2011年、財務省は個人向け国債の購入を促すため、PRキャラクター「コクサイ先生」を発表した。顔は国債の「国」の漢字をかたどり、笑顔が特徴のマスコットだった。

日本は何でもマスコットにするお国柄だが、コクサイ先生は個人投資家の国債への関心を高める目的で制作された。その後、女性版の「個子ちゃん」や実在のアイドルまで起用されたが、個人投資家の心をつかむには至らなかった。家計の日本国債保有比率は現在も2%未満にとどまり、米国債の約9%を大きく下回っている。

だが今、日本には国民の関心を呼び起こし、国内に資金を戻そうとする、はるかに影響力の大きい人物がいる。片山さつき財務相だ。先週、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など年金基金に国内投資を増やし、海外資産への配分を減らすよう促す構想を打ち出して市場を驚かせたが、その姿勢をさらに強めている。

片山氏は独自路線を歩んでいるようだ。そのことは、GPIFのポートフォリオを見直す可能性を示唆した同氏の発言と、GPIFを所管する閣僚の発言との温度差からもうかがえる。この議論の行方に賭けるなら、筆者は片山氏に分があるとみる。

さらに片山氏は、日本国債を少額投資非課税制度(NISA)の対象に加えるべきだと提唱した。短期間に相次いで示されたこれら2つの提案は、より大きな意味を持つ。

日本が自国に投資するよう促す行動を呼びかけるものであり、日本経済が本来の姿を取り戻すための重要かつ遅過ぎた一歩でもある。これはまさに、日本マネーの本国回帰構想と言える。

停滞を前提としたシステム

日本は長年にわたり、停滞を前提とした金融システムの下で運営されてきた。株式や債券、不動産など国内資産は総じて低い収益しか生み出さなかった。

国内のリターンは低迷し、日本銀行がデフレ脱却を目指して資産買い入れを進める中で、国内の資産市場では日銀の存在感が一段と高まった。

このため、投資資金は利回りを求めて海外に流れた。当時は円高が問題視されていたこともあり、それは合理的な選択だった。しかし、今では円安が問題となっており、日本の資金を国内にとどめるべき理由は十分にある。

高市早苗首相は、故安倍晋三元首相から受け継いだ「ジャパン・イズ・バック(日本は戻ってきた)」をキャッチフレーズの一つに掲げている。筆者は以前から、日本が戻ってきたかどうかを問うこと自体が間違っていると主張してきた。

NISA

日本では現在、インフレが進み、経済は成長し、今年前半の株式相場は主要市場でも際立ったパフォーマンスを記録した。日銀が金融政策の正常化を進める中で国債利回りは数十年ぶりの高さに達し、海外投資家にとっても魅力的な水準となっている。

日本は間違いなく、「失われた数十年」後の時代に入った。それにもかかわらず、金融制度やその前提の多くはいまだに過去の環境に基づいて設計されている。政府の政策もなお資金の海外流出を後押ししている。

NISAを見てもそうだ。政府は24年、非課税保有期間の制限を撤廃し、投資枠を拡大することで制度の魅力を高めた。だが、その資金の多くは海外に向かっているようで、最も人気が高い投資先は米S&P500種株価指数やその他のグローバルファンドだ。

日本国債が制度の対象外とされてきたこと自体も不可解だ。なぜNISAでは、日本で最も安全な円建て資産である国債よりも、米国株の方が買いやすい仕組みになっているのか。

そもそも対象を国債だけに限る必要もない。日本はこの制度を英国のISAにならって設計した。英国では国債が以前から対象となっているだけでなく、英政権はISAを国内株式への投資を促す政策手段として活用するため、その見直しも模索してきた。

政治的な事情から、そうした変更は思うように進まなかったが、発想そのものは理にかなっており、片山氏も同様の政策を進めるべきだ。

GPIF

GPIFについても同じことが言える。片山氏の発言を受け、変化を嫌う組織の体質はすぐに顔をのぞかせた。だが、そうした反応を気にする必要はない。

この問題を長く見てきた人にとっては、以前と正反対の議論が展開されているのは皮肉に映る。14年にGPIFが国内資産から海外資産へ資金配分を移した際には、政府が年金資金を危険にさらしていると批判された。ところが今度は、その流れを逆転させようとすると、再び同じ批判が向けられている。

しかし、政府はかつて、国内では利回りを確保できないという現実に合わせてGPIFの運用を見直した。今度もまた、新たな現実に合わせて見直すことはできるはずだ。

もちろん、利回り上昇の背景にはインフレの復活だけでなく、日銀が国債買い入れを縮小する中で、国債の供給増に対する投資家の警戒感もある。だが、それこそが海外へ流れた資金を呼び戻し、国内の投資家基盤を立て直す必要がある理由にもなっている。

さらに一歩踏み込む

これは国民に投資を強制したり、年金資金を利用したりする話ではない。デフレ後の時代にそぐわなくなった国内資産への不利な扱いを改め、国内資産と海外資産が同じ条件で選ばれる環境を整えることだ。

むしろ片山氏は、さらに一歩踏み込むべきだろう。企業に対し、海外で積み上がった多額の利益について、国内投資を条件とした税制優遇措置を設けることで国内還流を促すべきだ。日本経済はあらゆる力を同時に発揮する必要がある。そうした改革が円相場の押し上げや国債利回りの上昇抑制にもつながるとすれば、それは望ましい副次的効果だ。

市場がまだ日本マネーの本国回帰を織り込んでいないとしても、その慎重姿勢は理解できる。これまでにも円安を反転させようとするさまざまな試みは期待した効果を上げられず、年金基金や家計に対し、安定した収益をもたらしてきた海外資産から国内へ資金を振り向けるよう説得するには、なお多くの課題も残されている。

これは国内投資家に海外投資を諦めさせる話ではない。国内に見落とされている投資機会があることを示す取り組みだ。日本が戻ってきたというのなら、日本のマネーもまた戻ってくるべきだ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Is This the Start of the Great Yen Homecoming?: Gearoid Reidy(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.