中国は、自国がもはや「台頭の途上にある国」ではなく、「すでに台頭を成し遂げた国」だと世界に信じさせようとしている。だが、当局が示す強気な姿勢は、消費を手控える世帯や厳しい雇用環境に直面する若者には広がっていない。こうした認識のずれこそが、二極化する中国経済の根底にあり、当局の過信が問題への対応を妨げている可能性もある。

先週、夏季ダボス会議に出席するため遼寧省大連と北京を訪れた。そこで学者や企業関係者、エコノミストらから繰り返し聞かれたのは、中国は強く、劣勢にあるのは米国だという見方だった。中国は貿易戦争を乗り切り、AI時代へと力強く踏み出そうとしている国だという姿を描いていた。その見方には一理ある。

トランプ米大統領も中国の新たな自信を後押ししている。米中首脳が北京で会談してから1カ月後、複数の研究者は中国が優位に立ったと、筆者に語った。特定の譲歩を引き出したからではない。トランプ大統領が中国をもはや二番手ではなく、対等な存在と見なす世界に米国が適応しつつあるという姿勢を見せたからだという。

もっとも、中国にはなお、脆弱(ぜいじゃく)な貿易休戦の下で履行すべき義務が残っており、関税再発動の脅威もくすぶる。年後半に予定される次回の首脳会談を前に、この合意が崩れる可能性もある。

癒えない傷

中国の自信はどこから来るのか。自国の弱さは例外であり、本来の姿ではないとする歴史観に根差している。大連と北京で重ねた議論では、1839年の第1次アヘン戦争から日本による占領を経て、1949年の中華人民共和国成立まで続いたとされる「百年国恥」は、こちらから話題にしなくても何度も持ち出された。中国にとっていまだに癒えない傷なのだ。

中国は、国際社会での存在感を取り戻すことを、本来あるべき地位への自然な回帰だと捉えている。

北京大学中外人文交流研究基地で執行主任を務める王棟氏は、ここ40年の経済成長は中国の統治と経済モデルの正しさを裏付けるものだと主張する。

「中国は依然として世界経済の成長を支える2大エンジンの一つだ」と、王氏は筆者に語り、「中国に悲観的なら、世界にも悲観的ということだ。中国なしで世界経済をどう維持するのか」と話した。

多くの制約

中国が成し遂げてきたことが目覚ましいのは事実だ。だが、現場から見えてくる実情は、当局や企業関係者の認識以上に中国が多くの制約に直面していることを示している。

先月発表された一連の経済指標は、持ち直しの弱さを改めて浮き彫りにした。個人消費は圧迫されており、5月の小売売上高は2022年終盤の厳格な新型コロナウイルス対策の解除に伴う経済活動の再開以降で初めてマイナスとなった。自動車販売は回復が期待されているにもかかわらず、22.1%減少した。住宅価格の下落は一段と深刻化し、固定資産投資も市場予想以上に落ち込んだ。

家計部門の行動からは、台頭した大国の国民らしい自信はうかがえない。最近、若年失業率がやや改善したとはいえ、若者はなお就職に苦労している。私が話を聞いた若者の中には、前の世代より将来に悲観的な人が少なくなかった。

資産に余裕のある人々は資金を海外に移す動きを強めている。国際金融協会(IIF)によると、中国では個人や企業の海外送金が厳しく制限されているにもかかわらず、昨年は推計8070億ドル(約130兆円)が国外へ流出した。

ブルームバーグ・エコノミクスが指摘するように、中国では経済の二極化が進んでいる。輸出や先端製造業、特に電気自動車(EV)、クリーンエネルギー、AI関連分野は引き続き拡大する一方、内需は低迷したままだ。

これは中国の衰退を意味するものではないが、当局の強気な発信が描く姿よりも、はるかに複雑な現実が存在することを示している。

自らの弱点

危険なのは、こうした問題に向き合う代わりに、ナショナリズムを利用して世論を転換しようとすることだ。私が面会した外交官らは、中国周辺の複数の地域で軍事的緊張が高まっていることを懸念していた。また、同国経済に関する透明性不足も問題視していた。

台湾問題がなお懸念材料だ。人民解放軍は台湾周辺で演習を強化している。統一を巡る中国のレトリックも強硬となっており、台湾も訓練を始めた。防衛力の強化や台湾との緊密な関係を理由に、中国で警戒感が強まっている日本は格好の標的となっている。

一方、フィリピンは、中国が南シナ海で係争中の環礁を恒久的に支配しようとしている可能性があると警告している。

中国は自国が抱える問題に気付いていないわけではない。しかし、強気な姿勢がその課題を覆い隠してしまうリスクがある。李強首相は夏季ダボス会議で、内需を拡大し、対外開放をさらに進める方針を示した。だが、こうした約束はこれまでも繰り返されてきたが、成果は限定的だった。中国は内需を立て直し、アジア各国から懸念を招いている軍事活動を抑制できることを自国民と国際社会の双方に対し、より強く示す必要がある。

自信は良い結果を保証するものではない。国が自らの成功物語を信じ込み始めると、自らの弱点を見失う恐れがある。それは中国にとっても、そして私たちにとっても危険な局面だ。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:China’s Biggest Risk May Be Its Own Hype: Karishma Vaswani(抜粋)

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