実質金利の上昇が株式市場でも意識されている可能性
6月22日の米国株式市場は、米国とイランの交渉進展が好感された一方、高値警戒感によってまちまちな展開となった。また、後述するように長期実質金利の上昇が続いていることも、株価の上値を抑える要因になっている可能性がある。むろん、足元の実質金利の上昇はFRBのタカ派懸念を反映したものだと予想される。仮に実質金利の上昇を背景に株価が大きく調整すれば、FRBは利上げを回避することになるだろう。言ってみれば、金融市場は人為的に引き締められている状況であり、その対応は難しいものではない。実質金利の上昇を背景とした株価の調整はガス抜き的なものにとどまるだろう。その間、米経済のファンダメンタルズを冷静に見極めることが肝要である。
FRBのタカ派化で実質金利が上昇し、BEIは低下
6月22日の米国債券市場は、原油価格が下落する中でインフレ予想が低下した一方、FRBの利上げ観測の高まりを背景に実質金利が上昇した。長期金利は前日差+5.6bp、2年金利は同+4.9bpとなった。足元の債券市場は、実質金利が上昇し、インフレ予想が低下していることが大きな特徴となっている。この日も長期実質金利は同+8.2bp、長期インフレ予想(BEI)は同▲2.4bpとなった。実質金利の上昇はFRBの利上げ観測の高まりが主因とみられる。また、インフレ予想の低下は原油価格の下落とFRBのタカ派姿勢によってインフレ懸念が沈静化していることが背景だろう。
デジャブと言えるドル高でBEI低下の流れは、「米国一強」の始まりか
米債市場の動きについてやや気になる点(違和感)があるとすれば、長期の実質金利が上昇していることである。仮にFRBのタカ派化によってインフレ予想が低下しているとすれば、長期の景気見通しも悪化し、長期の実質金利はそれほど上がらない(ないしはかえって低下する)と考えられるが、そうはなっていない。すなわち、現在の債券市場の動きを説明すると、①FRBのタカ派化観測で短中期の実質金利に上昇圧力がかかり、②その結果として長期のインフレ予想が低下するが、③実体経済は堅調推移が続くと予想されて実質長期金利は高止まり(ないしは上昇)している、という状況である。
このように整理すると、前述した違和感は、なぜ実体経済は堅調だとみられているのに、インフレ予想が低下するのか、という疑問に帰着する。教科書的な議論を持ち出せば、利上げによってインフレが落ち着く過程では実体経済の悪化が想定されているはずである。
おそらく実体経済の悪化を経ずにインフレ予想が低下している背景として重要なファクターは「ドル高」だろう。すなわち、債券市場は(a)利上げ観測→実体経済の悪化→インフレ低下というパスではなく、(b)利上げ観測→ドル高→輸入物価低下によるインフレ低下というパスを想定している可能性がある。この(b)のパスであれば、米国の実体経済は悪化せずにインフレ予想だけが低下していくことが可能となる。
仮にドル高になっていなければ、インフレ圧力を弱めるために(a)のパスによって実体経済を犠牲にする必要が出てくる。実際にドル高傾向が続いているが、この傾向は米国経済にとって非常に都合が良い。そして、このような動きはコロナ後のインフレ局面でもあった。デジャブである。コロナ後のインフレ局面では、各国がインフレ圧力を弱めるために通貨高競争力・利上げ競争と言える状況になったが、その勝者は利上げ余地の大きかった米国だった。ドル高によって(実体経済の悪化をほとんど経ずに)いち早くインフレ圧力の抑制に成功したFRBは利下げに転じるのも早かった。
実体経済の悪化を経ずにインフレ圧力を弱めることは、本来的には難しいはずである。しかし、これは閉鎖経済のイメージに過ぎない。変動為替相場下の開放経済では、インフレ高進のコスト増(実体経済の悪化)は、米国以外の他国が請け負うのである。具体的には、ドル高の反対側で他通貨が下落することで、通貨安によるインフレのコスト増を追加的に支払う国・地域が生じる。それらの国・地域ではコスト増によって内需が低迷する。米国以外の国・地域の需要が低迷することで、グローバルには実体経済が悪化し、需要サイドからインフレ圧力が弱まる。特にコモディティ価格にその影響が表れ、ディスインフレ圧力は米国にも伝わる。この流れは、米国経済にとって非常に都合が良く、「米国一強」に寄与することになる。米国だけをみれば、「ゴルディロックス相場」的だが、グローバル経済では「インフレ圧力が需要の低迷によって調整されただけ」という構図になるだろう。
今回も上記のような流れが再現し、気がつけば「米国一強」がテーマになる方向に進んでいるようにみえる。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)