生命保険相談にAIが入るとき、消費者は何を不安に感じるのか

生命保険の加入や見直しを考えるとき、私たちは何を不安に感じるのでしょうか。

保険料は高すぎないか。保障は足りているのか。いまの自分や家族に本当に合っているのか。そして、そもそもこの説明をどこまで信じてよいのか。

こうした不安に対して、チャットや音声で質問でき、複雑な保障内容を整理し、自分に合いそうな選択肢を示してくれるAI相談は、大きな可能性を持っています。忙しい人や、対面相談にハードルを感じる人にとって、保険相談の入口を広げる存在になり得ます。

4000人調査で見た、生命保険AI相談への期待

ニッセイ基礎研究所の2026年の調査では、日本の性年代別人口構成に合わせて回収した4,000サンプルを対象に、「生命保険の加入や見直しを考えるとき、生命保険会社の『AI相談』(チャット/音声で保険相談にのってくれるAIの相談サービス)を使う場面」を想像してもらいました。

そのうえで、AI相談に次のような要素があるとき、「このAI相談を利用したい気持ち」がどう変わるかを5段階でたずねました。

上位に来たのは、「止められる安心」「いつでも人に切り替えられる」「AIが間違えた時の引き継ぎ」

まず、「あると安心してAI相談を利用しやすくなる」と答えた割合を見ると、「いつでも利用をやめられる/情報を削除できる」(18.0%)、「途中で人(担当者・窓口)に切り替えられる」(15.1%)、「AIが間違ったときに、訂正や引き継ぎなどの対応がある」(14.6%)といった項目が上位となりました。

この結果からは、生命保険のAI相談において、生活者は「AIが一発で最適解を出してくれること」よりも、自分で確認できること、途中で止められること、必要なら人に切り替えられることを重視している様子がうかがえます。また、AIが間違える可能性を意識しながら、間違えた後にどう訂正できるのか、誰に引き継がれるのかを重視していることも読み取れます。

AIの回答を最終判断として扱うのではなく、必要に応じて人が確認するなど、重層的なコミュニケーション設計が、AI相談への信頼形成に効く可能性があると言えるかもしれません。

消費者は「最適な1つ」より、他の選択肢も見たい

特に興味深いのは、「他の選択肢も自分で確認できる」「複数の選択肢を提示する」「最適な1つに絞って提示する」の3項目です。

この3項目(「あると少し利用しやすくなる」と「少し利用しやすくなる」)を比べると、AIから「複数案が提示される」よりも、「自分で他の選択肢を確認できる」ことの方が高く評価されています。

これは、消費者がAIに候補を出してもらうだけでなく、AIの外側にある選択肢も自分で見たいと考えている可能性を示しています。特に、生命保険のように人生設計、家計、健康不安に関わる領域では、生活者は「AIに決めてほしい」のではなく、AIに整理してもらいながら、最後は自分で納得して決めたいと考えているのではないでしょうか。

したがって、生命保険のAI相談では、AIだけで完結させることを目標にするよりも、AIで状況を整理し、複数の選択肢や理由を示し、必要に応じて人に相談を引き継げる体験を設計することが重要とも言えます。言い換えれば、AI相談の価値は「AIが代わりに決めること」ではなく、相談者の主導権を守りながら、判断しやすくすることにあると言えるのかもしれません。

AI相談の価値は、消費者の不安を整理し、選択肢を見える化し、自分らしい判断を支えること

今回の結果から見えてくるのは、生活者が生命保険のAI相談に期待しているのは、「AIが最適な答えを一つに決めてくれること」だけではない、という点です。上位に挙がったのは、いつでも利用をやめられること、情報を削除できること、他の選択肢も確認できること、必要に応じて人に相談できること、といった要素でした。

生命保険は、家計、家族、健康、将来不安に深く関わる商品です。そのため、生活者はAIに状況を整理してもらい、比較を助けてもらい、理由を確認しながらも、最後は自分で納得して決めたいと考えているのではないでしょうか。今回の調査結果には、そうした意識が表れているとも考えられます。

AI相談において、「AIを使えば簡単に決められる」という効率性はもちろん重要です。

しかし、今回の調査結果を踏まえると、より問われているのは、「AIを使っても、消費者が自分で納得して選べるか」という点であるようにも見えます。

AI相談の価値は、判断を代行することのみではなく、消費者の不安を整理し、選択肢を見える化し、自分らしい判断を支えることにあるのかもしれません。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 小口 裕)