AI規制を巡り、ワシントンでは危険な構想が現実味を帯び始めている。それは、政府が大手AI企業の株式を保有するという考え方だ。民主、共和両党は目先の財源に目を奪われ、長期的な影響まで考えが及んでいない。私有財産の公有化を唱えた思想家、カール・マルクスはほくそ笑んでいることだろう。

バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)のような社会主義者であれば、大手AI企業に自社株の50%を「政府系ファンド」へ拠出するよう義務付けることを求めても驚きではない。

しかし、トランプ大統領もそうした考えを好意的に受け止めているようで、政府によるAI企業の株式保有について「ビューティフル」と述べている。民主、共和両党とも党内から目立った異論はなく、この危うい発想が何らかの形で実現する可能性が高まっている。

トランプ氏は、政府が株式を保有することで「米国民がAIの成功から利益を得られるようになる」と言う。しかし実際には、米国民はすでにAIの成功の恩恵を受けている。

個人はチャットボットを利用し、銀行は不正検知に活用し、医師は疾病との闘いに役立てている。中小企業の経営者は経理やマーケティングを効率化し、農家は収穫量の最大化に利用、年金基金を含む投資家はポートフォリオの最適化に活用している。

AIの用途はほぼ無限に広がっており、私たちはその恩恵の全体像をようやく実感し始めた段階に過ぎない。テクノロジーが進歩すれば、生産性の向上や経済成長の加速、さらなるイノベーションを通じて、社会全体が受ける利益は今後も拡大していくはずだ。

新たなAI企業の誕生は、さらに多くのスタートアップの設立を促し、雇用も創出する。そしてAI企業が株式を公開すれば、その利益は一段と幅広く人々へ行き渡るようになる。

こうした動きは政府の税収増にもつながり、教育や職業訓練、AIによって職を失う人々へのセーフティーネット強化など、不可欠な公共サービスへの投資を可能にする。もしAI企業が十分な税負担をしていないのであれば、必要なのは企業の所有権を取得することではなく、税制を見直すことだ。

政府の権限拡大

私たちはAIの恩恵にようやくあずかり始めたばかりだ。一方、その負の側面についても理解し始めた段階にある。しかし、政府が業界の共同所有者となれば、その弊害は比較にならないほど大きくなる。

政府が民間企業の株主になると、市場競争が持つ本来の利点が損なわれかねない。利益より政治が優先され、えこひいきや縁故主義が広がり、イノベーションが停滞し、競争力は低下、規制もゆがめられる。

本来なら優れた製品やサービスが競争によって選ばれるべき市場が、政治的なコネやロビー活動を支える資金力、選挙への配慮によって勝敗が決まる密室での争いへと変質する。

その結果、規制の判断にゆがみが生じ、競争は抑制され、イノベーションが失われる。さらに、多額の税金が関わるようになればなるほど、企業は政治的に安全な判断を優先し、大きな成果につながるリスクを取りにくくなる。

それだけでも十分深刻だが、企業が大きくなり過ぎてつぶせない存在になれば、最終的な救済負担は国民が負うことになる。

政府と産業界が密接な関係を築いてきた歴史、例えば非効率な米国の防衛産業基盤は、その危険性を示す警鐘となるはずだ。同様に「ChatGPT」を開発したOpenAIが連邦政府に5%の持ち分を提供したと報じられたことも、この発想の正当性を示すものではなく、むしろ警戒すべき兆候だ。

巨大企業はすでに多数の弁護士やロビイストを擁し、スタートアップより有利な立場を固定化し、自らに都合のよいルール作りを進めやすい状況にある。

政府が規制当局であるだけでなく共同出資者にもなれば、大手企業は小規模企業を市場から締め出しやすくなり、イノベーションを阻害し、消費者の選択の幅を狭め、賃金を押し下げ、物価を押し上げることになる。

米国のAI企業が世界中から羨望(せんぼう)の的となっているのは、政府の過度な介入を受けることなく、柔軟に実験し、常識外れの発想を試し、失敗を許容し、大きな目標に挑戦してきたからだ。

連邦政府がすでに多くの業界でさまざまなテクノロジー企業の株式を保有しているからといって、その対象をさらに広げるべき理由にはならない。

こうした取り決めには、サプライチェーンの強化や国家安全保障の確保、利益の一部を得ることなど、さまざまな名目が掲げられてきたが、いずれも誤った考え方だ。そしてAIでは、その弊害はさらに拡大する。

AI企業の多くが情報発信のプラットフォームでもある点も見逃せない。検閲や監視への懸念に加え、政治がAIの出力内容に入り込む公算が極めて大きい。表現の自由を擁護する人々が、政府による所有に警鐘を鳴らしているのも当然だ。

トランプ政権をどう評価するかにかかわらず、政府がAIの出力、すなわち情報やデータ、さらには知識そのものを統制し、ゆがめる可能性には背筋が寒くなる。

プロパガンダに利用される危険性は、SF小説「1984年」で全体主義社会を描いたジョージ・オーウェルも驚くほどだろう。そしてAIの能力が高まれば高まるほど、この懸念も一段と大きくなる。

率直に言えば、ホワイトハウスは、未来のテクノロジーやサイエンス、教育、戦争、通信など幅広い分野の方向性を左右しかねない企業の共同所有者となることで、政府にこれまでにない強大な権限を与えようとしている。それは米経済だけでなく、自由と民主主義までも危険にさらす。

マルクスなら歓迎するだろう。しかし、私たちは、民主、共和両党にこの考えを退けるよう求めるべきだ。

(マイケル・ブルームバーグ氏はブルームバーグ・ニュースの親会社ブルームバーグ・エル・ピーの創業者で、過半数株式を保有しています。このコラムの内容は個人の意見です)

原題:Government-Owned AI Is a Terrible Idea: Michael R. Bloomberg(抜粋)

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