西太平洋で不穏な動きが起きている。しかし、米国はそれに備えることができていない。

中国海警局は最近、台湾東部沖の公海上を航行していた3隻の船舶に対し、出発地と目的地を申告するよう求めた。中国はこれらの船舶の通航を妨げたわけではない。だが、台湾周辺の海上交通を取り締まる権利を主張した形であり、1-2年以内に起こり得る重大な危機の前触れである可能性もある。

中国情勢を注視する専門家の多くは、来年にも台湾危機が起きるのではないかと懸念している。米情報機関によると、習近平国家主席は人民解放軍に対し、2027年までに台湾に対する軍事行動を実行できる態勢を整えるよう指示した。

もっとも、真に重要な局面は28年1月に訪れるかもしれない。台湾の次期総統選が実施されるタイミングであり、習主席が事態を一気に動かす決断を下すかもしれないからだ。

確かに、現時点では表面的には平穏に見える。前回の大きな台湾危機は、ペロシ元米下院議長が訪台した4年ほど前に起きた。米中関係も一時的な休戦状態にあるように映る。米中首脳は5月の北京での会談で、「建設的戦略安定関係」の構築を目指すことを確認した。

戦わずして勝利

しかし、安心してはならない。

習氏は台湾を制圧し、統一を実現するための軍事力を整える一方、戦争には至らない範囲で日常的な圧力を着実に強めている。

台湾周辺には中国海軍の艦艇が常時展開。中国軍は台湾の防空識別圏や周辺海域で圧力を強め、侵攻や封鎖を想定した予告なしの演習を繰り返している。

中国はサイバー攻撃や偽情報の拡散、スパイ活動も絶え間なく仕掛けている。現在の状況が平穏に見えるのは、習氏がこうした悪意ある多面的な心理戦を常態化させたために過ぎない。

中国の狙いは、可能なら戦わずして勝利し、必要とあれば軍事力を行使できる態勢を整えることだ。習主席は台湾の人々の士気をくじき、米国の支援に対する信頼を揺るがそうとしている。孤立し、脆弱(ぜいじゃく)になった台湾社会が最終的には統一を受け入れることを期待している。

そして、それは早いに越したことはない。73歳の習氏には、いくらでも時間が残されているわけではない。

28年の台湾総統選

こうした戦略を実現するには、中国に従順な政権を台湾で誕生させることが欠かせない。だからこそ、28年の台湾総統選は重大な火種にもなる。

中国の宣伝機関は、頼清徳総統を独立志向の強硬派と非難している。頼氏が台湾の主権を強く訴え、与党・民主進歩党(民進党)の支持層を結束させるような動きを見せれば、習氏は黙って見過ごさないだろう。

習主席は、ミサイル発射実験や大規模で緊張感を高める軍事演習など、より強い威圧措置を通じて選挙に影響を及ぼそうとする可能性がある。頼総統が再選されれば台湾はさらに4年間危険にさらされるという印象を有権者に植え付けるためだ。

だが、16年以降、こうした圧力は逆に台湾の有権者を中国が支持する候補者から遠ざける結果を招いてきた。そうなると、もう一つの可能性として、習氏は望まない選挙結果に強硬に反応することも考えられる。

習主席が期待を寄せる候補は、中国との関係強化を模索するため北京を今春に訪れた最大野党・国民党の鄭麗文主席(党首)だ。しかし、鄭氏は国民党員に限定された非公開投票で主席に選出されたに過ぎない。また、中国の脅威に備えて台湾の防衛力を強化するための特別予算の重要部分を阻止するなど、安全保障を政争の具にしてきた。

鄭氏の政策は、安保問題を巡り国民党に不信感を抱く中道層の有権者を遠ざけるかもしれない。頼総統の支持率は低いものの改善傾向にあり、辛うじて再選を果たす可能性もある。あるいは、国民党が鄭氏に代えて、より慎重な戦略判断ができる候補を擁立し、勝利することもあり得る。

いずれにせよ、台湾には習氏が望むほど統一に向けて踏み込まず、また急速にも進めない政権が誕生することになる。その結果生じる習氏のいら立ちは、台湾への圧力をさらに強める可能性がある。

税関検疫

ただ、習主席が圧力を高める手段は侵攻に限らない。海警局の最近の動きを踏まえれば、習氏は代わりに「税関検疫」と呼ばれる措置を実施する可能性もある。

中国は台湾向けの航空便や海上輸送を選択的に妨害し、台湾へ向かう船舶に対し、まず中国大陸で通関手続きを受けるよう求めることがあり得る。中国がいかに容易に台湾を締め上げられるか、そして米国がそれに対抗することがいかに難しいかを示し、台湾社会に衝撃を与えることが狙いだ。

こうした検疫措置を突破するのは、いかなる状況でも容易ではない。米国は、望まないエスカレーションを招くことなく、貿易や金融、技術分野での制裁や国際社会による外交的非難を組み合わせ、必要に応じて軍事的手段による検疫突破の準備も進めるなど、中国に対抗圧力をかけることが求められる。

しかし、トランプ米大統領が昨年始めた貿易戦争で譲歩した結果、中国は米国が威圧の応酬を避けると受け止めた。

確固たる抑止力と慎重な外交が必要

実際、トランプ氏は台湾危機を回避したい考えを示している。9月に予定される次回の米中首脳会談に水を差さないよう、台湾への武器売却の手続きを意図的に遅らせている。

国防総省は、税関検疫やその他のグレーゾーン事態よりも、中国による侵攻の脅威への備えに重点を置いている。そして28年に入ると、米国は大統領選一色となる。習氏は、米国の関心が国内に向いている間に台湾を屈服させようと、さらに圧力を強める恐れもある。

米国には今から講じるべき対策が幾つかある。トランプ氏は台湾への総額140億ドル(約2兆3000億円)の武器売却計画を完了させ、台湾の安全保障を犠牲にしてまで習氏に譲歩するつもりはないことを示すべきだ。

米国は中国経済の急所に圧力をかけるための選択肢をさらに練る必要がある。例えば、航空機エンジン部品や先端半導体への中国のアクセスを一段と制限することが考えられる。

また、日本などと連携し、有事の際に台湾を支援するための準備を強化すべきだ。その点で、トランプ政権は、より大規模な多国間演習の実施や、ミサイルをはじめとする先進的な能力の配備などを通じて防衛協力を拡大していることは評価できる。一方で、頼政権を強く支えると同時に、選挙戦で過激な発言を控えるよう働きかけるべきだ。

建設的戦略安定関係が28年に次の大きな台湾危機へと転じるのを避けるには、確固たる抑止力と慎重な外交の双方が欠かせない。

(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授です。シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所」のシニアフェローで、マクロ・アドバイザリー・パートナーズのシニアアドバイザーも務めています。最近の著作は「The Eurasian Century: Hot Wars, Cold Wars, and the Making of the Modern World(ユーラシアの世紀:熱戦、冷戦、そして現代世界の形成)」です。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:A Taiwan Crisis Is Coming — and Xi May Not Wait: Hal Brands(抜粋)

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