トランプ米大統領は、世界各国への大規模な関税措置が連邦最高裁で違憲とされたことを受け、新たな手段を打ち出している。政権は、輸入関税の壁を立て直したい考えだ。

最高裁の判断を受け、トランプ氏はつなぎの措置として、日本を含む各国・地域に一律10%の輸入関税を新たに課しているが、7月に失効する。トランプ政権が準備しているのは、その先の段階の新たな関税だ。

新たな関税措置は、2025年4月2日に打ち出されたいわゆる「相互関税」と全く同じものになるわけではない。

関税の法的根拠を強化するため、米政府は多くの国を貿易上の不公正行為の疑いで調査対象としている。その中でも焦点となっているのが、強制労働規制と過剰生産能力に関する二つの調査だ。

こうした調査は、1974年通商法301条に基づいて実施される。全ての国が調査対象となっているわけではなく、一部の国は従来より低い税率となる可能性がある。一方で、状況が悪化する国もあり得る。

もちろん、トランプ氏の政策決定には予測不能な要素があると考えるべきだ。人工知能(AI)関連機器や農業用トラクター、ブラジル産コーヒーなどについては関税を免除する一方で、新たな品目を追加して対象範囲を広げることも可能だからだ。

日本の税率は

もう一つの焦点は、日本、インド、欧州連合(EU)、韓国、英国のように、米国との貿易協定によって、特に自動車関税などで、税率を低い水準に抑える取り決めを得ている国・地域の扱いだ。米当局者は、そうした協定は引き続き維持されるとの見方を示している。

もともと日本には2025年4月、25%の税率を課す方針が打ち出されていた。だがその後の日米交渉で関税率を15%とし、自動車・同部品に対する関税率も15%に設定することで合意に達している。

こうした中、米通商代表部(USTR)は今年6月、新たな関税案の中で、日本には12.5%を課す見通しを発表した。これを受け、尾﨑正直官房副長官は6月3日午後の記者会見で、日米政府は緊密に連絡を取っていると発言。今回の発表は最終的なものではないためコメントは控えるとした上で、昨年の合意が引き続き「強固かつ有効であることを再確認している」と述べた。

各国・地域において、次なる関税において想定される勝者と敗者を整理する。

勝者

フィリピン

2025年4月に打ち出された大規模関税では、フィリピンには19%の税率が課されていた。しかし、提案通りに強制労働を巡る関税が導入されれば、税率は12.5%となる見込みだ。フィリピンは過剰生産能力調査の対象ではないため、今後さらに関税が引き上げられる見通しもない。

その結果、25年4月時点と比べて税率が約7ポイント低下する可能性がある。今年最初の4カ月間の米国によるフィリピンからの輸入額は77億ドルとなり、2025年1-4月期比で51%増加した。

南アフリカ

トランプ氏は南アフリカ政府がアフリカーナー(南アの白人系住民)を差別していると繰り返し主張しており、25年4月、南アフリカには30%の関税率が課された。

この税率は、強制労働を巡る新関税のもとでは12.5%へ低下する見込みだ。4月までの南アフリカから米国への輸出額は35億ドルで、前年同期比56%減だった。

小規模経済国

米国との貿易額が100億ドル未満の国々は、新たな関税の恩恵を受ける見込みだ。一部の国は極めて高い関税率から最恵国待遇(MFN)税率へ戻る可能性がある。これは、多国籍企業が高関税を回避するためにサプライチェーンを移転する新たな候補地を生み出す可能性がある。

パキスタンの関税率は29%から10%へ、19ポイント低下する。ミャンマーは44%の関税を課されたが、大半の商品で0-2%程度に低下する可能性がある。ラオスやレソトも同様だ。

敗者

シンガポール

最終的な詳細は不透明だが、シンガポールは、新たな関税体制の下でほぼ確実に不利な立場に置かれそうだ。

というのは、2025年4月にシンガポールは、国別に税率が定められたいわゆる「相互関税」の対象となっていなかったためだ。しかし、今年初めの一律10%の関税はシンガポールにも適用された。

そして現在、その税率は上昇するリスクに直面している。シンガポールには、強制労働を理由とする12.5%の関税に加え、過剰生産能力調査に基づく追加関税も課される見込みだ。

シンガポールでは新たな関税障壁が問題であることを「強く認識している」と、ヒンリッヒ財団の通商政策責任者デボラ・エルムズ氏は指摘する。「シンガポールはこれまでは管理可能な10%の関税で済んでいた」が、今やさらに不利な状況に追い込まれるリスクに直面しているという。

また、これは米国の輸入業者にとっても厄介な問題となる。シンガポールは世界有数の積み替え拠点であり、多くの原材料が同国の港湾や工業地帯を経由して完成品として再輸出されているためだ。

まだ勝敗を判断できず

カナダ

一見すると、カナダは2025年4月時点よりも低い税率となり、より有利な立場にあるように見える。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の適格商品には重要な免除措置もある。それでも、金属製品を対象にした分野別関税が、カナダの産業を圧迫している。

トランプ氏は第1次政権で自ら取りまとめたUSMCAからの離脱をたびたび示唆しており、カナダの報復措置にも不満を表明している。たとえ脅しが交渉材料にすぎないとしても、今年後半に予定されるUSMCA再交渉を前に、カナダは安心できない状況にある。

メキシコ

メキシコは、自動車分野の関税率引き下げを求めている。韓国や日本から輸入される一部車両よりも高い税率が適用されていると主張しているためだ。

継続中のUSMCA協議の一環として、北米貿易圏内の自動車について、少なくとも50%を米国調達部品で構成するルールの導入を米国はメキシコに求めている。協議は少なくとも7月まで続く見込みで、メキシコへの貿易面での影響が短期的にどうなるかは不透明だ。

欧州連合(EU)

EUは米国から貿易協定の正式な取りまとめを迫られている。欧州議会とEU加盟国は、トランプ氏が設定した7月4日の期限までに、完成した協定文を批准するための採決を行う必要がある。

トランプ氏は、それまでに合意が成立しなければ、欧州製自動車への関税を15%から25%へ引き上げると述べている。一方、グリアUSTR代表はEUに対し、「合意は合意だ」と説明し、安心感を与えようとしている。

トランプ氏はつい先週、ドイツに対する301条調査を開始した。理由として「革新的医薬品に対する継続的な支払い不足」を挙げた。これに対し、ドイツのメルツ首相は、米国が欧州との貿易上の約束を順守すると期待していると述べ、医薬品の支払いに関する決定は国内問題だと付け加えた。

中国

中国は、第2次トランプ政権発足の当初と比べると格段に有利な立場にある。トランプ氏は2024年の大統領選挙期間中、中国に60%の関税を課すと公約していた。ブルームバーグ・エコノミクスの分析によると、現在の実効税率は約21%となっている。

米中両国は今秋、関税休戦の見直しを行う予定だ。それまでに多くのことが起こり得るが、中国の習近平国家主席は昨年、レアアース輸出を阻止することで、米国経済に対する中国の影響力を示した。

原題:Trump’s New US Tariff Wall Shakes Up Winners, Losers Lineup (1)(抜粋)

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