(ブルームバーグ):ジャスティン・シュリラム・キーリング氏はジャーナリストや起業家、ベンチャー投資家として、人生の大半をゲーム業界の内外で過ごしてきた。
情熱的なクリエーターとファンによって成り立つ混沌(こんとん)とした業界の中で、多くのトレンドの盛衰を見てきたが、同氏が一貫して賭けてきたのは知的財産(IP)の可能性だ。
数年前には、インドの新興ゲーム市場に焦点を絞ったベンチャーファンド、ルミカイを立ち上げた。スタートアップのアーリーステージ(初期段階)に投資するファンドだ。
キーリング氏は今、ケンセイ・キャピタルと共にゲーム業界に戻ってきた。ケンセイは成長段階のゲーム開発会社向け資金提供を行う投資会社で、5億ドル(約800億円)を集め、事業拡大を目指す開発会社への投資を進めるという。サンフランシスコでの18日の講演の前に話を聞いた。
ゲーム業界は何に苦しんでいるのか。ゲーム人気が過去最高水準にある一方で、人員削減やスタジオ閉鎖が相次いでいるのはなぜか
ゲーム機とPC(パソコン)ゲームの売上高全体は、インディーズやサブスクリプション、そしてロブロックスのようなプラットフォームで一定の成長はあるものの、基本的には横ばいだ。もちろんアジア市場は引き続き好調だ。ただ、縮小をもたらしている主な要因は3つある。
従来型のAAA(超大作志向)の開発会社やパブリッシャー、とりわけ西側市場の企業は、新たな市場環境への適応に苦しんでいる。過去数年で4万人超の人員が削減された。これはAI(人工知能)が雇用を奪っているというより、人材のグローバル化、西側における高い開発コスト、そしてユーザーの望むものを見失ったことなど、より深い構造変化によるものだ。
多くのゲーム系VC(ベンチャーキャピタル)はコンテンツ投資から軸足を移した。新型コロナウイルス禍のバブル期に有名クリエーターへ資金を投じ、大きな損失を被ったケースが多かったからだ。95%のケースでうまくいかなかった。
マクロ経済要因とサプライチェーンの混乱により、ハードウエア価格が全面的に上昇している。状況は改善する前にさらに悪化するだろう。
現在の業界状況は過去のどの局面かを想起させるものか。それとも全く新しい局面なのか
ゲーム業界は1980年代のクラッシュ以降、常にサイクルを経験してきた。ただ、30年間この業界に身を置いてきた立場から言えば、現在は明らかに特異な局面だ。
既存パブリッシャーや一部投資家は、プレーヤーの好みとますます乖離(かいり)している。特にハードウエアのサプライチェーンを巡るマクロ経済の逆風が、2027年に予定されていた次世代コンソール投入直前に価格面の問題を生んでいる。そして、生成AIという世代的なテクノロジーシフトによる存在論的な脅威と機会がある。三重苦だ。ゲーム需要そのものはかつてなく強いが、その形が変化しただけだ。
あなたはゲーム開発拠点の一つである日本を拠点としている。日本での状況は世界全体に共通するものか、それとも独特なのか
日本、そしてアジア全体は依然として世界的な例外だ。
文化的に見ると、この地域のゲーム業界の経営陣はより長期的な視点を持っている。企業文化やスタジオのカルチャーは過敏ではない。CEO(最高経営責任者)は自らの方針を貫き、過剰採用を避け、人材とIPに時間をかけて投資し、それが輝くまで育てる。その成果として、西側と比べ人員削減が少ない状況が表れている。セガやコナミなど日本のパブリッシャーは中央値ベースの給与を引き上げた。
ここ1カ月だけでも、韓国発のオリジナルIPである「紅の砂漠」や、カプコンの「プラグマタ」が数百万本規模で売れている。カプコンは今年、絶好調だ。これは文化、組織知、そして人材とIPへの長期投資の成果であり、突然生まれたものではない。
あなたは現在、業界が過小評価されているとの考えに基づき、自己資金を投じている。特にどの部分を有望と見ているのか。人材、IP、それともテクノロジーか
業界の需給には根本的なミスマッチがあり、それが常に新しいアプローチにとって肥沃な土壌となる。過去2、3年で、極めて優秀でクリエーティブかつ技術力の高い人材が何万人も解雇された。非常に厳しい状況だ。
その一方で、ゲーム業界の人材流動性はかつてなく高まっている。そして彼ら全員が夢のプロジェクトやアイデアを持っている。同時に、需要の強い分野も各地に存在する。アジアIPは過去最高レベルの強さを持つ。個人のデベロッパーや「triple-i」など多くのインディー開発者が成功している。
ソニーがテレビや自動車などハードウエア事業から距離を置いてきたことを見れば分かるように、将来の価値がIPとコミュニティーにあることを理解している。ただ、この市場では、コミュニティーが本当に何を望んでいるかへの深い理解と、経験から得られるパターン認識が必要だ。
ファンド運営について詳しく聞きたい。スタジオのライフサイクルにおける特定の課題を対象としているのか
われわれは従来型ファンドとは少し違う。シードからシリーズA/B段階には、既に非常に優秀な投資家が数多く存在する。われわれが通常参入するのはもっと後の段階、シリーズC、あるいは理想的には出口戦略やIPO(新規株式公開)前の最後の機関投資ラウンドだ。
われわれは主導的な投資家にはならないが、通常の投資額は1000万-2000万ドルだ。そのため、既に多くの審査、助言、教訓の蓄積を経た案件を見ることができる利点がある。
成長段階では投資家との対話が財務評価や出口時期に集中しがちだ。しかし私はまず起業家であり、30年間にわたり企業を始め、売却してきた。われわれはゲームとコンテンツ分野の後期投資に、より事業運営者主導のアプローチを持ち込もうとしている。
ファンド出資者を説得するのはどれほど難しかったのか。AIを掲げていない分野へのベンチャー投資にまだ需要はあるのか
われわれは少し特殊な状況にある。ケンセイは5つのUHNW(超富裕層)グローバルファミリーオフィスで構成されており、その関係は何世代にもわたる。各ファミリーはいずれも非常に歴史が長く、合計で800年以上の商業の歴史を持つ。非常に強い信頼関係がある。
各ファミリーには共通の課題がある。アーリーステージのファンドや起業家に直接投資するリスクは負いたくないが、最もリスクを抑えた形で優れたIPや新興技術へのエクスポージャーは持ちたいという点だ。
AIについて言えば、その流れはもう止められない。今後は、どう向き合うかを慎重かつ持続可能に考える段階だ。ゲーマーの懸念は理解している。私自身もゲーマーであり、懐疑的だった。しかし、既に存在しており、消えることはない。理想的には、開発会社がゲームに生成AIを利用する場合、ストア上で明確に表示し、ユーザーが支持するかどうか判断できるようにすべきだ。
ケンセイでは、生成AIによる制作効率化の議論にはそれほど重点を置いていない。ゲームは常にテクノロジー主導のアート形態であり、われわれが関心を持つのは、そのテクノロジーによって可能になる全く新しい体験だ。
例えば、われわれは京都で元任天堂のベテランたちによるプロジェクトを育成している。そこでは、創発的プレーの全く新しいカテゴリーが作られている。私の妻や母は既にその試作品に夢中だ。彼女たちは自分がゲームをしていることにすら気付いていない。
投資対象は日本のスタジオか、それとも世界全体を見るのか。有望なゲーム開発チームを判断する基準は何か
完全にグローバルだが、現在はコンテンツ分野が特に好調なアジアに一定の重点を置いている。ただ、ゲームコンテンツへの資金提供は少し特殊だ。スタジオは一度成功すると急速に収益性が高まり、その後は資金調達が不要になることがある。
初期段階のチームであっても、強いビジョンや試作品を持ち、業界のパラダイムを変える可能性があるとわれわれが判断すれば、積極的に検討する。
大手VC投資家が主導権を握る従来型のトップダウン方式は、もはやコンテンツ分野では機能しない。こうした投資家の大半は成功したゲームを作った経験がない。IPクリエーター側が主導権を持っており、彼らのビジョンと確信が優先されるべきだ。
われわれはプロジェクトファイナンスと、より伝統的な株式投資モデルの両方に対応する。関係する人々とプロジェクトにとって最適な形を選ぶ。
ゲーム業界の今後数年をどう見ているか。現在が再編局面の終盤だとすれば、その先には何が来るのか。そして、その流れにどう関わりたいのか
われわれは再編局面の終盤にいる。中国の投資家は後退しており、中東の政府系ファンドもLIVゴルフのような失敗を受けて慎重になっている。
ハードウエア価格の問題は今後も続くだろう。スタジオとユーザーの間では生成AIを巡る綱引きが続き、最終的には市場がその採用水準を決めることになる。より興味深いのは、単なる「XとAI」の組み合わせのような一過性の実験ではなく、心地よく、共感しやすく、摩擦のない全く新しいエンターテインメントカテゴリーが現れ始める点だ。
アジアは特にコンテンツ面で引き続き台頭するだろう。誰もが「鬼滅の刃(やいば)」や「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」の数字を見ている。われわれが見てきた27-30年を見据えた日本と中国、韓国のクリエーターによるプロジェクトの中には、その両方を野心の面で上回りながら、西側に見られる価格リスクのごく一部にとどまるものもある。インドのような新興市場もそれほど遅れていない。
新しいIP、新たなテクノロジーへの持続可能な投資、新しい市場への投資がなければ、市場は成長できない。
原題:Markets Undervalue Video Game IP, Investor Says: Tech In Depth(抜粋)
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