(ブルームバーグ):有権者の間でインフレ対応への不満が広がっている。内閣支持率が落ち込む中、政府が取り組みを誤れば高市早苗首相が長期政権を前提に練った成長戦略などの実現も頓挫しかねない。
首相は27日の記者会見で、特別国会では「政権公約の実現に全力を尽くしてきた」と振り返り、今後も「その歩みを加速していかなければいけない」と発言した。物価高対策については政権発足以来の最優先課題だと指摘。2025年度補正予算に盛り込んだ施策などを今執行中であり、「徐々に成果は手元に届く」と語った。
衆院選圧勝を受けて臨んだ特別国会で、首相は公約にも掲げた自民党と日本維新の会の連立合意の実現を重視。改正皇室典範、副首都法、国家情報会議設置法などを成立させた。17分野に官民で370兆円投資する成長戦略も決定した。ただ、飲食料品の消費減税は当初目指した超党派の国民会議での合意は見送られる方向だ。
こうした中、会期末が間近に迫っていた7月中旬には、政権の力の源泉だった高い内閣支持率は急落した。専門家からは物価高が続く中、政策の優先順位に違和感を抱く国民が増えているとの見方も出ている。首相は消費減税の実施について近く最終判断する見通しで、国民生活を支援していく姿勢を改めて示す必要性に迫られている。
政治意識に関する調査を行っているJX通信社の米重克洋代表取締役は、有権者から見ると、終盤国会では「自分の生活や懐に関係することが進んでいる感じがしない」と指摘。首相肝いりの戦略17分野の成長戦略も、有権者の中で生活と結びついていないとし、物価高対策の「優先順位が低い政権だと見なし始めた」と分析した。
内閣支持率は18、19両日の毎日新聞、朝日新聞、ANNの世論調査で急落。特に毎日では不支持が支持を上回った。読売新聞が24-26日に行った調査では12ポイント減の57%と初めて5割台となった。日本経済新聞とテレビ東京が同時期に行った調査でも58%と前回の68%から下落。これまでの勢いには陰りが見え始めている。
政権幹部は説明に追われている。片山さつき財務相は28日の記者会見で、高市政権は発足以来、物価高対策について「次々に手を打っている」と述べた。首相について「実現したい政策が山ほどあるので総理になった人だ」と発言。成長のボタンを押し続けることに資するすることであれば何でもやるとの見方を示した。
首相の自民党総裁としての任期は来年秋まで。再選を果たして長期政権となるまでには消費減税の扱いのほか、年末には防衛力強化のための安全保障関連3文書の改定、成長戦略実現のための新たな投資枠の創設を含めた予算編成改革などの政策課題が控える。円安や財政悪化懸念で進行する金利上昇など市場の動向も注視が必要だ。
また、秋に想定される臨時国会を前に首相が内閣改造を行って政権運営の仕切り直しを行う可能性もある。28日付の日経新聞朝刊は消費減税を巡る議論の決着後、早ければお盆前後の日程が与党内で浮かんでいると報じた。
民主党政権
国民民主党の古川元久代表代行は、高市政権は「民主党政権に似ているような感じがある」と語る。
2009年の衆院選で圧勝し、政権交代を実現した民主党は目玉政策だった所得制限なしの「子ども手当」を2010年度から実施した。しかし、10年の参院選で敗北したこともあり、同手当は財源不足により見直しを迫られる。12年度からは所得制限ありの「児童手当」を復活させるなど対応が迷走した。
官房副長官や経済財政政策担当相などを歴任した古川氏は当時、公約で掲げた政策を早く実現しようとするがあまり政府内の調整や国民生活への配慮がおろそかになっていたと分析した。「1番の目玉政策が政権に対する批判の大きな原因になった」と話した。
高市政権が推し進めた副首都法案については「約束したからと言うのは分かるが、本当に現場は回るのか」と疑問を呈した。食品消費税についても「下げることが目的なのか」と、物価高負担の軽減という本来の目的に即した手段を選ぶよう訴えた。
消費税減税
飲食料品の消費税減税については首相が出席する国民会議の親会議が29日にも開催される。消費税減税と給付で各党の意見が割れている当面の支援策については両論併記とする実務者会議による中間とりまとめ案が示される段取りだ。
早期の法案提出を目指している首相は、自民党の小野寺五典税制調査会長が示した2027年4月から2年間限定で現行の8%から1%に引き下げる案を軸に最終判断する見通しだ。朝日新聞によると、首相が30日にも法改正に向けた党内手続きを指示する方向で調整しているという。
消費減税を決断すれば家計への配慮を一定程度示すことができる一方、市場で財政・インフレへの警戒感はくすぶり続けることになる。骨太方針の度重なる修正の要因になった長期金利の上昇リスクは、無視できない状況だ。
米重氏は、政治資源が残っていれば消費税減税ではない手段を使ってより効果的な物価高対策を行う方向転換もできたと語る。一方、今となってはその余地も少ない。消費減税の実施に進むのではないかとの見方を示した。
消費減税について政府は赤字国債の発行に頼らず実施する方針を示しているが、財源は明確になっていない。自民党の一部からは消費減税をきっかけにした円安とさらなる物価高を懸念する声も出ている。
21年から約3年間、政権を担った岸田文雄元首相は6月、「政治資産の使い方にリーダーの考え方が問われる」と日本外国特派員協会の記者会見で語った。
支持率などの「政治的な資産」は具体的な課題を達成すると反発が伴うため目減りするとし、その中でも高市政権が「引き続き国民の高い支持を得ていくためには、より国民の身近な課題にも政治資産を使うことも大事だ」と話した。消費減税の是非については明確な発言はしなかった。
(片山財務相の発言を第7段落に追加し、更新しました)
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