(ブルームバーグ):赤字経営が続き、過去には法的問題もあった暗号資産(仮想通貨)決済企業のALT5シグマ(当時)の経営陣は昨年夏、大きな好機に見えた取引に飛びついた。相手は、トランプ一族の分散型金融(DeFi)プロジェクト、ワールド・リバティ・ファイナンシャルだった。
従業員数20人足らずのALT5は、ワールド・リバティが発行する暗号資産(トークン)「WLFI」の購入に事業の軸足を急転換した。ワールド・リバティは、トランプ米大統領と中東担当特使のスティーブ・ウィトコフ氏、それぞれの息子らが設立した企業で、ALT5に出資するとともに、ザック・ウィトコフ氏をALT5の新たな会長に起用した。

ALT5はWLFIを購入するため、ヘッジファンドのポイント72アセット・マネジメントやエグゾダス・ポイント・キャピタル・マネジメントなどの大手機関投資家から7億5000万ドル(約1200億円)を調達した。
個人投資家は、この強力で新たなつながりに期待し、ALT5株を買い進めた。取引前はおよそ1億ドルだった同社の時価総額は、その後10億ドルを突破した。トランプ氏の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏と次男エリック・トランプ氏は、ナスダック市場のベルを鳴らし、この取引を祝った。
それから約1年、熱狂は消えた。ALT5は社名と最高経営責任者(CEO)を変更し、監査法人も3社交代した。現在はAIファイナンシャルとなった同社の時価総額は6000万ドルを下回り、ナスダック市場から上場廃止となる可能性に直面している。同社が1枚20セントで購入したトークンの価格も、現在は約6セントまで下落している。

ALT5との取引により、トランプ一族には5億ドルを超える資金が流入した。これまで確認されている中で、暗号資産事業からトランプ一族にもたらされた資金としては最大級だ。最新の資産開示資料によると、トランプ氏は昨年、暗号資産関連事業から14億ドル超の収入を得ており、このうち5億5000万ドル超はワールド・リバティによるものだった。
一方、昨年8月にALT5株を購入した投資家は、90%超の損失を被っている。
トランプ兄弟の広報は声明で、「エリック氏もドナルド・トランプ・ジュニア氏もALT5の経営には一切関与しておらず、同社の状況についても把握していない」と説明した。また、「2人とも取締役に就任したことはなく、経営陣についても知らず、同社の事業運営に関与したことも一切ない」としている。
価値急落
ALT5は、WLFIと運命を共にする以前から苦戦していた。同社は、ラスベガスを拠点とするオピオイド依存症治療会社による買収を通じて上場して以来、一度も黒字化していなかった。買収した企業は、もともと家電リサイクル事業を手掛けていた。さらに舞台裏では、ALT5は幹部の1人にマネーロンダリングの疑いがあるとして、ルワンダの捜査当局への対応にも追われていた。
トランプ一族や、そのビジネスパートナーが、こうした混乱についてどの程度把握していたかは明らかではない。ホワイトハウスのアンナ・ケリー報道官は電子メールによる声明で、大統領の資産は「独立した第三者の金融機関が完全な裁量で運用する口座で管理されている」とし、「利益相反は存在しない」と強調した。

ワールド・リバティとの取引は、ALT5の苦境にさらに拍車をかけた。WLFIは取引開始以来、価格が約80%下落している。事情に詳しい関係者によると、ALT5はここ数週間、同社の事業を非公開企業のプライム・デルタに売却することを検討していた。ALT5の中核事業を日本のスタートアップ企業へ売却する計画も、7月中旬に頓挫した。
AIファイナンシャルのトニー・アイザック最高経営責任者(CEO)はインタビューで、同社の財務状況は健全だと述べた。
もっとも、アイザック氏は今後数週間で新たな難題に直面する見通しだ。同社が保有する69億枚のWLFI(現在の価値で約3億8000万ドル相当)は、8月12日に売却可能となるためだ。保有分を売却すれば、同トークンの価格をさらに押し下げる可能性がある。アイザック氏は、売却せずに保有資産を収益化する方法を検討する考えを示した。
アイザック氏は、「使える現金は十分にあり、保有トークンも間もなく自由に使えるようになる」と述べた。
ワールド・リバティの広報、デービッド・ワックスマン氏は、「暗号資産業界全体は現在低迷局面にあり、暗号資産を保有する多くの企業に影響を及ぼしている」とし、「われわれはWLFIガバナンストークンの長期的な価値を確信しており、今後何年にもわたり健全な市場供給を維持するため、コミュニティーとともに、このところいくつかの措置を講じた」と強調した。
法的トラブル
ALT5の沿革を詳しく調べると、慎重な投資家なら警戒しかねない事実がいくつも見つかる。
同社のルーツはカナダにあるが、正式な本社はラスベガスだ。創業者のジャンフランソワ・アミオ氏とジェイソン・ウォン氏は、米証券取引委員会(SEC)の制裁を受け、米上場企業の役員や取締役に就任することを永久に禁じられている。事情に詳しい関係者2人によると、ALT5が上場企業となった後、2人は正式な役職には就かなかったものの、事業運営では重要な役割を担っていた。
2015年、米連邦地裁判事は、アミオ氏と同氏が支配する企業に対し、米国のペニー株の株価を不正につり上げて利益を得たとのSECの申し立てを巡る和解の一環として、不正利益約600万ドルの返還と100万ドルの制裁金支払いを命じた。SECによると、アミオ氏は裁判に一度も出廷しなかった。
約2年後、カナダ当局は、同じ米企業に関連する相場操縦と共謀の罪を認めたアミオ氏に対し、禁錮3カ月と1100万ドル超の支払いを命じた。アミオ氏はコメントの要請に応じなかった。
もう1人の創業者ウォン氏は、活動を停止した企業や休眠会社を乗っ取り、不正に数十億株を売却したとして、2009年にSECが提訴したグループの一員だった。米連邦地裁判事は、ウォン氏らに対し、不正利益や利息、民事制裁金として数百万ドルの支払いを命じた。ウォン氏がALT5で果たした役割はこれまで報じられておらず、同氏の名前は同社の証券関連の提出書類にも記載されていない。ウォン氏もコメントの求めに応じなかった。
ルワンダでの法的問題は、資金凍結やマネーロンダリング疑惑を巡るものだ。ALT5によると、同社のカナダ事業責任者のアンドレ・ボーシェーヌ氏は、マネーロンダリングの責任があると認定され、裁判に出廷せず弁護も行わず、禁錮7年の刑に直面している。ALT5は、この判決を不服として控訴しているという。ボーシェーヌ氏はコメント要請に応じなかった。
ALT5は、同社がルワンダで詐欺被害を受けたと主張している。これまで報じられていないが、ブルームバーグ・ニュースが確認した捜査当局宛ての声明によると、ALT5はルワンダの金融機関にだまされ、300万ドル超の損失を被ったという。声明でALT5は「あらゆる段階で誠実に行動した」としている。
ワールド・リバティとの取引後も混乱は続いた。ワールド・リバティの幹部が取締役に就任してからの1年間で、旧ALT5は監査法人を3回変更し、経営陣も入れ替えた。年次報告書によると、AIファイナンシャルは2025年度に総額3億ドル超の損失を計上した。同社株は5月以降、1ドルを上回ったことがない。
それでも、一部の株主は同社株を保有し続けている。
ニューヨーク在住の公認会計士ビンセント・デリウ氏は、昨年9月に約3万ドル分のALT5株を購入した。その後約1年にわたる株価の下落で、保有株の価値の90%が失われたという。それでも同氏は、長期的にはこの事業が成功すると考え、保有を続けていると話した。
デリウ氏は「今売る意味はない」と述べ、トランプ一族との関係があるように見えたことが、投資の安心材料になったと振り返り、「私にとっては、それが一定の信頼性を与えてくれた」と語った。
原題:Trump Family Crypto Deal Ends in a 90% Rout for ALT5 Investors(抜粋)
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