(ブルームバーグ):韓国人の個人資産が世界最速のペースで増えており、韓国の資産運用会社にかつてない商機をもたらしている。
UBSグループによると、成人1人当たりの平均資産は2020年から44%増え、世界で最も高い伸びを記録した。さらに、サムスン電子やSKハイニックスが社員1人当たり数十万ドルの賞与を支給する見通しで、AI半導体の好況で生まれた巨額の資金が社員の銀行口座に流れ込む見込みだ。
高所得の会社員という新たな層が生まれている。これを受け、KBフィナンシャルグループやハナ銀行、メリッツ証券など国内の銀行・証券会社は、事業オーナーや投資家、富裕層の相続人といった従来の顧客層だけでなく、新たな富裕層にも照準を広げている。特別金利の預金商品やウェルスマネジメントサービス、退職年金の運用、税務相談など、新たな富裕層向けの商品やサービスの開発を進めている。
KB証券のウェルスマネジメント部門責任者、イ・ジェオク氏は、「サムスン電子とSKハイニックスの過去最高水準の賞与により、30-40代の高所得の会社員が大きな層を形成しつつある」と話す。「ウェルスマネジメントやプライベートバンキング事業で獲得を目指す有望な顧客層だ」という。
サムスン電子とSKハイニックスは、高額賞与の背景にある半導体ブームが今後も続くと見込んでいる。AIデータセンターの運用に欠かせない広帯域メモリー(HBM)の世界供給の約8割を担う。需要拡大に対応するため、両社は29日、半導体製造工場をそれぞれ2カ所建設する計画を明らかにした。
AIブームがもたらす富は、韓国が工業化の時代に手にした富とは性格が異なる。当時は主に財閥が恩恵を受けたのに対し、今回の技術革新は一般社員を豊かにしている。UBSのリポートによると、韓国の成人1人当たり平均資産は世界20位だ。
サムスン電子が5月に結んだ10年間の賃金協約では、2026年の社員1人当たりの平均賞与は約34万ドル(約5500万円)となる見通しで、平均年間給与の約3倍に当たる。SKハイニックスでも同様の制度により、今年は1人当たり約47万6000ドルが支給される見込みだ。AI半導体を巡る世界的な競争が、シリコンバレーから遠く離れた地域で人々の資産を大きく変えつつあることを示している。
ブルームバーグがアナリストの営業利益予想を基に試算したところ、両社が26-28年に支払う報酬総額は約1620億ドルに達する見通しだ。

株式で賞与受け取り
SKハイニックス社員のキム氏は、賞与を自社株で受け取ることを選んだ。証券会社や銀行から販促資料が次々に届き、退職年金口座も開設した。金融機関にとって、こうした口座は顧客との関係づくりの出発点だ。
個人的な事情から姓だけの公表を希望したキム氏は「少なくとも当面は株式市場の上昇が続くと考え、賞与を株式で受け取った」としたうえで、「今後は市場の動向を見ながら判断していく」と話した。
メリッツ証券のリテール事業担当のイ・ギョンス執行副社長は、好況に沸く半導体業界の従業員の所得増と投資家の利益、消費の拡大が好循環を生み出していると指摘する。
イ氏は「こうした流れを踏まえ、メリッツ証券は成長するウェルスマネジメント分野の商機を取り込むため、昨年から積極的に経営資源を投入してきた」と説明した。韓国経済が不動産中心から金融市場へとシフトする中、国内のウェルスマネジメント業界は構造的な成長局面に入るとの見方も示した。
韓国の銀行や証券会社では、ウェルスマネジメントの対象を金融資産1億ウォン(約1000万円)以上とするのが一般的だ。そのうえで、顧客は資産額に応じて複数の階層に分けられ、最上位層は数百億ウォン規模に達する。金融機関では、新たに台頭する「若い富裕層」が時間とともに資産を増やし、より上位の顧客層へ移っていく可能性のある新たな顧客層と位置づけている。
ハナ銀行のウェルスマネジメント部門トップ、イ・ウンジョン氏は「企業に勤める人や、投資によって資産を築いた顧客も増えている」と話す。超富裕層に特化したサービスの提供を目指す一方、新たな顧客を取り込むためウェルスマネジメント事業の利用条件も緩和しているという。

預かり資産増加
サムスン証券では、金融資産1億ウォン超の顧客数が26年第1四半期に前期比15%増の44万9000人となった。個人顧客の預かり資産も15%増え、496兆ウォンに達した。
未来アセット証券も第1四半期の顧客資産が前期比12%増の581兆7000億ウォンと過去最高を更新した。ウェルスマネジメントの手数料収入も17%増えた。
韓国で個人向け事業を展開する数少ない外銀の一つ、英銀スタンダードチャータードも、新たな富裕層の獲得に力を入れる。昨年11月には総預かり資産10億ウォン以上の顧客向け拠点を初めて開設し、7月にはソウルに2拠点目を開く計画だ。
スタンダードチャータードの富裕層事業責任者、パク・ジョンファ氏は、これまで半導体企業の多額の賞与は短期預金に向かう傾向が強かったものの、今後は投資助言に加え、相続や事業に関する相談、子どもの教育といった、より複雑な金融ニーズが高まるとみている。
パク氏は「専門職や企業幹部、起業家、テクノロジー業界に関わる人たちの間で資産形成が進んでいる」と述べた。
原題:South Korean Financial Firms Fight for Share of AI Pay Bonanza(抜粋)
--取材協力:Myungshin Cho.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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