(ブルームバーグ):米債券市場が発したメッセージは明確だった。ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長がインフレを抑制するため強硬な発言を繰り返していても、利上げというFRBの権限行使を急いではいないという受け止めだ。
FRBが29日の連邦公開市場委員会(FOMC)で7カ月連続で政策金利を据え置いたことを受け、投資家は米30年国債に売りを浴びせた。利回りは一時14ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し5.23%近くと、19年ぶりの高水準に達した。市場のインフレ期待の指標は上昇し、ドルは下落。ウォーシュ議長は避けられない利上げを先送りしただけだとの見方が強まり、株式相場も値下がりした。
こうした動きは、インフレ率が5年連続でFRB目標を上回る中、ウォーシュ議長がインフレ抑制を成し遂げられないとの懸念が投資家の間で強まっていることを示した。
投資家の間で目先の利上げ観測が急速に後退したことから、短期債利回りは押し下げられた一方、今後数年間のインフレリスクへの補償を求める動きから、長期債にはより高い利回りが求められた。2年債利回りの低下と30年債利回りの上昇が同時に進み、イールドカーブは少なくとも1990年代半ば以降のFOMC会合後では最大級のスティープ化となった。
ハイライン・アセット・マネジメントの債券部門責任者で、フェドウオッチ・アドバイザーズ創業者のベン・エモンズ氏は、イールドカーブのスティープ化はウォーシュ氏の「政策戦略への信認欠如を示している」と指摘した。
エモンズ氏は「タカ派姿勢を示しながら行動を伴わないのは、市場に判断を委ね、FRBの代わりに市場に金融引き締めをさせる都合の良い方法だ」と述べた。だが、「インフレが加速し、FRBは再び後手に回っていると市場が判断すれば裏目に出る恐れがある」と警告した。

FOMCは昨年12月の利下げ以降維持してきた3.5-3.75%に政策金利を据え置いた。トランプ大統領にFRB議長に指名されたウォーシュ議長が就任して約2カ月余りとなる。
トランプ氏はインフレを軽視し、パウエル前FRB議長が十分な利下げを行わなかったと繰り返し批判してきた。こうした発言は、FRBの信認の根幹となる政治的独立性への懸念を強めてきた。
しかし、ウォーシュ議長は先月の初会合以降、インフレ率を2%目標へ戻すため必要な措置は講じると繰り返し強調している。
ウォーシュ議長が経済は「なお力強い」と表現したものの、FOMCは様子見姿勢を維持した。記者会見では、消費者物価指数(CPI)がなお3.5%上昇しているにもかかわらず、なぜ政策対応を遅らせるのかとの質問が相次いだ。これに対し同議長は、市場で長期金利が上昇していること自体がFRBによる金融引き締めの役割を一部果たしているとの考えを示した。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は、「記者が混乱していると述べ、より明確な説明を求めた会見は他に記憶にない。市場も同じように受け止めている」と指摘。長期金利の急上昇は市場の信認欠如を示しているとし、「長期債市場はウォーシュ氏のインフレ抑制ストーリーを信じていない」と述べた。
ウォーシュ議長の発言を受け、市場では利上げ時期の予想が今年の遅い時期に後ずれした。2年債利回りは低下し、市場参加者はFRBの政策の道筋を見極める手掛かりとして、今後発表されるインフレや雇用関連指標に注目している。
FOMC会合では今すぐ利上げすべきだと主張する3人が反対票を投じたことから、投資家はFRBへの利上げ圧力が今後強まるとみている。
ウィズダムツリーの投資戦略責任者、ケビン・フラナガン氏は、「3人の反対票により、委員会内の対立が表面化し始めた」と語った。
会合前には、ウォール街の一部金融機関が利上げ予想へ転じていた。市場では利上げ確率が40%程度まで織り込まれ、政策決定直前としては見通しに異例のばらつきがみられた。
こうした不透明感は今後も続く可能性が高い。ウォーシュ議長は、市場への事前シグナルを重視した歴代議長の慣行をやめ、政策当局の自由度を確保しようとしているためだ。
コニングの北米最高投資責任者(CIO)、シンディ・ボーリュー氏は、ウォーシュ議長が8月下旬のジャクソンホール会議で何を語るかについても示唆を避けたと指摘した。同会議は中央銀行関係者が政策の方向性を示唆する場として知られる。
ボーリュー氏は「議長は『白紙の状態だ』と表現した。それを聞いて、市場ではFRBが本当に利上げの準備をしているのか疑問を持つ向きが出ている」と述べた。
こうした中、債券市場での長期金利の上昇が、景気にブレーキをかけ始めている。背景には根強い高インフレに加え、膨張を続ける米連邦債務や、AIに数千億ドルを投じる巨大テック企業の借り入れ急増がある。
ウィズダムツリーのフラナガン氏は「市場はすでにFRBに代わって金融引き締めを進めている」と指摘。「ただ、それにも限界がある。ウォーシュ氏がタカ派的な発言を続け、経済指標が利上げの方向を示唆するなら、問われるのは議長自身の信認だ」と述べた。
原題:Bond Rout Sends Warning to Warsh That Tough Talk Is Not Enough(抜粋)
(市場関係者の見方を追加して更新します)
--取材協力:Joel Leon、Jess Menton.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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