債券市場の重要なシグナルで判断すれば、人工知能(AI)ブームはケビン・ウォーシュ次期米連邦準備制度理事会(FRB)議長のインフレ面での難題をさらに悪化させている。

ウォーシュ氏はこれまで、AIの技術革新が生産性を高め、「大きなディスインフレ圧力」を生み出し、政策当局者による利下げが容易になるとFRBが認識できていないと批判してきた。

しかし、ウォーシュ氏の就任を22日に控え、戦争による物価ショックで30年債利回りが約20年ぶりの高水準に上昇。こうした中で、ウォール街のアナリストらは、少なくとも現時点ではAI技術がインフレ、ひいては借り入れコストの軌道にウォーシュ氏の見立てとは逆の影響を及ぼしていることが、広く使われる指標で示唆されていると指摘する。

市場指標の1つで、5年後から5年間の実質金利の見通しを示す数値によれば、米政策金利が中期的に経済成長を刺激も抑制もしない中立的と見なされるにはインフレ率を約2ポイント上回る必要がある。現在の政策金利は約3.6%で、インフレ率を下回っているため、金融政策はなお景気を刺激していることになり、ウォーシュ氏が利下げできる余地は狭まる。

中立金利の推計には、長期的な成長率やインフレ率の見通しなど、複数の要因が関係する。中央銀行当局者は、それを正確に見極めるのは難しいと指摘している。

だが、アナリストらはAIブームが資本需要を高め、インフレ圧力をあおることで、中立金利を押し上げる一因になっているとみている。

大手テクノロジー企業4社だけで、データセンター、コンピューター機器、電力インフラへの投資として今年7000億ドル(約111兆円)超を支出する計画だ。

さらに、AI革命を支える半導体への需要が世界的に急増し、その価格や、半導体に依存する製品の価格を押し上げる、いわゆるチップフレーションがある。米国ではコンピューターソフトウエアと付属品の価格が4月に前年同月比14%上昇した。ブラックロックのアナリストらは、DRAMチップの価格が過去1年で17倍に上昇したと指摘している。マイクロソフトやメタ・プラットフォームズなどは、一部製品の価格を引き上げている。

コメルツ銀行の金利・クレジット調査責任者、クリストフ・リーガー氏は「当社の基本シナリオは、AIが今後数年のインフレ上昇に寄与するというものだ」と述べた。

債券市場には、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アルファベットなどのテクノロジー企業による新発債が大量に流れ込み、米国債にさらなる圧力をかけている。これらの企業はAI関連投資の資金を調達するため、すでに米投資家向けに3000億ドル超の債券を発行した。ダラス連銀は、その市場への影響は、長期の米国債の供給が10%超増えた場合におおむね相当すると推計した。

JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「AI関連の起債は金利水準を押し上げ、それが借り入れコストの上昇につながっている」と指摘した。

予想を上回るインフレと長期債利回りの急上昇は、ウォーシュ氏がパウエル現FRB議長の後任となる上で直面する課題をさらに重くしている。トランプ大統領はパウエル氏がより迅速に利下げをせず経済の足を引っ張っていると繰り返し主張した後、ウォーシュ氏を次期議長に指名した。

ウォーシュ氏は11月の米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、インフレの高止まりが続くと予想したFRB当局者を批判し、AIによる生産性向上を織り込んでいないと指摘した。先月は原油価格の急騰を受け、消費者物価指数(CPI)が前年比3.8%上昇し、2023年以来最大の伸び率となった。これが最近の債券売りにつながった。

米国とイランの戦争と、その後の原油価格急騰も一因となってインフレが再燃する中、先物トレーダーは、FRBが12月までに利上げを迫られる可能性が高いとさえ見込んでいる。

RBCキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者、ブレーク・グウィン氏は「仮説に基づく利下げは根拠が脆弱(ぜいじゃく)だ」と述べ、「市場はそれをあまり受け入れていない」と指摘した。

原題:The AI Boom Is Making Warsh’s Bond-Market Bind Even Worse(抜粋)

--取材協力:Davide Barbuscia、James Hirai、Ryan Vlastelica、アンスティー・クリストファー.

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