株価の上昇は「自律反発」の公算
7月30日の米国株式市場では、大きな材料がない中で株価が回復した。この日の材料としては、①原油価格が小幅に下落したこと、②前日のFOMCがハト派的だったこと、③4-6月期GDPにおいて個人消費が堅調な結果となったこと、④堅調な決算動向、などがあったが、ナスダック指数やSOX指数の大幅上昇(その上でダウ平均も堅調)を説明するような大きな材料はなかったと言える。このところ、ナスダック指数やSOX指数の下落幅が大きくなっていたことから、自律反発と言える動きが生じた模様であり、転換点とは言えないだろう。
ただし、この日の動きは株価が底割れしていく展開にはなりにくいということを示したという意味では、重要な動きだろう。買われ過ぎの警戒感が強くなったAI・半導体関連株から投資資金が流出したとしても、他の振り向け先が少ない。本来であれば逃避資金の受け皿になり得る債券が買われにくい状況が続いており、結局はAI・半導体関連株に投資資金が戻ってくることで、自律反発が強くなるのだろう。当面の株式市場は横ばい~やや弱めの推移になると、筆者はみている。
前日のハト派FOMCの結果を受け、利上げ観測は低下したまま
7月30日の米国債券市場では、前日のFOMCがハト派的なものだったことに加えて、6月のPCEデフレーターが市場予想とほぼ一致する結果になったことを反映し、短中期ゾーン主導で金利が低下した。長期金利は前日比▲0.4bp、2年金利は▲2.7bpだった。ウォーシュFRB議長はFOMC後の会見で、利上げを示唆するような発言を行わなかった。市場ではFRBのビハインドザカーブのリスクが意識され、イールドカーブがスティープ化しながら長期金利が上昇していた。この日に公表されたPCEデフレーターがインフレリスクの高さを示さなかったことで、債券が買い戻されるという展開になった。
なお、前日のFOMC後に長期金利が上昇したことから、FOMCがタカ派的だったという解釈も散見されたが、これは誤りだろう。FF金利先物市場の動きを確認すると、26年中の利上げ回数の織り込みはFOMCの前日(7月28日)が約1.66回、FOMC当日(29日)が約1.32回、この日(30日)が1.33回という推移である。ウォーシュ議長はコミュニケーションを最小限にしていく姿勢であることから、債券市場は経済データ次第の展開となっていくだろう。
為替介入とみられる動きの目的は「トラスショック」回避の公算
7月30日の19時過ぎと22時半過ぎ、円相場が急騰した。ドル円相場は累計で一時5円程度下落し、為替介入が実施された可能性が高い。日経新聞は「政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入に動いたほか、米通貨当局が介入の前段階である『レートチェック』をしたことが市場関係者の話で分かった。日米が連携して円安の抑制に動いたことになる」と報じた。筆者は、足元でやや円相場の弱さが目立っている点から、30-31日の日銀決定会合後に円安が進む場合、為替介入が入る可能性が高いとみていたが、想定よりも早い動きとなった。報道の通り為替介入が実施されたと仮定すると、現時点では下記のように、筆者は考察している。なお、実施の背景は複合的だと思われるが、想定される理由から筆者が重要だったと考える順に上から並べた。
・円相場の弱さが目立っており、為替介入はスタンバイの状態だった
・高市首相は消費減税を正式に表明し、財政リスクの高まりとともにトリプル安に発展する懸念(トラスショック)があった
・特に、円安が進めば減税効果が相殺されるという批判があったため、円安が進むことは避けたかった
・日銀決定会合では政策据え置きが予想され、円安が進む可能性があり、一時的にでも大幅な円安が進んだという事実を作りたくなかった
・前日にはFRBがハト派姿勢を示し、長期金利が上昇していたことから、円金利の上昇を防ぐ目的としても、米財務省の理解を得やすかった
・米国の株式市場は堅調な推移となっており、円高で日本株が大きく下落するリスクが低いタイミングだった
日銀のスタンスとの関係については、本日の日銀決定会合の結果を待つ必要がある。ただし、高市政権がトラスショック的な動きに対する警戒感を強めている蓋然性は高まったのではないだろうか。食料品の消費税率の引き下げについては、支持率低下を食い止める観点から、実施される方向となった。しかし、減税の判断については、(賛否ある中で)高市首相が決断したという構図になった。高市首相は後になって批判されるリスクを最小化するため、財政リスクに配慮せざるを得なくなったと言える。円安が進んで減税の効果がなくなったと批判されるリスクや、トラスショック的な動きに発展するリスクを考慮すれば、事前にそのリスクを最小化したいと考えるのは自然なことだろう。
財政リスクやインフレリスクが懸念される中で減税を実施するというポリシーミックスは市場にストレスをかけることになる。株価の下落を防ぐために日銀の利上げも避けたいということであれば、為替介入のような力業に頼らざるを得ない。この日、城内経済財政相は債券市場関係者などを対象に意見交換を実施する方針を明らかにした。市場に受け入れられやすい政策が実施されていれば、このような機会は不要であり、これも市場に対する力業の一つと言えよう。報道によると、米財務省がレートチェックを実施したようであり、米国側がドル安を容認している可能性が高いことは、高市政権にとってポジティブな材料である。しかし、日本が力業で難局に対応する時間帯が続きそうである。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)