BEI低下で利上げの必要性が低下、FRBの「振り上げた拳」はどうなるか
年内にFRBが利上げ実施するか否か(ないしは何回利上げをするか)については、(1)インフレ予想がすでに低下していること、(2)市場が利上げを織り込んでしまったこと、をどのようなバランスで考えるかによって決まってくるだろう。前述したように、長期のBEIは大きく低下しており、利上げによってインフレ懸念を落ち着かせる必要性はほとんどない。しかし、タカ派的なドットチャートによってFRBが市場に利上げを織り込ませたことで、インフレ懸念が収まったという面もあるだろう。FRBが利上げを実施しなければ、インフレ懸念が再燃するリスクもある。何よりも、FRBは信認を最大化する観点から、予想が外れて利上げが実施できなかったと捉えられることには抵抗があるだろう。「振り上げた拳」をどのように下ろしていくべきかという難しさもある。このように考えると、一種のパフォーマンスとして1度は利上げを実施する可能性はある。
ここで重要なことは、パフォーマンスとしての利上げは1回で十分だということである。6月のドットチャートでは、ちょうど半数の9名が年内の利上げを予想したものの、複数回の利上げを予想したのは6名にとどまっている。利上げ否定派の9名の考えも尊重するとなると、利上げはあったとしても1回が落としどころと考えられ、現在の市場の織り込み(約1.5回)はやや過剰なように思われる。
次に重要なのが、すでに市場に織り込まれた利上げを実施しないという決断をする場合には、相応の根拠が必要になるということである。長期のBEIの低下はその理由になり得るものの、利上げを撤回することで、市場データが一転して上昇してしまうリスクがある。そのため、利上げをすべきではないという方向の経済指標が必要になるだろう。経済指標は多数あるが、ホルムズ海峡の開放によって企業のデータは改善していくことが予想される(利上げを正当化するものが多い公算)。株高が進んだことを考慮すると、富裕層や資産家層の消費はある程度は押し上げられるだろう。このように考えると、原油高や金利高止まりの悪影響が大きい労働者層の経済指標の下振れがあるかどうかが重要になりそうである。金融政策の観点からは、言うまでもなく雇用統計が重要である。
筆者は、年後半の雇用統計が弱含むと予想しており、自然と利上げ観測が後退していくだろうと予想している。もっとも、この予想が外れて(振り上げた拳を下せずに)FRBが利上げを実施した場合でも、当面の利上げはこの1回にとどまり、長期金利は低下していくだろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)