プラボウォ新政権の国家主導政策と広がる財政赤字

このような経済的混乱の背景には、国内の深刻な貧富の格差や政治的転換があります。2014年からのジョコ・ウィドド政権下では市場重視の政策により海外投資が急増しましたが、その裏で中間層は縮小し、2025年には生活費の高騰に怒る市民の激しい抗議デモも発生しました。

新たに就任したプラボウォ・スビアント大統領は、国家主導の資本主義を掲げてこの問題に挑んでいます。その一環として、シンガポールなどをモデルにした政府系ファンド「ダナンタラ」を設立し、数百の国営企業を管理・運用して海外投資を誘致しようとしています。また、パーム油や石炭などの輸出を管理する政府指定企業を設け、利益の海外移転(インボイスの過少記載)を防ぐ計画も発表しました。

しかし、海外投資家の間では懸念が広がっています。ダナンタラが大統領の社会政策の資金を賄う「都合のいい財布」と見なされているからです。プラボウォ大統領は、数十億ドル規模の児童や妊婦向けの無償給食といった巨額の看板政策を進めていますが、その経済効果は未知数です。逆にこれらの高額な社会福祉政策が国家財政を圧迫し、投資家が信頼の拠り所としてきた「財政赤字をGDP比3%以内に抑える」という規律の上限に迫る事態を招いています。コロナ禍を除くと、2025年の財政赤字は過去20年間で最高水準に達しており、財政の健全性が損なわれつつあると警戒されています。

信頼回復への抜本改革と今後の見通し

市場の警戒感は、アジア最高水準に達しているインドネシア国債の利回り上昇にも表れています。国債の利回りが高くなるほど、政府の投資家への利払い負担はさらに重くなります。

事態を重く見たプラボウォ政権は、市場の動揺を静めるため、市場構造そのものの抜本改革を明言しています。今年の3月には、金融当局が最低浮動株の比率を2倍に引き上げる措置を承認しました。しかし、透明性の確保にはまだ時間がかかりそうです。さらに、相場操縦の疑いがある市場の大物たちを実際に摘発できるかどうかなど、実行に向けた課題は山積しています。

関税問題や戦争で世界が揺れる中、インドネシアのアジア最安水準の燃料価格を抑制し続ければ、原油高のコストを国が背負うことになります。多くの新興国通貨が圧力を受ける中、ルピア、国債、株式の売りが今後も続けば、それはアジア経済全体の成長期待に陰りが出ている証拠となります。国際的な信頼を失い、インドネシアが閉鎖的で内向きな国へと後退してしまうことは、政府も経済界も含め、誰も望んでいない結末なのです。