(ブルームバーグ):海外の視聴者や読者にとって、高市早苗首相は近年の日本のトップの中で最も認知度の高い人物の1人だ。トランプ米大統領とハグを交わしたり、韓国首脳とドラムをたたいたりする姿は、これまでの地味な歴代首相にはなかった注目を集めてきた。
だが国内では、高市首相への取材機会の少なさに報道機関の不満が高まりつつある。高市氏は就任以来、国内外で相次ぐ重要事案に直面してきたにもかかわらず、メディア対応の回数は過去15年の首相の中で最も少ない。ぶら下がり取材や個別インタビューを避け、主にX(旧ツイッター)で発信する傾向が強い。
さらに、政治家や自民党関係者との恒例の夜の会食を控える姿勢も相まって、一部論者は高市氏を「引きこもり」と呼んでいる。
メディア対応を避けているとの批判は、2月の衆院選に伴う選挙戦から続いている。当時、高市首相は関節リウマチによる手の負傷を理由に、NHKで行われた野党党首らとの討論会を欠席した。ただ、一部から「逃げ」と見られている行動は、従来型メディアを以前ほど重視していないスタンスの表れに過ぎない。
トランプ大統領との類似点を挙げ過ぎるリスクはあるものの、高市首相がトランプ氏と共通している点の一つは、SNSを通じて有権者に直接語りかける姿勢だ。高市氏は、記者が質問できた数少ない機会の一つで、首相就任以降、できるだけ毎日主にXで発信するようにしていると回答。タイムリーに知らせたいという点や、リプライ機能から国民のフィードバックを直接受け止めることができると述べた。
実際、日本のXの1日当たりアクティブユーザー数は世界最高水準だ。政府発表も、例えば船舶のホルムズ海峡通過確認などはX経由で行われることが多い。財務省は国内ブログプラットフォームに専用ページを設け、予算やインフレ対策を説明している。高市氏の報道担当も最近、Xアカウントを開設し、首相の架空発言を投稿する英語アカウントに直接反論している。高市首相が元々テレビキャスターだったことを考えると、皮肉な変化でもある。
記者クラブ
どの国でも報道機関は特別なアクセス権を当然視している。しかし、日本では、記者クラブ制度によってその傾向が特に強かった。記者クラブは省庁などへの特権的アクセスを持つ記者の閉鎖的な集まりで、取材対象と近過ぎると批判されることもある。この制度も、情報発信手段を独占できなくなれば、他国メディア同様に中抜きの波にさらされ、存在感を失う可能性もある。
企業広報でも、トヨタ自動車や任天堂などは、既存メディアを介さず顧客に直接情報を届ける「オウンドメディア」戦略を進めている。米OpenAIのようなAI企業も、新機能発表をユーザーに直接届けており、サム・アルトマン氏のX投稿だけで公表されることもある。マーク・ザッカーバーグ氏らシリコンバレーの経営者も従来型メディアのインタビューより、3時間のポッドキャスト出演を選ぶ傾向が強まっている。
そこには、発言を文脈から切り取られたり、「失言狙い」の質問を浴びせられたりするリスクが低いという事情がある。また、こうした長時間で自由度の高い形式は、甘い質問ばかりになるとの懸念がある一方で、視聴者からの信頼を高めている。
不信感は双方向
トランプ政権はポッドキャスターやオンラインインフルエンサーを積極的に取り込み、ホワイトハウス取材資格の申請を促す一方、既存メディアを締め出してきた。トランプ氏は、政策をSNSで発表する政治家の代表格だが、同時に従来メディアの熱心な消費者でもある。だが、今後の政治家は、全く異なる情報環境で育っており、既存メディアからの評価をそれほど気にしなくなるだろう。
個人がニュースレターなどを配信できるオンラインプラットフォーム「サブスタック」の登場で、誰でも論評者になれる時代になった。多くのニュースサイトのアクセス数が減少する中、サブスタックが数少ない成長サイトの一つとなっているのも不思議ではない。
記者クラブ制度を批判してきた人々にとって、このアクセスの民主化は歓迎すべきことかもしれない。ただ、それが良いことかどうかにかかわらず、テクノロジーは今後も公人と社会との関係を変え続けるだろう。
日本の首相がぶら下がり取材に応じ始めたのは2000年代初頭のことだ。テレビの力を利用し、国民に直接発信する狙いがあった。しかし、今では若者はテレビだけでなく、TikTokからもニュースを得る。新聞発行部数は15年で半減し、実業家・西村博之氏のようなインフルエンサーやユーチューバーの方が、報道機関以上に世論へ影響力を持っているとも言える。
メディア側は高市氏に警戒感を抱いている。高市首相は総務相時代、報道内容に政治的偏りがあれば放送局への規制もあり得ると示唆したことがある。だが、不信感は双方向だ。時事通信のカメラマンが高市氏の「支持率が下がるような写真しか出さねえぞ」と発言したことがマイクに拾われた件は、その一例だ。
報道と権力の旧来の関係が揺らぐ中でも、メディアには説明責任を求める役割がある。だが、政治家が依然として情報発信をメディアに依存していると思い込むべきではない。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Takaichi’s Press Snub Bypasses Another Tradition: Gearoid Reidy(抜粋)
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