(ブルームバーグ):米国とイランはエネルギー輸送の要衝、ホルムズ海峡を再開させる暫定的な和平合意に達した。イランの核開発計画を巡る協議開始でも一致し、60日間の交渉に道が開かれる。今年2月末の開戦以降、数千人の犠牲者を出し、世界経済とエネルギー市場を揺さぶり続けたイラン戦争がようやく終息に向かう。
両国が暫定合意を発表したことで、株式と債券が世界的に上昇。海峡の事実上の封鎖で上昇していた原油や天然ガス価格は下落した。
11月の中間選挙を前に燃料価格の上昇が支持率に響いていたトランプ米大統領は14日、「地域一帯に平和と安全をもたらす素晴らしい合意」を歓迎。同氏は自身の80歳の誕生日である同日に合意を発表できるよう、イランに圧力を掛けていた。
合意文書はすでに、トランプ米大統領とバンス副大統領、イラン議会のガリバフ議長によって電子的に署名されている。
戦争に巻き込まれていた中東諸国や市場では安どが広がっているものの、「覚書」と呼ばれる文書の細部を米国もイランもまだ詰め切れておらず、いずれも草案を発表していない。覚書は19日にスイスで署名される予定。
また、米国とともにイラン空爆を開始して戦争を引き起こしたイスラエルは、この合意に反対している。
週内に最終調整
パキスタンとともに主要仲介国を務めたカタールは、週内に米国とイランの代表団を受け入れ、署名に向けた最終調整や、イランの核開発計画を巡る新たな交渉日程を協議する予定だと、事情に詳しい複数の関係者は述べた。
14項目から成る覚書では、米国とイランは4月8日に合意した停戦を2カ月延長し、イランのウラン濃縮活動を約15年間制限するための新たな交渉を開始する。その期間内に最終合意に達しなければ、停戦をさらに延長できる。合意には複雑かつ技術的な協議が必要になることから、アナリストの多くは停戦が再延長されることになるとみている。
一方、覚書への署名と同時に、イランはホルムズ海峡を再開し、米国はイラン港湾への封鎖を解除する。ただ、イランの半国営ファルス通信が合意内容を知る関係者の話として報じたところによると、同国が通航料を取らずに自由な海峡の通航を認めるのは60日間だけで、その経過後は海峡を通過する商船に対し、安全や航行の案内、環境、保険に関するサービス料をイランは課し、収益を得る計画という。
停戦協議は複数の争点により長引き、過去1週間は双方が互いを攻撃して停戦が崩壊寸前となる場面もあった。カタールなどに保管されているイランの数百億ドルにも及ぶ凍結資産の解除に米国が同意するか、イランが高濃縮ウランの備蓄放棄を受け入れるかどうかなどが主な争点とされた。
イスラエルは交渉に直接関与していない。同国では米イランの合意について、イランの弾道ミサイル開発を制限しないまま過度に譲歩しているとして、懸念が広がっている。
合意によってレバノンを拠点とする親イラン派武装組織ヒズボラに対する軍事作戦の縮小を強いられるとの不安もある。
トランプ氏はアクシオスに対し、14日正午ごろにイスラエルがレバノンの首都ベイルートを攻撃したことが署名の遅れにつながったと語った。攻撃直後にトランプ氏はネタニヤフ氏に電話し、合意を危うくする行為で、「分別がない」としっ責したという。
イスラエルは、ヒズボラとの戦闘縮小やイスラエル領への攻撃阻止について行動の制限は受け入れないと主張している。
19日にスイスで行われる署名式には、バンス米副大統領が出席する見通しで、トランプ氏の出席もあり得る。正式な合意が成立すれば、国際エネルギー市場を動揺させ、インフレリスクを高めた軍事衝突が直ちに再発する不安の払拭(ふっしょく)につながる。世論調査結果によれば、米国民の間でイラン戦争は極めて評判が悪く、11月の中間選挙を控え、トランプ大統領が直面する政治的圧力も幾分和らぐと期待される。
トランプ氏は「合意が19日に署名されれば、海峡を再開させる」とトゥルース・ソーシャルへの投稿で言及した。「機雷の除去が目的」としたが、未解決の部分が残る可能性がある。イランは、ホルムズ海峡を通過する船舶は同国とオマーンが管理すると主張し、海峡への一定の支配力維持を目指す構えだ。
パキスタンのシャリフ首相も米とイランが和平合意に達したとX(旧ツイッター)に投稿した。首相によれば、双方が「軍事作戦の即時かつ恒久的な終了」を宣言した。交渉の障害となっていたレバノンでの軍事作戦終了も合意に含まれるという。
イラン国営メディアは今回の合意を「米国による降伏」と表現した。「イランは敵対する米国とイスラエルにあらゆる戦線で戦争終結を強いた」と国営テレビは伝えた。複数のイラン当局者によると、合意文書は署名後に公表される。
世界の石油および液化天然ガス(LNG)供給量の約20%が通過するホルムズ海峡は、イラン戦争の影響で実質的に封鎖され、石油・LNGタンカーなど数百隻の船舶は身動きの取れない状態が続く。ペルシャ湾への出入り口を通る船舶の航行は今も著しく妨げられ、通航量は戦前の水準と比べごくわずかに過ぎない。
トランプ大統領は、戦争の引き金となったイランの核能力や弾道ミサイル計画の問題について、先送りしているだけと批判する国内のイラン強硬派から激しい反発に直面する恐れがある。
イランがどのような経済的インセンティブを受け取るかも不明だ。米高官が12日に記者団に語ったところでは、米国が示した一連の要求をイランが満たすたびに経済的見返りを得るという枠組みが検討されているという。イラン全土の何千カ所を標的とした米軍とイスラエル軍の空爆被害に対し、復興支援を受ける要素が含まれることもあり得る。
合意発表から数分後の段階で、米とイランは既に今回の合意を既に異なる視点で捉えており、イランの核開発プログラムを巡る未解決の問題で合意に至る困難さを浮き彫りにする。

Etoroのアジア太平洋・中東担当首席アナリスト、ジョシュ・ギルバート氏は「これはなお楽観的な動きであり、確実なものではない。合意が署名されるまで不安が完全に解消されることはなく、投資家は引き続き慎重にも慎重を期すべきだ」と指摘した。
トランプ大統領は合意を歓迎しつつも、14日の米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、イランと核合意が成立しなければ、軍事攻撃を再開する可能性があると語った。
イランは60日の交渉期間を通じて、同国に対する「全ての一次・二次制裁および決議の撤廃」を求める意向を示した。これには最も厳しい制裁を科した米議会の承認が必要となるほか、トランプ氏がイランに圧力をかける優位な手段を手放すことを不安視する対イラン強硬派から強い非難を招く公算が大きい。
イラン側は、海外の銀行口座で凍結されている数十億ドルへのアクセスに加え、制裁の長期的な制裁緩和も要求している。英独仏伊を含む欧州数カ国は14日、最終合意が成立すれば関連する制裁を解除する用意があると表明した。
原題:US and Iran Reach Deal to Reopen Hormuz Strait This Week (2)(抜粋)
(第4段落に合意文書がすでに電子署名されていることを追記します)
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