ロシアのトップレベルの工科大学に通う学生らは、魅力的な提案を受け取っている。1年間休学して軍のドローン(無人機)操縦士になれば、500万ルーブル(約1100万円)余りの報酬が支給され、大学復帰後の授業料は無料になるという。

バウマン記念モスクワ国立工科大学で配布されたパンフレットによると、無人システム部隊に志願した学生は、前線から遠く離れた場所でドローンを操縦する。それでいて、戦闘参加兵士としての資格も得られる。

ロシア全土で、こうした学生への勧誘が幅広く行われている。高額の入隊報酬と休学制度、さらには露骨な圧力まで用いて若者を戦闘に参加させようとしている。高等教育と学生の問題を専門的に扱う独立系メディア「グローザ」によると、軍との契約を積極的に後押ししている大学や教育機関は、少なくとも270に上る。

ロシア人の徴兵回避や国外脱出を支援するプロジェクト「イディーチェ・レーサム(放っておいてくれの意味)」に関わるイワン・チュヴィリャエフ氏は、「大学は新兵調達の場に変ぼうした」と指摘。「多くの男子学生にとって、大学進学の最大の理由は徴兵の猶予を得ることだったが、その道がもはやふさがれた」と語った。

学生に対する活発な勧誘活動は、5年目に入ったウクライナ全面侵攻を継続するためロシア当局が状況に合わせて対応を変化させている様子を示す。これまでに集中的に軍に取り込んできた受刑者らはほぼ動員し尽くされた可能性があり、従来の入隊キャンペーンからほぼ守られていた層に注目が向き始めた。ロシア軍が戦闘で大きな損失を被り、新兵調達が喫緊の課題となっているという事情もある。

ロシアの高等教育機関や大学に在籍する男子学生は200万人以上おり、若く訓練可能な大量の人材供給源となり得る。軍が大規模な拡大を計画しているとされ、ウクライナでの戦争で重要性が増した無人部隊にうってつけの専門的技能を備えている者も多い。一方で、将来国を支えるはずの若者の命を危険にさらすことにもなる。

大学で志願者向け独自部隊

チュヴィリャエフ氏によると、イディーチェ・レーサムには、全国数十の大学に通う学生や親から支援の要請が100件以上寄せられている。学生たちは講堂や強制参加の会合に集められ、軍への入隊を勧誘する宣伝文句を聞かされるという。

こうした勧誘活動を主導しているのは大学や高等教育機関の側で、大学の当局者がその代表者となる場合もある。モスクワ国立法律大学の学長は、入隊契約に署名する複数の学生に付き添い、学生らを「勇敢で価値があり、責任ある行動」だと称賛する演出を行った。

同大学と、モスクワのプレハーノフ記念ロシア経済大学は、いずれも学生志願者向けの独自部隊を編成している。

両大学の担当者はコメントの要請に応じなかった。

サンクトペテルブルク国立医科大学の宣伝資料では、「eスポーツ選手やドローン操縦者、ゲーマー、プログラマー」を勧誘の優先対象とし、ロシアの平均賃金を大きく上回る最大340万ルーブルの報酬を提示している。ウラジオストクの極東連邦大学は地元メディア向けの発表文で、軍務期間中の休学と、復学後の学費と寮費用の無料を提供していると認めた。

他の大学も、免税措置の適用や最大1000万ルーブルのローン免除、さらには土地の無償提供などをそれぞれの公式サイトで宣伝している。

退学の脅し

勧誘担当者らは、無残な「人間の盾」として使われる歩兵部隊とは異なり、無人システム部隊は比較的安全だと主張する。だが、匿名を条件にした学生らは、入隊を拒めば学業上の不利益を被る可能性があると大学から脅されることもあると語った。

退学させるとの脅しを受けたと話す学生も複数いた。グローザがソーシャルメディアのテレグラムに投稿した動画によると、カザン・イノベーション大学の学科長は複数の学生に対して既に退学処分になったと告げ、復学する唯一の方法は軍の勧誘担当者と話すことだと述べたという。

カザン・イノベーション大学はコメントの要請に応じなかった。

「学生からこれほど多くの相談を受けたことはない」と、ウクライナへの全面侵攻開始後にロシアを離れたグローザ編集長のポリーナ・ウソルツェワ氏。「何百件も届いている。全て絶望感の表明だ」という。

ロシア当局は、学生への圧力を否定している。国防省当局者は4月、学生たちは自発的に契約しており、強制はないと主張した。科学高等教育省も同日、入隊への署名を強要するために学生を退学処分にしているとの報道を否定したと、インターファクス通信が報じた。

ただ、勧誘時には1年間の軍務であることが強調されているものの、それは誤解を招く恐れがあり、ロシアの現在の戦時法制下では軍からの離脱は難しい可能性があると、法律専門家は指摘している。

2022年の部分動員後にロシアを出国し、現在はドイツを拠点とする弁護士アルチョム・クリガ氏は、ウクライナ侵攻が終結するまで軍務契約の解除はできない仕組みだと説明。また、一度契約すれば、軍は志願者を他部門へ配置転換することも可能で、歩兵として前線に送られることもあり得ると述べた。

BBCは今月初め、この戦争に駆り出された学生の初の死亡例を確認したと報じた。死亡したのは4月で、入隊からわずか3カ月後だったという。

一方、この勧誘活動で多くの志願者を集められているかは定かではない。

スベルドロフスク州では、過去5カ月間で入隊の契約に応じた学生は21人しかいないと、エカテリンブルク徴兵センター長のドミトリー・デメンコフ氏は4月に地元テレビに対して説明した。その大半は技術系の学校や専門学校の学生で、大学生の志願者はほとんどいないと述べた。

原題:Russia Presses College Students to Fill Ranks of Drone Pilots(抜粋)

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