(ブルームバーグ):借金を嫌う日本企業が現金温存型の経営から転換しつつある。過去最高水準に達したM&A(企業の合併・買収)や株主還元、成長投資に絡む支出が膨らみ、有利子負債は増加傾向だ。格付け会社は財務リスクの高まりを警戒している。
ブルームバーグのデータによると、日経平均株価を構成する企業の有利子負債残高は合計678兆円と、前年度比4.6%増えた。これと並行し、主要格付け会社3社による日本企業の格下げ件数も増加している。
バブル崩壊を経験した日本企業は長年にわたり、危機に備え現金を潤沢に保有し、負債を抑える経営姿勢を続けてきた。しかし最近は、コーポレートガバナンス(企業統治)改革の進展やインフレの定着に加え、投資家から資本の積極活用を求める圧力が強まっている。
S&Pグローバル・レーティングの柴田宏樹マネージングディレクターは「この流れは負債レバレッジの上昇や資金調達における社債市場への依存拡大につながる可能性がある」と指摘。株主価値の向上や資本効率の改善を目指す動きではあるが、「財務バッファーが縮小するため、金融リスクは高まる」とみている。
日本企業の財務戦略の転換点で、格付け会社の動きも活発化してきた。S&Pは今年、日本企業19社の債務格付けを引き下げた。昨年は7社だった。ムーディーズでも格下げが前年の5社から19社、フィッチ・レーティングスも1社から7社に増えた。
日本製鉄は140億ドル(約2兆2400億円)規模でのUSスチール買収に伴い、直近会計年度の手元資金が約3割減少し、有利子負債は倍増した。財務負担の拡大を理由に、S&Pは同社を格下げした。昨年11月には日産自動車も格下げし、競争力強化に向けた投資負担の重さから、自動車事業のフリーキャッシュフローは今後1-2年にわたりマイナスが続くと予想している。
上場子会社SCSKに対する株式公開買い付け(TOB)で財務余力が低下する可能性があるとし、S&Pは住友商事の格付け見通しも「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。
プライベートエクイティ市場
人口減少による国内市場の縮小で日本企業は成長機会を海外に求め、M&Aを活発化させている。同時に借り入れによる資金調達も増えており、S&Pは海外企業の統合は国内案件に比べ難易度が高いと指摘している。
日本はアジア太平洋地域で有望なプライベートエクイティ(PE)市場の一つとして存在感を高めている。企業買収を巡る資金需要の拡大は、PEファンドが主導する案件でも鮮明だ。
インクレッド・グローバル・ウェルスのポートフォリオマネジャー、タヌジ・コスラ氏は「注目すべきは案件そのものではなく、その資金調達方法だ」と指摘。日本における最近のレバレッジド・バイアウト(LBO)案件では負債倍率がEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の11倍に達するケースもあり、アジア地域で一般的な水準である4.5倍以下を大きく上回っているという。
銀行業界に波及も
借り入れ主導の資金調達拡大は銀行業界にも波及しつつある。企業向け融資が増える一方、預金の伸びが追いつかなければ、銀行はより高いコストでの資金調達を迫られる可能性があるからだ。
BNPパリバのアジア・クレジット分析責任者、クリストファー・リー氏は「一部の銀行や保険会社では、M&Aや積極的なバランスシート拡大によって自己資本指標が悪化している」と言う。
もっとも、現時点で日本の銀行は自己資本比率や普通株等Tier1(CET1)比率などの主要指標をおおむね経営計画や格付け会社の想定範囲内で維持しており、格付けに影響を及ぼす事態には至っていない。
企業の資金調達環境も現時点では大きく損なわれていない状況だ。日本銀行の追加利上げ観測を背景に、社債発行の際は長期債や超長期債よりも短期債を選好する動きが広がっているが、短期金利はなお低水準にとどまっている。
HSBCホールディングスのアジア担当チーフエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏は「日本の長期金利の上昇は企業の資金調達コストを押し上げる」と予測する半面、債券市場の値動きが荒くなっている中で「国債発行計画を巡る不透明感やインフレ見通しを背景に、投資家はデュレーションを短縮する方向に向かう可能性が高い」ともみている。
UBPインベストメンツのシニア・ポートフォリオマネジャー、ズヘア・カーン氏も「日銀は短期金利を慎重に引き上げているため、短期ゾーンでの資金調達コストは依然として低い」との認識だ。カーン氏によると、設備投資の多くは借り入れだけでなく営業キャッシュフローや既存の手元資金によって賄われている。
130兆円の余力
日本企業は依然として現金を潤沢に保有している。ブルームバーグの集計によると、東証株価指数(TOPIX)構成企業のうち金融を除く1200社余りの現金・預金残高は2025年末時点で130兆円とこの10年で84%増えた。「現金の山はいずれ減るだろうが、それはまだ数年先の話だ」とカーン氏は話す。
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