高市政権と日銀は追加利上げに慎重な模様で、ビハインドのリスクが残る

6月15-16日の日銀決定会合後に行われた内田副総裁の会見では、将来の利上げ実施のタイミングなどのヒントはなく、総じて慎重なものとなった。直前にイラン情勢が改善して原油価格が下落したことで、先行きの不透明感が高まったことを考慮すると、想定内の内容だったと言える。

日銀は高市政権の意向を確認しながら利上げ余地を探っているという見方が専らである。今回の利上げについても、物価高対策(財政政策)の実施や消費税率引き下げの議論が本格化する中で、財政リスクや円安リスクが指摘され、債券・為替市場の安定化のために高市政権から利上げの許可が出たという見方がある。読売新聞は利上げが決定した理由について「最大の要因は高市政権が今回の利上げ判断を『静観』したことだった」とし、「高市首相と植田総裁の腹合わせはしている。決断は向こう(日銀)が下せばいい」(高市首相周辺)との見方が広がっていたと報じた。「高市首相には、『トラスショック』になってはいけないという思いがある」(首相に近い政府関係者)という(読売新聞)。
他にも、高市政権のスタンスが重要であるという視点の報道が目立った。今後の利上げについて、朝日新聞は「すんなりとは、いかない。景気にどう影響するか次第だろう」(官邸幹部)という声を紹介した。

米国とイランが戦闘終結に覚書に署名したことで、ホルムズ海峡は開放される見込みである。すでに原油価格は大きく下落しており、高市政権は追加的な利上げには慎重化していくだろう。日本株は好調だが、高値警戒感が強く、きっかけ次第で大きく下落する可能性が高まった。世論の評価は水準だけでなく、変化幅で決まる面もあり、政権も日銀も株価下落のきっかけを作りたくないというのが本音だろう。高市内閣の支持率も依然として高水準だが、下落余地が大きいと言い換えることもできる。

日銀は今回の決定会合で金融政策のフォワード・ガイダンスを修正し、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると」という文言を削除した上で、「現在の金融環境が緩和的であることを踏まえると」という文言を選択した。実質金利に必ずしもこだわらない姿勢を示唆し、政策のフリーハンドを確保することが重要だという判断だろう。利上げ方向の自由度を高める目的もありそうだが、利上げ停止に向けた準備であると、筆者はみている。いずれにせよ、「きわめて低い」(≒利上げによる是正が不可避)という表現を落とすことで、必ずしも利上げが必要ではないという状況になった。高市政権の意向を確認しながら、景気が悪化してきたので緩和的な状態を維持する(≒事実上の利上げ停止)という方向にコミュニケーションが変化していく可能性があるだろう。

もっとも、高市政権や日銀が利上げに慎重化する場合、そのスタンスがハト派的と市場で捉えられ、円安が進み、結果的に利上げのタイミングが早まる可能性もある(ビハインドザカーブ)。前述したように、今回の利上げは高市政権がOKを出したという見方が多く、ビハインドザカーブのリスクは小さくない。そのため、次回の利上げのタイミングも為替次第の面があると言わざるを得ない。とはいえ、現在の日銀のスタンスを考慮すれば、基本的には早期の利上げの可能性は低く、次回の利上げは、早くとも26年12月か27年1月だろう。なお、筆者は米国のインフレ率や雇用統計の下振れを予想しており、FRBが26年12月に利下げを実施すると予想している。これを前提に、日銀は追加利上げを実施することなく、今回の政策金利1.0%がターミナルレートになるという見通しをメインシナリオとしている。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)