株式市場は景気見通しにそって横ばい圏の動きへ
7月6日の米国株式市場は、全体的に堅調だった。
「前週に売られた半導体関連株を買い直す動きが広がった」(NQN)一方で、原油価格が下落する中で景気見通しも改善した模様。「ヘルスケアや日用品などディフェンシブ株の下げが目立った」(同)とされ、リスクオンと言える動きだった。
もっとも、景気見合いで株価が上昇する場合、力強さに欠いた展開となるだろう。AI関連に資金が集中し、大きく上昇してきた背景には景気不安やインフレ懸念があったと考えられる。
イラン情勢の悪化など、経済見通しに不安が生じたことが、AI関連への逃避を促した。景気や実体経済に連動して株価が動く方が健全だと言えるが、景気や実体経済はそれほど急激に動くものではないので、相場は横ばい圏の動きとなりやすい。
利上げ観測の後退が続くか、利下げ観測までは距離がある
7月6日の米国債券市場では、利上げ観測が後退し、イールドカーブがブル・スティープ化した。
長期金利は前日比▲1.4bp、2年金利は同▲2.7bpとなった。FF金利先物市場では、26年中の利上げ織り込みが約1.16回と、前日の1.20回から小幅に低下した。7月2日に公表された雇用統計が弱めの結果となったことで、利上げ観測の後退が続いている。もっとも、利下げが必要という見方は少ない。
この日、ウォラーFRB理事は「1年前は労働市場の状況が良くなかったため利下げを支持していた。労働市場を考慮し、インフレ率が(FRBが設定する)2%の目標に戻るまでに長い時間がかかることを容認していた」(ロイター)とした一方、「現在はリスクが完全に逆転している」「労働市場が安定しつつある一方、インフレは上昇している。このため、金融政策に対する考え方も変化する」(同)と述べた。
利下げよりも利上げを検討する状況であることには変わりはないようである。今後は、ボラティリティが低下することで金利水準が徐々に低下していく可能性が高いものの、まとまった幅の金利低下局面が訪れるかどうかは労働市場の評価次第だろう。また、足元の米国の労働市場は、労働参加率の低下によって実体が見えにくくなっている。しばらくは動きにくい展開となるだろう。
フォワードガイダンスの有無そのものがフォワードガイダンスになる?
この日、ウォラー理事は“Two Thoughts on the Transmission of Monetary Policy”(金融政策の伝達に関する二つの考察)と題した講演を行った(訳は筆者。以下同)。
ウォーシュ議長が否定的な姿勢を示すフォワードガイダンスについて、ウォラー氏は「私は、フォワードガイダンスが貴重な手段となり得ると引き続き考えている。これは、これまでにも政策決定を大幅に強化したことがあり、今後も有用であり続けるだろう」と述べた一方、「しかし、フォワードガイダンスが強すぎたり、硬直的すぎたりすると、政策の伝達を阻害する恐れがある」とした。
今後、フォワードガイダンスを巡る議論は中途半端なものになる可能性が高いと、筆者はみている。むろん、ウォラー氏が指摘するように、今後は「しばらくの間、2%を適度に上回る軌道に乗っている」状態になるまで利上げを開始しないといった強力なフォワードガイダンスが用いられることはないだろう。しかし、再びフォワードガイダンスが設定されることが否定されることもなさそうである。
つまり、フォワードガイダンスを用いることが望ましい局面ではフォワードガイダンスを用い、不要だと判断されれば用いないという展開になる可能性が高い。その結果として、現在はインフレ懸念が残存しているので、フォワードガイダンスは用いない方が良いという結論になる公算である。
このような考え方はもっともらしいようにみえるが、問題も多い。フォワードガイダンスを用いる局面と用いない局面が存在する場合、フォワードガイダンスの有無そのものがフォワードガイダンスになってしまう可能性がある。
6月FOMCでフォワードガイダンスがなくなった現在はフォワードガイダンスを用いない局面にあるわけだが、人々がいずれフォワードガイダンスは復活するかもしれないと考えれば、どうなればフォワードガイダンスが復活するのかというのが論点となる。
労働市場が悪化すればフォワードガイダンスが復活するのか、インフレ率が目標を下回ればフォワードガイダンスが復活するのか、といった議論が自然と行われるようになるだろう。これは、フォワードガイダンスの文言修正を予想し、議論していたこれまでと大差はない。
市場の注目度が高まれば、FRBはフォワードガイダンスを復活させるかどうかの判断に慎重になるだろう。フォワードガイダンスの取り扱いの判断が遅れ、結局は政策が硬直化することが予想される。結局は、FEDビュー(「事後対応」を重視)とBISビュー(「事前対応」を重視)という政策変更に対するFRBのスタンスそのものが重要であり、フォワードガイダンスをどうするかということは枝葉の議論でしかないと言えよう。
フォワードガイダンスの議論が金融市場に大きな影響を与えることはないと、筆者はみている。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)