行動を決めることができる」の得点と正の関連が認められ(図表5 モデルI、II)、年齢が高いほど、また回答回数が多いほどヘルスリテラシー得点が高い傾向がみられた。年次と回答回数を同時に投入すると、ヘルスリテラシー得点ならびに項目「(4)情報を理解できる」は回答回数と正の関係(モデルIII)、回答回数と年次の交差項で負の関係(モデルIV)を示していた。項目「(1)情報を集められる」「(2)求める情報を選びだせる」は、回答回数だけを投入した場合は正の関係(モデルII)、回答回数と年次の交差項で負の関係(モデルIV)を示していた。これらのことから、ヘルスリテラシー得点と、項目「(1)情報を集められる」「(2)求める情報を選びだせる」「(4)情報を理解できる」は、回答回数を重ねるごとに得点は高まるが、その影響は年々弱まっていた。一方、項目「(3)信頼できるかを判断できる」「(5)行動を決めることができる」は、年次を考慮しても正の関係(モデルIII)を示していたが、年次の経過にともなう変化はなかった(モデルIV)。
ヘルスリテラシー得点およびヘルスリテラシーを構成する5つの項目は年次と回答回数にともない上昇傾向が認められた。しかし、情報収集や情報の理解の上昇は年々弱まる可能性があった。

おわりに
本稿では、ヘルスリテラシーの年次変化について分析した。その結果、2019~2025年の7回すべてに回答した人では、ヘルスリテラシー得点は全体として上昇していた。また、ヘルスリテラシーを構成する5項目をみると、特に2019年から2020年にかけて「情報を集められる」をはじめとした複数の項目で大きな変化がみられた。
また、2025年調査の回答者を対象とした分析では、年齢が高いほど、また調査への回答回数が多いほど、ヘルスリテラシー得点が高い傾向がみられた。
個人の年次変化や回答回数の変化に着目すると、年次(年齢)を重ねても回答回数を重ねてもリテラシー得点および5つの項目の得点と正の関連がみられたが、今回のデータでは、年次(年齢)を重ねる影響より回答回数を重ねる影響の方がヘルスリテラシー得点や各項目への影響が大きくあらわれ、継続的な健康への関わりとも関連している可能性が示唆された。ただし、調査に繰り返し回答している人には、もともと健康への関心が高い人が多く含まれている可能性がある。そのため、回答回数が多いこと自体がヘルスリテラシーを高めたと結論づけることはできず、こうした対象者の特性も踏まえて解釈する必要がある。
ヘルスリテラシーは、加齢や社会環境の変化、新型コロナウイルス感染症の流行だけでなく、自身や家族の健康状態の変化、医療・健康に関する出来事など、さまざまな要因の影響を受けると考えられる。今後は、こうした要因を踏まえながらヘルスリテラシーの変化を把握するとともに、その向上に向けた取組を進めていくことが必要だろう。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子 )
