(ブルームバーグ):政府が物価高対策として進める飲食料品の消費税減税。家計負担の軽減が期待される一方、狙い通りの効果が得られない可能性も指摘されている。時限措置として導入しても恒久化の恐れがあり、財政悪化を懸念する声もある。
高市早苗首相は30日の自民党臨時役員会で、2027年4月から2年間、飲食料品にかかる消費税率を現行の8%から1%に引き下げる意向を表明した。併せて1%の範囲内で所得に連動した給付を行い、実質ゼロとする方針だという。同党の鈴木俊一幹事長が記者団に明らかにした。
高市首相は8月上旬までに党内の意見をまとめるよう指示したという。秋の臨時国会に法案を提出する方針だ。
消費減税はこれまで超党派の国民会議で議論を重ねてきたが、与野党の溝が埋まらず、最終判断は高市首相に委ねられた。消費減税を「悲願」と表現した高市氏は、27日の記者会見で、速やかに法案を提出し「国民に負担軽減の効果をできる限り早く実感して頂けるようにしたい」と話していた。
今年2月の衆議院選挙では、飲食料品の消費税率を2年間ゼロとし、給付付き税額控除に移行すると訴えた自民党が大勝した。レジなどのシステム改修に時間がかかることから、政府内では準備期間を短縮しやすい1%への引き下げ案が出ていた。
家計への影響
消費税減税によって家計の負担はどの程度和らぐのだろうか。
大和証券の山本賢治チーフマーケットエコノミストの試算によると、食料品の消費税率を1%へ引き下げた場合、消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)を1.3ポイント程度押し下げる効果が見込まれる。6月のコアCPIの前年比上昇率は1.6%だった。
ただ、ドイツなど海外での付加価値税減税の事例では、価格が減税分ほど下がらず、一部が企業側に残る傾向が確認されている。仮に転嫁率が7割程度なら、物価の押し下げ幅は1ポイント強にとどまると山本氏は推計した。
ABC経済研究所の熊野英生代表エコノミストは、税率1%の場合、外食を除く食料品価格は前年比7ポイント押し下げられると試算。ただ、食料品価格は22年以降、年平均5.8%のペースで上昇しており、物価上昇の勢いが続けば来年4月に合わせて値上げに動く事業者が増える可能性があるとの見方を示した。
消費・GDPへの影響
消費税減税が経済成長や物価動向に与える影響については意見が分かれる。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、食料品の税率が1%になると、総合CPIの伸びを1.3ポイント程度押し下げ、個人消費を1.3兆円(0.4%)程度押し上げると試算。他の需要項目への波及効果を考慮しない場合、実質国内総生産(GDP)押し上げ効果は0.22%程度とみる。
ただ、値上げの動きなどで減税分が価格に十分反映されなければ、物価の押し下げ効果は弱まり、消費や成長率の押し上げ効果も試算よりも小さくなる可能性があるとも宮前氏は指摘した。
時限的な措置で、その効果に懐疑的な見方もある。
大和証券の山本氏は、2年間の減税は家計には一時的な負担軽減として認識され、増えた可処分所得の多くは消費ではなく貯蓄に回りやすいと指摘。「恒常的な所得の増加を伴わない限り、消費の基調を押し上げる効果は限定される」と語った。
税収・財政の課題
消費減税案が1月に浮上して以降、市場では財政悪化への懸念が強まり、超長期債を中心に国債利回りが上昇した。市場では、中東情勢の緊迫化による原油高を背景にインフレ圧力が続く中で大型減税が追加されれば、財政拡張路線が一段と鮮明になるとの見方が広がっている。財源をどう確保するのかや、国債発行につながるかどうかが焦点となる。
国民会議の中間とりまとめでは、消費減税を所得に連動した新たな給付制度の本格導入までの「つなぎ」と位置づけた。新制度は29年度に本格導入し、給付付き税額控除の第一歩とする方針を盛り込んだ。制度の将来像については継続して検討を行うとした。
高市首相は、財源は赤字国債に頼らない考えを示しているが、国民会議でも具体的な財源確保策は示されなかった。
SMBC日興証券の宮前氏は、26年度の消費税収が国税分と地方税分を合わせて34兆円に達すると想定。これに基づくと、食料品の消費税率を1%に引き下げた場合の減収額は、4.6兆円程度になると試算した。
消費減税を予定通り終了できるかも焦点となる。一度下げた税率を元に戻すことは実質的な増税と受け止められやすく、政治的なハードルは高い。
大和証券の山本氏は、28年夏の参院選を前に減税終了を巡って判断を迫られる可能性があると指摘。継続なら財源問題が再浮上する一方、終了なら物価上昇や消費の落ち込みを招く恐れがあり、判断は容易ではないという。恒久財源なしでは将来的に金利上昇や円安、インフレなどを通じて負担が回収されるリスクがあるとの見方も示した。
宮前氏は、予定通り減税を終了できない可能性があるとみている。財源の裏付けなしに減税が恒久化し、長期金利が上昇すれば、政府債務残高対GDP比の悪化につながりかねないと警鐘を鳴らした。財源を確保せず「防衛費など恒久的な歳出が別途膨らめば、発散に近い状態に至り得るリスクを警戒する必要がある」という。
政策の限界
食料品の消費税減税は物価高対策として一定の効果が期待される半面、政策の限界を指摘する声もある。
山本氏は、食料品の消費税減税は物価高に対する幅広い家計支援としては機能するものの、所得階層に応じた再分配という観点では必ずしも効率的ではないと指摘した。
ABC経済研究所の熊野氏は、食料品価格高騰の主因は円安と海外物価の上昇だと指摘。「物価高の原因をそのままにして、消費税減税だけで物価高対策を試みても、しょせんは限界がある」との見方を示した。「持続性のある物価高対策は、円安是正と賃上げにほかならない」と述べた。
日本経済新聞社とテレビ東京が24-26日に実施した世論調査によると、2年限定で食料品の消費税率を1%に下げたうえで中・低所得層に現金を給付する案について、賛成は48%、反対は44%だった。賛否はいずれも前回6月の調査からほぼ横ばいだった。
--取材協力:照喜納明美.
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